第七話 依頼
前回のあらすじ
はやく、大きくなりたいなあ
翌日のことである。
今朝もまた未来は稽古に向かい、紙月は憂さ晴らしもとい魔法の練習に出かけようとしていたところで、ハキロから声がかかった。
「暇してるだろ」
「暇ってわけじゃないんですけど」
「まあ、まあ、お前らあての指名依頼があってな」
何かと思えば、帝都大学からの依頼であるという。
その名前からしてすでに嫌な予感しかしないのだが、しかし依頼というか、なにかコトでも起きないかと刺激を求めていたのは確かである。
「まあ、いいや。それで、なんだってんです?」
「なんでも、プレンマノダフーモ侯爵領での依頼らしいな」
「どこですって?」
「中央の貴族の領地だよ。そのプレンマノダフーモ侯爵の持ってる山の中から、妙な魔力反応があったらしい」
「魔力反応」
「魔力ぐらいどこでも反応あるらしいが、山ん中から、一定時間ごとに合図するみたいに魔力が強くなるんだと」
「ほーん」
この魔力検知器、本来は魔獣の群生地を調べたり、土中の魔力を含んだ鉱石を探すための装置らしいのだが、しばらく前からこの周期的な魔力反応を検知しており、しかもそれが少しずつ強くなっているという。
このような自然ではない魔力の反応は、太古の昔に機能を停止した古代遺跡が復活した兆しである場合が考えられるのだという。
プレンマノダフーモ侯爵もその報告を受けて調査を急がせ、帝都大学も現在問題の地点に近い山肌を掘削中であるのだが、なにしろ山を掘るというのは大掛かりであるし、冒険屋も呼び出してすぐにこれるという訳ではない。
そこで、山を吹き飛ばしたという伝説もあり、かつ想像を超える速度で西部から帝都まで移動したという実績のある《
便利屋扱いされているなとは思いながらも、実際便利屋なのが冒険屋であるから、否定しようがない。
「こういう、古代遺跡って言うのですか? けっこうあるんですか?」
「まあ、古代聖王国はかなり発展してたらしいからな、死んでいる遺跡なら、掘れば結構ある」
「死んでいる?」
「破壊されてたり、動力源が切れてたり、長い時間の間に壊れてたり、そう言うのだな」
「成程。じゃあ生きてる遺跡は?」
「俺はお目にかかったことはないね」
これは冒険屋としてはあまり長くないハキロだけのことでなく、ほとんどの冒険屋は生きている遺跡になどお目にかかったことはないという。
というのも、古代の大混乱の中でめぼしい遺跡は破壊されるか為政者に制圧されており、残されているのはもともと見つけにくいものか、土中などに隠されているものばかりなのである。
そのため新しく生きた遺跡を発見するためには、二千年も前の真偽も定かではない文献を頼りに山の中を掘ったり、湖の底を調べたりと現実的ではなく、一介の冒険屋がどうこうできるレベルではないのだという。
極稀にたまたま見つけるという事例もあるが、そう言うものは本当に天文学的なレベルでの奇跡であり、期待するのはよほどの山師でもない限りないという。
「でもまあ、遺跡といやあ、帝都なんかはあれそのものが生きている遺跡と言えば遺跡だな。いまも使ってるから、遺跡って言っていいのか知らんけど」
「ああ、そっか。古代から使ってるんでしたね」
同じように、大都市などでライフラインを維持するために破壊されずに遺された地下水道なども、生きている古代遺跡と言っていい。
「じゃあ、今回見つかったやつもあんな感じなんですかね」
「俺は地下水道に潜ったことはないから知らんけど、でも役割が違うんだったら姿も当然変わって来るんじゃないか?」
「それもそうか」
地下水道は水道としての機能があるからあのような形をしているのであって、人里離れた山の中にある謎の施設となると、当然全く機能も目的も違ってくることだろう。
「山かあ。山の季節って変わりやすいっていうし、しかもこの寒い時期に山とか、何持ってきゃいいかなあ」
「大概持ってるだろお前ら。というか気楽だな」
「正直遺跡って言われてもあんまり実感ないんで、こう、ねえ」
山堀りという大雑把な依頼くらいしか理解していない紙月は暢気なものだが、そこはそこ、《
「お前馬鹿だなあ」
「ええ?」
「遺跡ってのは、地下水道とかと同じような、古代の遺跡だぞ?」
「そりゃ聞きましたよ」
「お前この間帝都で何してきたよ」
「何してきたって、そりゃ穴守と……あっ」
「そうだよ。遺跡には穴守がつきものだ」
「おお!」
「山奥の秘密の地下遺跡、それも生きた地下遺跡。飛び切りの穴守がいてもおかしくなかろう」
「成程!」
何しろ子供の未来と、根が子供の紙月である。
乗せやすいのは、言うまでもない。
用語解説
・プレンマノダフーモ侯爵(Plenmano-Da-Humo)
中央に領地をもつ大貴族。
山を多く領地に持ち、領民は
本人も
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