第4話:謎の手紙
学院をクビになってから数日、当然ではあるが生活は一変した。
その中でも特に堪えたのは街の人達の変化だ。
俺が学内でとんでもない不祥事を起こしてクビになったのは瞬く間に市井では周知の事実となり、これまで平民の星として扱われていたのは一転して迫害の対象となった。
学院の敷地を除けばそれほど大きくないこの街では、ほとんどの住人がその教員や生徒達を相手に商いをしている。
つまりいくら平民同士であるとはいえ、大切なお客様に粗相を働いた人間を許すことは出来ないという事だろう。
街を歩いているだけで白い目で見られ、ひどい場合は「お前に売るもんなんてない! さっさと死んじまえ!」「人間のクズ」などと思い返すのも嫌になるほどの暴言を吐かれる事もあった。
この調子ではすぐに買い物さえままならない状況になるだろう。
そうなる前にこの街からも出ていかないとな……。
どこのどいつが話を外に漏らしたのかは火を見るよりも明らかだ。
クビという目標を達成した後もまだ満足していないのか、なかなか効果的な嫌がらせをしてくる。
おかげでもうこの街に俺の居場所は無い。
そんな事を考えながら、貯蔵してあった僅かな干し肉を齧る。
大した味付けもされていない安物の保存食だが、今の俺には分相応な食事だなと自虐しながら溜まっていた郵便物の束を捲っていく。
そのほとんどが少し前まで勇者学院の教員だったフレイ・ガーネットに宛てられた物で、無職の俺に宛てられた物は無いに等しい。
一応封を開き、今の自分には関係がない事を改めて確認してから全て処分していく。
嫌な事を考えないようにするためにそんな無為な作業を続けている中、未開封の郵便物の中に一つの妙な封筒を見つける。
「送り主の名前がないな……」
その簡素な封筒には、他と違って送り主に関わる情報はどこにも書かれていなかった。
にも拘らず宛名だけはやけに綺麗な文字で書かれているのが更に怪しさを増大させている。
ほんの少しの緊張感と共に、ゆっくりと封筒を開く。
中から出てきたのは一枚だけの真っ白な便箋。
そこには宛名と同じ綺麗な文字で端的に日時と場所だけが記載されていた。
「なんだこりゃ……」
その怪しさに思わず困惑の声が漏れ出る。
便箋をひっくり返して隅々まで確認してもそれ以外は何も書かれていない。
何かの暗号にも思えないし、魔力が込められているわけでもない。
書いてある文字にもう一度目を通す。
そこに書かれている日時は今日の深夜、そして場所は凡そではあるが座標で街の外にある森を示している事が分かった。
「馬鹿馬鹿しい……」
封筒とまとめて、それまでに処分した手紙が積み重なった山に向かって放り投げる。
大方これもあいつらの嫌がらせの一貫だろう。
好奇心に釣られて行ったところに何が待っているのか分かったもんじゃない。
最後に残った一欠片の干し肉を口の中に放って、ベッドに横になる。
横になってただぼーっとしていると、様々な想いが頭を駆け巡る。
リリィは大丈夫だろうか。
俺に目をかけられていた彼女が妙な嫌疑をかけられていないといいが……。
いくら才能があるとは言え、彼女も平民の出だ。
俺と同じようにいつ足元を掬われてもおかしくはない。
もしそうなってしまえば悔やんでも悔やみきれないが、今の俺に出来るのは彼女が自分を律して平穏無事に学院での生活を過ごしてくれるよう祈るしかない。
「父さん……母さん……ナル……。俺はまだ諦めてないから……」
いつも心の中で俺を支えてくれている今は亡き三人に向かって話しかける。
自分が成すべきことを心中で明確にすると、少しだけ心が軽くなった。
明日、ここを発とう。
心の中で決意する。
まだどこに行くかも決まっていないが、ここで足踏みをしているよりはましなはずだ。
そう決意して目を閉じようとした時、視界の端にあの封筒がちらりと映った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます