第5話 初めての出会い
あの後、エレノアは速やかに帰っていった。
特別長居する用事もなかったようだが、何よりレアに施しを受けるのは性に合わないとか。
嫌われているなあ、と思いつつ、本人は嫌われていないと思っているようで、救いようがない。
これらの話は、全てレアから聞いた話だ。俺はあの時パタリと倒れてから一切の記憶がなく、次の記憶はすでに夕方になっていた。
そのため、レアの出した条件を拒否することができなかったため、俺は渋々、その話を受諾した。
決して快諾とは言わせまい。
それから数日後、俺たちは屋敷から離れた。
レギアス聖騎士学園は、《七聖剣》が理事長を勤めているだけあって、その規模は尋常ではない。
学生には、二人一部屋で集合住宅並みの生活スペースが配給され、講師たちもそこで暮らしているのだそう。
学園というよりかは、そう言った学習施設に近いようなイメージを持った。
また食については、自炊か食堂を使うかを選べる。衣服に気を配れば、衣食住の悩みは無いに等しい。
随分と豪華なお膳立てだが、学校側が何かするのはここまで。あとの生活は各自ですることが求められる。
俺みたいに生活力のある人間は、特別気にすることでも無いが、レアのような人間が相手となると脅威になる。
アレがまともな生活を保てるとは思えないのだが、二日に一度は部屋に来て面倒を見ろと命令された。なんだかなあ。
ちなみに、俺の生活力の原点はレアの世話だ。
拾い子という立場上、拾い主には奉公するべきだと、たまたま家庭スキルを見せたら、いつのまにか全て俺に任せるようになっていった。
そもそも、彼女に拾われる前は、郊外の辺鄙な村で過ごしていたので、そのあたりから家庭スキルを身につけていっていた。
村では人口が少ないため、親は自分たちの子供に手伝いをさせる。そういう風習が、今の俺を俺たらしめてくれている。
飛竜に乗ってレギアス聖騎士学園に辿り着くと、そこは壮観な場所だった。
広大な敷地。一面の建造物群と、それを覆い尽くすような自然地帯群。
ここは、レギアス島という島を丸ごと学園の教育場に仕立て上げた荒造りも荒造りな代物。そのため、敷地内の至る所に森や林があって、魔獣も平然と暮らしているほど。
中には、霧によって侵入者を廃することのできる場所もあるようで、俺たちの飛竜は、そこを用いて止めておくことになった。
普段からエレノアが飛竜を隠しておく場所でもあるらしく、飛竜に主と認められた者のみが、通り抜けることを許される。
だから安心して、こいつらを置いておくことができる。
そして俺たちは、他の生徒たちの数日ほど前から、寮で暮らしていた。
——————————
入学式。
それは、新春に新たな門出を飾る新入生を歓迎し、祝福するための恒例行事だ。
なぜそれが必要なのかと考えてしまうと、その必要性は雲隠れしてしまうが、通過儀礼みたいに考えておけばいい。
俺はあまりに暇だったので、のんびりと新入生を見守り、もとい吟味していた。
こうして見ると、確かに常人とは一線を画する強者たちの山場だ。
骨格の形、筋肉の付き方、魔力の質。どれを取ってみても、一般人どころか傭兵にも勝るとも劣らないスペックだ。
まあ、傭兵たちを相手取るとなると、戦闘の場数の違いで負けるのは必至なのだろうが。
まあ、誰を見ても俺に敵う奴はいなさそうだ。レアの《秘剣》を使用できる俺は、基準としてはおかしいのだろうが。
恐らく、俺を測るための物差は《七聖剣》になるだろう。実戦経験も確かにあるのだから。
ふと、気になった女生徒が一人いた。
その女生徒は、眼鏡を掛けながらも、何やら大きめの荷物を背負っていて、周りから見ればかなり浮ついている。
もちろん、他の生徒たちも、寮に入るためにそれなりに荷物は持ってはいるが、彼女はそれとは別に、大きめの袋を持っている。
恐らくは武器か何かなのだろう。となると、彼女は《心器》を使うことが出来ないようだ。
それはまた珍しい、と俺は感じた。俺も含め、この学園には《心器》を使うことができることが、入学の最低条件だと思っていたのだ。
それに彼女とは、何か縁を結んでおいた方がいい気がする。直感ながら、これもまた未来予知の一つだ。
その時、彼女が躓いてしまった。俺は何かを考えることもなく、彼女に手を伸ばして支えていた。
「大丈夫か」
「! え、は、はい……」
彼女は赤面して顔を逸らした。
俺はかなり目立っているので、彼女を助け起こし、少しだけ話すことにした。
「君、《心器》を持っていないようだけど、どうやってこの学校に?」
「あ、えっと、私、学者志望なんです」
彼女の話によれば、この学校では学者としての地位も獲得できるらしい。
しかしそれは、実技で戦えるようになる聖騎士になるよりも難しそうだ。
「あ、その制服、もしかして貴方も?」
「ああ、今日から新入生だ。よろしく頼む」
俺たちはそれで別れた。
なんだか、楽しいことにはなりそうだ、という根拠のある予感とともに、俺はその場から立ち去った。
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