第十話 テロルの力
前回のあらすじ
将来の当てが全くない二人に対して錬三が持ち出した案件とは……。
「しっかし、本当にテロなんて起こってるのか?」
「疑うのかね」
「何しろ西部じゃ暇通しだったからね」
「まあ、今のところ大掛かりなものは阻止されておるからのう」
「阻止ねえ」
「おいおい、他人事のようにいいなさんな。お前さん方の仕業じゃぞ」
「俺達のぉ?」
思い当たることと言えば、海賊船を討伐した時のことくらいである。
あの船は明らかに高度な技術で造られていたらしいし、乗組員もどうもただものではない魔術師であった。
確かに聖王国のものだと言われればそうかもしれなかった。
「うむ、まず一番目立ったのはそれじゃのう。もしお前さん方がこれを解決しなかったらどうなっていたと思うね」
「そりゃあ……」
「大変なことになってた、かな」
「ざっくり言えばな」
あの潜水艦が無事物資を補給し終え、安定した物資の獲得ができるようになっていれば、きっと今頃海賊被害は恐ろしい数となっていたことだろう。それこそ通商封鎖に陥っていたかもしれない。そしてそれを討伐しようとどれだけの船を送り込んでも、既存のやり方ではとてもではないが対処できる代物ではないのである。
「帝都大学が残骸から推測した話ではあるが、この世界の船舶としてだけでなく、元の世界の船舶と比較してもかなり優秀と言えるじゃろうな。恐らくは潜水航行が可能であり、電気分解によって酸素を生成するためのものと思しき機構も発見された」
「つまり?」
「ずっと潜ったままでいられるっちうことじゃ。これじゃ水中探査能力のない帝国には発見のしようもない」
ただ、気密性を追求するあまり魚雷発射口などの開口部をほとんど作っていたかったようで、攻撃法は例の表面に塗装された平面の砲台と、水中呼吸可能な
「考えてみれば、砲撃しても硬くて通じない、魔法も乱されて通じない、とりついて攻撃しようにも中に侵入する手段がないっていうのは、これは無敵だな」
「帝都大学が対抗手段を講じておるが、現状では随分割高になってしまうようだのう。要塞ならともかく、船一隻沈めるためとはとても言えんカネが動くそうじゃ」
「冒険屋には、どうにかできる奴はいないのか?」
「お前さん、自分を基準で考えるからいかんな」
「は?」
「紙月。普通の人は、船一隻を個人で相手したりなんかしないよ」
それもそうだった。
なにしろゲーム時代から高難易度の敵を二人がかりで殲滅し続け、こちらの世界に来てからも平然とその感覚で続けてきていたから、どうも世間一般とは感覚がずれているようである。常識がずれていることに対して用いていた、ド田舎の森出身であるという言い訳は、図らずとも的を射てしまっているわけである。
「これもゲーム脳っていうのかねえ」
「実際にできちゃうから仕方ないかもね」
「まあ、何人かできそうなやつに心当たりはあるが、駒は少ないと言っていいな。海賊騒ぎも、お前さん方が都合よく片付けてくれにゃあ、もうすこし解決に時間がかかっただろうよ」
「その言い方、俺たち以外でもどうにかなったっぽいんだけど」
「ハヴェノには冒険屋の大家があってな。もう少し海賊騒ぎが大事になっとったら、放っておいても連中が介入してたじゃろうな」
「そうしたら?」
「そうしたらな」
錬三はてのひらをポンと開いて見せた。
「
「怖っ」
聞けば、道中ムスコロにも聞いた、八代前から冒険屋をやっているという生粋の冒険狂い、ブランクハーラ家のことであるという。
「生産職であるとはいえ、わしレベル九十九のドワーフじゃろ」
「うん」
「
「は?」
「当代のブランクハーラの娘な。娘っちゅうても三十超えとるけど、こいつと腕相撲してな、負けた」
「酔ってたんじゃねえの」
「馬鹿言え。酒入っとったけど、ドワーフじゃぞ。水みたいなもんじゃい」
「爺さん
「それがのう、見た目は細っこいんじゃが、握った手はまるで万力でな、もうちょっと酒が入ってたら死んでたわ」
「そんな大げさな」
「ああ、やつがもうちょっと酔ってたら危なかったわい」
「向こうが酔っぱらって手加減間違えるとかそう言う話か……」
錬三は《
またいわゆる生産職、つまり戦闘をメインにこなす《
「握った感じ、ありゃ最前線の《
「ゲーム内と単純比較できねえとはいえ、そんな人間いるんだなあ」
「どうもこの世界では、才能にもよるが、鍛えたらその分魔力による恩恵とかいう補正が入るみたいでな」
「そっか。それで冒険屋の人とか、見た目以上に強かったりするんだ」
「そういうことじゃな」
ハキロやムスコロが見た目は普通のおっさんとそう大差ないのにもかかわらず、普通のおっさんを凌駕する力を持っているのはこの魔力による恩恵の賜物と言っていいのだろう。そうなると未来がこの小さな体で恐ろしい怪力を発揮するのも、ゲームキャラクターだからというより、この世界の理屈で言えば恩恵が強いからということになるのだろう。
「ブランクハーラの血筋はその恩恵が強いらしくてのう。いまも前線に立っとる奴は、レベル換算で言うと七十から八十平均じゃな」
「限界ギリギリじゃねえか」
「そうとも言えん」
錬三は足元に転がっていた鉄くずを取り上げると、くにゃりとまげて見せた。そして飴細工のように縛ってしまう。
少し驚く光景だが、ゲームキャラクターの体の強靭さを知っている身としてはそれほど目を見張るようなものでもない。筋骨隆々としたドワーフの錬三がそれをなすというのならばなおさらだ。
「わし、こっち来てから
「うそ!?」
しかしあっさりと告げられた内容には驚いた。
「どうも、レベル九十九っちゅうのは、この世界では果てでも何でもない、途中でしかないみたいじゃぞ」
用語解説
・《
《鍛冶》と呼ばれる特殊な《
《
『鍛えることは一人でもできる。しかし本当に強さを求めるならば、ドワーフと酒を飲みかわす覚悟が必要だ』
・《
《
また特殊なアイテムである《機械》類の製造も彼らにしかできない。どんなに強いプレイヤーでも、より高みを目指すなら頭を下げずにはいられない相手だろう。
『黒曜の硬さはいかなる敵も恐れなかった。ただひとつ鍛冶師の槌を除いては』
・《
《
『神の恩寵賜りし《
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