第16話 いざ後半戦

 レアの切り札、その中でもよく使われる壱ノ秘剣を切って、俺は腕を少し痛めていた。

 仕方がない。何しろ人外の技だ。この身で扱えるのは、一重に俺の努力と研鑽、そしてその能力故だ。

 そうでなければ、使った反動で腕の筋肉が引きちぎれる。骨を切って命を絶たれてしまっては、本末転倒どころの話ではない。

 それでも尚、《秘剣》は俺の体にしっかりとダメージを残していく。全く、なんて理不尽な技だ。

 そして何より、そんな技を自力で編み出したとか言うレアは、一体何者なんだろうか。人間で使えるのは俺くらいだし、もしかしたら人間ではないのかもしれない。

 思わずそう疑ってしまう程、彼女の実力は桁外れなのだ。

 俺だって、まともに斬り合えば勝てるかどうかは分からない。まあ全力を出せば、少なくとも互角の勝負には持ち込めるだろう。そのくらいの人外である。

 そう思っていた、その時。


「——ッッ!?」


 反射神経と直感、全てを第六感に身を任せ、俺は《月影》を高速展開。そのまま後方上、即ち殺気を感じた場所に向けて振り抜く。

 すると感じるのは確かな手応え。硬い獲物に直撃した鋼の感触。

 腕力にものをいわせてその衝撃を振り抜くと、すぐさま後方に意識を向ける。

 そこに降り立ったのは、美しい装いの少女だった。

 薄い桃色の髪と椿のような瞳。制服こそ纏っているとは言え、それはまるで炉端に咲き誇る一輪の花のような、筆舌に尽くしがたい力強さを内包した存在に写る。

 少女は左手に持った細身の刀身を眺めながら、呟くように声を出した。


「上手く殺気は殺したはずなんだけどなぁ。いや、あれは一種の第六感。野生の勘ね」


 俺の回避を静かに分析する彼女の手には、薄紅色の刀が一振り握られている。俺の《月影》よりも若干刀身が細く、何より鍔もなく、何より薄い。華奢な体躯の少女の手に相応しいサイズを持っている。


「うーん。動物染みた相手は嫌いねぇ」


 ……なんだか人のことを動物扱いしているように聞こえてくる。

 よし、ムカついた。コイツ絶対にシバく。まあ、やり過ぎると激怒する奴がいるので、ほどほどに。

 俺は先程の返礼とばかりに、本気の殺気を少し込めて少女にぶつけた。


「——ッ!!?!??」


 声にならない悲鳴をあげて、彼女はその場から急速に離脱。距離を取り、様子を窺うも、その額からは止め処なく冷や汗が浮かび上がって来ている。

 うーむ。やり過ぎたか?

 まあ、これくらいで済ませたのだし、俺はよく頑張っただろう。

 よく見ると、観客席でも何やら阿鼻叫喚が起こっているようだ。もしかしたら、少し漏れ出たのに充てられた可能性もある。

 と、よく見るとレアが鋭い眼光でこちらを睨んでいるではないか。『周りに影響を出すな』? 知らぬ。


「……今の殺気、貴方、本気で殺す気があったでしょ」

「流石に殺気を隠す方法を練習しているだけはあるんだな。ただまあ、戦場を知らない奴に、俺の殺気は効き目が強かったかな?」

「強いどころの話じゃないわよ! 来なさい、《せんおう》!」


 薄紅色の刀身が、彼女の掛け声に呼応して一瞬赤黒く光ると、彼女は身を捻って飛び出した。

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