ちゃんと理由も書いて婚約破棄してくださいっ
「え、これなに?」
わたしは郵便受けのまえで唖然としました。
手には一通の葉書。
「え? え?」
何度も差出人の名前を確認しますが、そこに書かれているのは婚約者の名前で間違いありません。
筆跡も、几帳面なあの人のもの。
わかりますよ。
字も好きなのだから。
もう一度、内容を読みます。
『申し訳ないが、婚約は取り消しとさせてください。グッバイ』
「いやいや、グッバイじゃないでしょうが!」
思わず叫んでしまいました。
ノリが軽くないですか?
いや、でも――
メールとかラインで言われるよりはちゃんとしているのかも?
こうやってわざわざ筆をとって切手を貼って送ってくださるあたりが、さすが年上というものなのかもしれません。
……本当に?
わたしは混乱しながらリビングに戻りました。
テーブルに葉書を置いて、コップに麦茶を入れ、ゆっくり飲みながらもう一度考えます。
「なんで取り消しなんだろう」
当然の疑問が湧いてきました。
婚約したのは半年まえで、わたしはそのとき、都内で働いていました。
恋をして婚約して、会社をやめて故郷の街に戻ってきたのが二ヶ月前。
挨拶はまだだけど、母には伝えてあります。
「ラインで理由訊こうか……」
そう思いましたが、相手が丁寧に葉書でくれたものを、そうやって簡単な方法で返していいものかわかりません。
そういうところだぞ、と言われたら「あ、はい……」となってしまいます。
「葉書で訊くしかないかなあ」
そう思ったものの、葉書を書くなんて中学生のころ友だちに年賀状を出したきりです。
ものすごく億劫……。
結局そのまま、理由を訊かずに一週間が経ち、一ヶ月が経ち――
「書かなきゃなあ……」
もう半年が経ってしまいました。
これってもう、婚約破棄は確定してますよね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます