第14話 学園生活⑦
シグルドの《心器》は、なんと武器ではなく「武装」だった。
白く染まった美しい輝きを持つ全身鎧に、精巧な装飾を蓄えた大盾。右手にはこれまた白い刀身の長剣が握られていて、冑には大きな鍬形の角のような飾りが付いている。
成る程、これが四大公爵家の血筋! 騎士としての姿は雄々しく、凛々しく、猛々しい。その覚悟を表すかのように真っ直ぐな長剣は、淡く発光までしている。
俺は《月影》を両手で構える。刀身を地面すれすれに近づけて腰を落とし、鍔のすぐ後ろに握られた右手をカバーするように、柄尻に左手を添えた下段の構え。
「アークヴィレム公爵家が一、シグルド。押して参る!」
その大盾で身を隠すように、シグルドは飛び出した。
俺は素早く刀を回し、刃を後方へ。上段から叩きつけられる騎士剣を真正面から打ち据える。
振り抜いた場所で手首を反転、袈裟斬りを繰り出すが、その大盾で弾かれる。そしてすぐさま横から迫る騎士剣を受け止め、鎬の湾曲を利用して逸らし、そのまま腹に刀を振れば、左手の大盾が刀身を阻む。
完全な接戦。シグルドの剣を俺が弾き、俺の刀をシグルドの大盾が弾く。その構えに一切の乱れはなく、俺の完成された技の数々を前に、シグルドは一切の隙を見せない。
一連の攻防だけで手に取るようにわかる、シグルド・アークヴィレムという男のその強靭さ。その構えの完成度はボルトを大きく越える。
安定性が段違いだ。長々と戦い、持久戦を得意とするようで、俺のような短期決戦型とは最悪の相性だ。
しかし。相手の防御が強力だというのならば、それを抉り、穿つことこそ俺の得意分野だ。
大盾の影から振り抜かれた騎士剣を刀で押さえ、強引に盾の影へと押し戻す。更に力を強めて騎士剣を押さえ込み、弾かれるように上段へと切り上げる。
すぐにシグルドは身を逸らしたものの、刀身は鎧をバターのように斬り裂き、大きな傷が出来上がった。
彼はその傷を無視し、身を逸らした勢いで騎士剣を跳ね上がるが、俺は振り抜いた刀を手元に引き戻して防御。後退して距離を開ける。
俺が斬り裂いた鎧を見下ろして、シグルドが嘆息する。
「凄いね、君。まるで修羅のようだ」
「そっちは完全に金剛石だな。防御力が桁違いだ。安定性もズバ抜けている。もはや学生レベルを大きく逸脱しているぞ?」
「それは君も同じだよ。それどころか、並の聖騎士以上の実力はあるよ、君」
互いを称賛し合うも、両者の距離は依然開いたまま。完全な膠着状態だ。その目は真っ直ぐに相手を見据え、一挙手一投足を余すとこなく写しとる。
するとシグルドは、徐に剣を構え直し、重心を低く固定する。剣の構え、攻撃に転じたのだ。
その身を引き絞り、獣のように俺を見据えながら、シグルドは飛び出した。
「
上段からの跳躍斬り。鋭利に抉り込む刃を弾くと、俺の後ろに着地。すぐさま二撃目、三撃目の斬撃を一瞬で並べる。
弾く刀から帰ってくるその重量と強かさ。それはまるで岩に打ち付けているようで、シグルドの剣が持つ重撃をありありと認識させられる。
荒れ狂う動きで俺の周りを走りまわりながら、思わぬタイミングで襲いかかってくる。その野蛮な剣戟とは裏腹に、その動きはしなやかで、滑らかで、とても生半可な手で抜けられる威力では無い。
分析する俺を他所に、シグルドの猛攻は止め処なく、的確に俺の命に喰らいつく。
「帰命流——《
連撃、連撃、連撃。
上下左右、あらゆる方向から迫る騎士剣を捌く。袈裟斬りから続く逆袈裟、左上段から斬り下ろし、右足で蹴り付けて身体を回転、右からの横薙ぎ。
多彩な攻め方が特徴的な、帰命流の本質を的確についた攻撃。更に左手に持つ大盾が身体を隠し、動きの認識を阻害している。
その上大盾は防御も兼ねていて、攻めあぐねている。素晴らしい技だ。
戦いは膠着を繰り返し、加速していく。
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更新遅くなり、大変申し訳ないm(_ _)m
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