第十一話 力の行き場

前回のあらすじ


話はそれて脱線して。






「じゃあ俺達も戦っているうちにまだまだ強くなるのかな」

「かもしれんな。ろくに戦ってないわしでもこれじゃ。実際、ゲーム内ではできなかったこともできるようになってたりせんか?」


 そう言われて思い出されるのは、例えば紙月が魔法を使うときにその大きさや範囲を変えたり、また魔力に還元して見せたりしたことである。そして未来にしても、シールド系魔法を張る対象や方向を細かに指定できるようになっているのである。

 これは気づきの類ではあるが、それでも成長の一つではあるだろう。


「つーことは、いままであきらめてた高等魔法|技能《スキル》も取れるかも!?」

「まあ、ゲーム内と同じようにはいかんじゃろうが、わしもいろいろ新しいことができんか毎日試しておるよ」


 三人はこんなことができないだろうか、これこれこういうことは試してみた、じゃあこんなのはとしばし盛り上がり、そして不意に冷静に戻った。


「何の話してたんだっけ」

「そりゃあ、ほら、あれじゃ」

「あー、あの、あれ、テロリストの話」

「それじゃそれ!」


 三人寄れば文殊の知恵などと世にいうが、実際三人集まって話し合えば大抵どこかで脱線するものである。


「他にも、地竜の件じゃな」

「あれもやっぱりテロの仕業だって?」

「そう見ていいじゃろうな」


 聞けば、紙月たちが討伐した地竜の進路はまっすぐ西を向いており、これは放っておけば大叢海やファシャまでの進路を描いていたという。

 当然、幼体のままでそこまで到達できるかどうかというと難しい所ではあるが、道中は田舎や寒村が多く、仮に発見されないままあのペースで成長した場合、早々に手に負えないサイズまで成長していただろうとは錬三の言である。


「地竜の成長速度は全く謎なんじゃが、幼体ですら普通は手に負えんから、お前さんたちがおってよかったわい」

「たまたまだけど、運がよかったっつうかなんつうか」

「敵からすれば、万全の準備で送り出したはずが、出足でつまづいたようなものだったじゃろうな」


 もう一つの卵がどのような向きに設置されていたかというと、こちらは騎士ジェンティロの確認によれば帝都に向けられていたという。帝都の防備は万全とはいえ、成体の地竜を真っ向から相手取った場合どうなるかわからなかった錬三はため息をついた。


 その危険生物が自分達の手元にある紙月たちとしてはため息では済まないのだが。


「まあ、大丈夫じゃろ。地竜は物理耐性はともかく魔法耐性はそこまで高くないからのう」

「俺ならどうとでもできるってわけか」

「なんなら《縮小スモール》かけてやればいいじゃろ」

「成程」


 《縮小スモール》というのは、文字通り対象を小さくしてしまう魔法である。敵の防御力を下げたりする効果のほか、自分にかけて、小さな隙間を通ったりすることにも使える。成長する都度かけてやれば、タマも邪魔にならなくて済むというわけだ。


「そういえば、先に孵化していた一頭がどこに行ったのかは分かったのか?」

「わかっとらん。どうも途中で痕跡が消えとってな。ただ、進路としては……どうも、帝都を通り過ぎる微妙な進路であるらしい」

「通り過ぎる?」

「うむ、そのまま不毛戦線を通って聖王国へ侵入する進路じゃな。途中に都市らしい都市もないから、もしかするともう突破されたかもしれん」

「不毛戦線の監視はしてないのか?」

「もちろんしとる。しかし広いし、四六時中監視しっぱなしという訳にもいかん。恐らく破壊工作員もどうにかして隙をついて侵入しておるはずじゃ」


 わざわざ自国に向けて破壊兵器を進ませる理由はない。

 となれば。


「おそらく、孵化した後の地竜を手懐けるすべを知っておるのじゃ。そして、帝国内で合流、捕獲したとみておる」

「大量破壊兵器を持ったテロリストが潜伏しているってわけだ」

「それも十年以上隠れて、力をため込んでおる。もしもこれが本格的に動き出せば、聖王国が軍を動かすよりもよほど大規模な被害が出るじゃろうな」


 とはいえ、まだ一頭で済んでよかったと錬三はひげを撫でた。


「もう一頭はお前さん方の手元にある。さすがに二頭も同時に相手なんぞできん。ましてや三頭もおったらたまったもんじゃなかったわい。お前さん方のおかげでそれは防げた」

「いや、偶然だよ偶然」


 偶然ね、と老人は意地の悪い笑みを浮かべた。


「わしはな、この世界に来てから普通の偶然とそうでない偶然というものを見かけることがよくあってな」

「そうでない偶然?」

「後ろに誰かが得をするような、そんな流れがある偶然じゃよ」

「そりゃあ、偶然なんだから、そう言う時もあるんじゃない?」

「そうかもしれん。じゃがそうでないかもしれん。そのためにも、次の偶然の話をしようかのう」


 ふう、と煙管の煙が、天井に漂った。






用語解説


・《縮小スモール

 《魔術師キャスター》系統の覚える特殊な魔法|技能《スキル》。

 文字通り対象を小さくしてしまう魔法で、耐久力や攻撃力が落ちる代わりに敏捷性が上がるという特徴がある。敵にかけて弱体化を狙うほか、自分にかけて小さな隙間を通ったり、ゲーム性のあるスキルである。

『《縮小スモール》の呪文で小さくなれば食費が減る、ということはない。腹の中のものには魔法がかかっとらんから術が解ければそれまでよ。わかったら出てこんかい盗人め!』


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