第12話 学園生活⑤

 淡い紫の光を放ち、紫電を纏いながら、ボルトの《心器》、《百霜貫》は俺の心臓目掛けて突き出される。

 その長い柄には線のような突起が無数に走り、半透明の柄は内部に内包する紫電の胎動をありありと見せてくれる。

 その動きに迷いはなく、流れるような身のこなしは惚れ惚れするほどで、他者とは一線を画する立派な戦士だった。

 力強く突き出された一撃を刀で逸らし、距離を確保するために後退する。

 槍の利点はリーチの広さで、弱点は接近に弱いことだが、やはり崩してからでなければ接近することも容易できない。

 だがボルトはそんなことをさせてくれることはなく、槍のリーチにピタリと合わせて距離を詰めてくる。


 これほどの完成度は、もはや驚嘆する他なかった。

 間合いの測り方も完璧だ。構えはキチンと板についていて、体の芯は崩れることがない。

 迷いのない動きは常に相手の精神力を削り、鞭のようにしなるその身体は、柔軟に槍を振り回している。

 柄にもなく、少し体に熱が入る。


 鋭い刺突。迎撃する刀身から帰ってくる衝撃はとても重く、体重の乗った重い一撃であることが分かる。

 弾き返すと、一瞬驚いたような顔を見せるが、すぐに腕を引き戻し、再度刺突。この間瞬き一つ分ほど。

 数度刃を弾き合うと、ボルトは左手を用いて穂を地面に突き立て、その勢いを利用して大きく身体を持ち上げ、素早く引き抜き叩きつける。

 刀を用いて防御、右手の持つ力が足りず、左手を刀身に当てて対抗する。防ぎ切ると、その不安定な態勢から縦に回転しながら大薙を繰り出してくる。

 大回転を二回。回避するために後退すると、ボルトは右腕を引き絞り、空中で、しかも片腕だけで先ほどと同威力の突きを放つ。


てんせんりゅう——《どうき》!」


 空中で放たれた片腕の刺突は、鋭利な直線で飛来し、防御する俺を吹き飛ばす。

 地面を削りながら止まる俺に、ボルトは悠々と地面に降り立つ。優雅なことで。


 彼らの用いる技は、古来から伝わる《流派》によって異なっている。長年の研鑽によって培われてきた技の精度は疑うべくもなく、ボルトの流派である「天尖流」もまた、槍の武門の流派に数えられる。

 その技の一つ、《胴佗貫き》は、片腕で放つ刺突。弧を描くことなく直線に進んでくる。

 防御は容易ながら、いかんせん片腕とは思えないその俊敏さは、それなりに脅威となる。

 ちなみに、俺とレアは我流だ。名前すらない、二人の流派。

《胴佗貫き》を防いでやると、猛攻は一旦止んだ。


「お前、実はスゲェ強かったんだな……」

「実はって。俺はお前たちに実力を見せた覚えはあまりないんだがな」

「ハハッ。違いねぇ」


 軽口を叩き合う。こと戦場では、言葉巧みに相手を揺さぶる策士だっている。

 距離は槍のリーチからはだいぶ離れた位置。距離としていきなり詰められることもない安全地帯だ。


「悪いが本気でいかせてもらう。耐えてくれよ?」

「お前こそ。簡単に終わってくれるなよ?」


 そう言って、再び刃を交えるべく地面を蹴った。


     ——————————


 紫電の槍と白銀の刀が、互いに軌跡を残しながら、幾度となく交錯する。


「天尖流——《しらぎくい》!」


 大きく弧を描き、小さな間合いで連続して回し続ける。全身を用いて回す槍の刃は、その凶刃をもって俺を抉るべく迫る。

 俺はその刃を、時に弾き、時にいなし、時に躱してその全てに対応し、その身に届くことを許さない。

 回転は次第に数を増し速度を増し、その勢いを加速していく。しかし凶刃を阻むのは、俺の鉄壁の防御だ。

 防御というより受け身の技法と呼ぶべきかもしれないこの動きは、レア直伝の戦場剣術で、相手の調子を奪うに相応しい、最適化された剣戟だ。

 案の定、ボルトの攻撃には次第に焦りが生まれ始める。焦らされたことを敏感に察知したのか、一撃一撃が荒くなってきた。

 しかし尚も、俺はその悉くを受け止め、阻んでいく。ボルトの動きのアラは次第に見えやすくなっていく。


 そして遂に、若干軸足がブレた。


 その隙を逃す俺ではなく、深く踏み込んで突入する。

 急な動きの変化に驚いたボルトは、《白菊結い》の一撃を俺に向ける。

 だが俺は、その一撃を流し・・、深々とその間合いの内側、剣の領域へと足を踏み入れる。

 俺は刀を手の中で回転し、刃とは逆方向に向ける。


 そして鋭く振り抜き、強力な峰打ちを叩き込んだ。

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