デートってこんなんでしたか? 2

 カランと音をたててブルームーンのドアが閉まった。

「で、時間まだあるけど、どーすんだ?」

「そうね、先輩たちの予備校の駅ってどこだっけ?」

「でかい本屋があるとこ」

 刻の言葉に亜貴の目が輝いた。

「あ、私、本屋行きたかったんだ」

「じゃ、行くか」



****



 土曜の昼の電車は通勤時間帯程ではないが混んでいた。二人は扉の近くに立った。背の高い刻は片手でやや高い手すりを掴んでいた。亜貴は扉の横の手すりを掴もうとしたが、人がいて届かなかった。仕方ないので両手で鞄を持って刻と向き合う。電車の微妙な揺れに合わせて揺れていた亜貴に、

「掴まれば?」

 と刻は鞄を持っている方の手を不器用にさし出した。

「大丈夫」

 亜貴は強がってそう返事をしたが、電車が駅で止まる時にややバランスを崩して刻の鎖骨辺りに頭をぶつけた。

「ごめんっ」

 亜貴は慌てて顔を上げる。

「……っ!」

 互いの顔の近さに刻は上を亜貴は下を向いた。

「……悪りぃ、俺汗臭いかも」

 気まずそうに刻が言った。その言葉に亜貴の耳が赤く染まる。

「ぶ、部活してたんだから、当たり前じゃない。わ、私こそなんか変な臭いしないよね?」

 急に気になり亜貴はそわそわと視線を彷徨わせた。

「……嫌な臭いじゃない」

 刻の言葉に亜貴の頬はさらに熱を持った。二人は視線を合わせることができなくなって、降りるまで無言でそれぞれ上と下を向いていたのだった。


 目的の駅に着くと、二人はほっとして電車を降りた。時間は十五時を回ろうとしていた。


 今日はなんだかやたらと視線を感じると亜貴は思ってそちらを見てみると、他校の女子生徒たちだった。

(あ、そっか。私じゃなくて)

 ちらりと亜貴は隣を見る。当の本人である刻は気付いていないのか頓着していないようだった。

(まあ、樋口先輩に似てるんだもの。顔は悪くないわよね)

 どちらかと言うと整っている。弓道場から出て来た時に感じた様に、人の多い街中でも刻は目立っていた。

「? 何だよ?」

「別に」

 隣を歩くのが気が引けて亜貴が歩調を落とすと、刻もそれに合わせてきた。

「腹でも痛いのか?」

「痛くないわよ」

 要らぬ心配をさせてしまったらしい。

「……ちょっと人に酔っただけ」

「大丈夫かよ?」

「大丈夫」

 最初に感じた印象と違って、悪い奴でもない。意外と繊細。刻がモテる理由が何となくだが分かってきた亜貴だった。

 本屋に着くと亜貴は、

「刻も好きな本見たら?  私も色々見たいし」

 と言い、刻のそばを離れた。

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