第10話 学園生活③
数日後。
その日の俺は、十時ごろに図書室を出て、ある場所へと向かっていた。
これから始まろう面倒な時間に鬱になりながら、俺は酷く重い足を動かす。
数日前のこと、俺はクタクタになって帰ってきたボルトの頼みによって、仕方なくレアの授業にだけ出席することになったのだ。
というのもアイツ、俺がいないと駄々をこねて、挙句それを生徒に当たるという暴挙に出たのである。流石にかわいそうだったというのもある。
俺が向かっているのは、この学園最大のメインステージ、第一戦闘訓練場。通称「一練」の愛称で先輩の間では通ると聞く、音に名高きスタジアムだ。
国内有数の規模の武舞台で、聖騎士たちのトーナメントリーグなどでは会場としても使われることもある、子供たちの憧れの場所だ。
そのスタジアムは、レギアス聖騎士学園の本校舎、その少し離れた場所にある。
元々島なので周囲は海に囲まれているここでは、外部からの客のために、本校舎より港に近いエリアに立っている。
巨大な石造りの建物で、内部には結界が張られている。この結界もかなり強力で、学生レベルならば壊れる心配はないという。
まあ、そこで暴虐の限りを尽くすあの女は先代の《剣聖》。比較になるのかも疑わしい話だ。耐え得るのだろうか。
まあ、ボルトからの話によれば結界が壊れたわけではなかったようだから、アイツもアイツなりに考えている様子。まあ、流石にそうなれば怒られるのは必至であることを知っているからかもしれないが。
中に入れば、既に何人もの生徒たちが集まっていた。その様子は非常に戦々恐々としていて、前回アイツが何をやらかしたのかが気になる。あとで洗いざらい吐いてもらおう。
俺の来訪には何人か気づいた様子だが、反応からして興味がない様子。もし俺が暗殺者ならば、既にやられているフラグしか浮かばない。
俺は端の方に隠れるように待機した。目立つのは極力避けたい。
そうしている間も、厳しい視線は降り注がれる。仕方ない話だが、居心地が悪い。
耳を澄ませば、やれ変人だのやれ能無しだのと、酷い言われようだ。
まあ俺としても、こいつらに価値を見出してはいない。別に他人の評価を気にしていたらキリがないから、とっくの昔に誇りは捨てた。
そうこうしていると、カツカツという靴の音が聞こえて来て、全員が話し声を止めてその場に直立した。
奥にある通路から、レアが出て来たのだ。
動きやすいように、かつ見栄え良く、という無茶振りを俺に押し付けて作らせた特注の戦闘装衣を見に纏って、堂々と歩いている。長い髪は後ろで纏め、サイドテールを作っている。
日常生活におけるあの怠惰な姿は、そこからは全く読み取れない。これが、昔の彼女の持つ、《剣聖》としての英雄像なのだろう。
レアは胸を張り、堂々と口を開けた。
「授業を始める」
——————————
……なんだアレは。
普段と全く雰囲気が違う。俺に《秘剣》を伝授してくれた時よりも緊張感を纏っている。ピリピリとした空気の重さは、恐らく彼女が無意識に放っている殺気だろう。
周りを見渡せば、冷や汗をかいているものもちらほら。なまじ実力がある分、本物の覇気には敏感なのかもしれない。
その時。
「「——あ」」
目があった。合ってしまった。
直後、周囲から重い覇気が一気に霧散。見慣れたものならば分かる、ご機嫌な様子だ。サイドテールがピコピコ揺れている。どういう原理だ。
彼女は喜びを隠しきれない、一見すると不機嫌な顔で俺に近寄ってくる。
そしてあろうことか、聞いたこともない言葉で話しかけて来た。
「来たんだな、リゲル」
「偉そうに一人前ぶるな気持ち悪い。とっとと授業をはじめろ。生徒たちが困惑している」
俺の言葉に、レアは「ああ、そうだったな」と軽く返事。適当にも程があろう。
レアは俺から少し離れると、こんなことを口にした。
「今からお前たちには、このリゲルと模擬戦をしてもらう!」
……解せぬ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます