第2話 唐突な闖入者
ズボラな同居人のもとに帰宅報告をしてから、俺は手早く調理室に行き、食材を冷蔵庫にブチ込む。
そして必要な分の食料を、俺は手早く調理していく。
今日のメニューは、今日狩ってきた猪の肉を使った猪鍋だ。
野菜を程よい大きさにざく切りにし、猪の肉も下拵え。塩胡椒で下味を付けて、用意したスープの中に入れて一煮立ち。
そこに野菜を順に入れていって、さらに煮れば完成だ。
作った鍋ごとリビングへと持って行き、テーブルに古新聞を敷いてその上に置く。
こうすると、テーブルのカバーを溶かすこともなく、何より楽だ。
小皿と取り分けるためのお玉を用意すれば、途端にレアが起き上がって、そそくさと鍋を取り分けていく。
「お、今日は猪か」
「ああ、今日は大物が取れてな。どうせ昼は何も食ってないんだろうから、好きなだけ食えばいい」
彼女の問いには適当に答えておいて、俺は自分の分を取り分けていく。すでにレアは出来立ての猪鍋を頬張っていて、俺のことを待つとか一切考えない。
彼女は本当に何もしない。その癖に、何かしないのならそのままにしておこうと、しばらく放置すると、木刀を持って俺に襲いかかって来る。
パパッと手早く済ませると、俺は皿を置いてまた仕事に向かう。まだまだ仕事は終わらない。
俺は生肉を大量に用意すると、適当に野菜ものを切って混ぜ、とても大きな容器に移す。
それは1メル幅の円形の餌台だ。さらにそれをもう一つ用意して、俺はそれを持ち上げる。
ちなみに、餌台は丈夫な金属で、餌も合わせると一つ五キロ程の重さになる。
普通の人間ならできない芸当だが、相当に鍛え抜かれた俺の体は一切苦にすることなく、とてもスムーズに作業していく。
餌台を持って裏口から外に出ると、そこには二つの巨影が、そこにあった。
それは飛竜だ。一体は二本足で立ち、もう一頭は蛇のようにしなやかな体を丸めている。
この飛竜は俺とレアのものだ。所有している人間なんて限られているが、そんなことは気にしない。ちなみに俺の飛竜は蛇のような姿の方だ。
二体の飛竜に餌をやって、俺は次の作業に移る。
朝方に干した洗濯物を手早く取り込み、慣れた手つきで畳んでいく。中にはレアの
畳み終えた俺はすぐさま外へ。餌を平らげた飛竜たちは満足そうに月光を浴びている。
餌台を回収して、その流れで飛竜の歯を磨いていく。
飛竜だって生き物。何もしなければ虫歯になる。だからこそ、日々のケアは欠かせない。
歯磨きが終わると餌台を家の中に持っていって洗浄、乾かすために干しておく。
飛竜の餌やりは二日に一度でいいのだが、それでも馬鹿にならない量を食べるので、食糧の調達は欠かせない。
まあ、飛竜は人間と違って丈夫なので、多少傷みが入っていても問題なく食べてくれる。
そのため餌は、市場で廃棄品になるものをタダで貰い、処分代わりに餌にしているのだ。
ついで俺は鍋の回収。流石にそこまでの量を食べるわけではないので、明日の朝の分は取り置けるが、きちんと保存しなければ飛竜の餌行きだ。
鍋の回収と同時に皿も撤去し、テーブルを拭く。皿洗いも済ませて乾燥台で乾かしておく。
それが終わればすぐに風呂に直行し、疲れた体に休息を与え。
風呂から上がればすぐに洗濯物の仕込み。いつのまにか風呂に入っていたレアの分の服も一緒に洗濯機に入れて、スイッチオン。
何故か電力は通っているので、機械類は全て問題なく機能する。
それが終われば、リビングで寝こけているレアを起こして部屋へと向かわせ、俺の仕事は終わる。
しかしまた朝になれば、また別の仕事がある。だからこそ俺は、仕事が終わればすぐに布団に入るのだ。
そんな感じで、レアの介助のような仕事をこなしながら暮らしていたある日、それはやってきた。
朝の仕事の一環である飛竜の飼い場の清掃をしていると、飛竜たちが空を向き、吠えたのだ。
二体とも同じ方向を見て吠えるものだから、何かあったのかと、俺も同じ方向を見る。
そこには、もう一体の飛竜がこちらに向かって飛んでくる光景が広がっていた。
「……なんですと?」
俺は取り敢えず、レアに連絡するために、リビングへと駆け込んだ。
しかし彼女は、いつにも増して真剣な表情をしていた。
「……何が起こったんだ?」
恐る恐る聞くと、彼女は神妙な面持ちで、衝撃の事実を伝える。
「——面倒なことになる」
——————————
暫くすると、家にドシンという振動が走った。恐らく、先ほどの光景を鑑みるに、あの飛竜が近くに降り立ったと考えて間違いないだろう。
俺たちは、二人揃って玄関に立っていた。もちろん建物の中側だ。
俺は既に戦闘態勢だ。飛竜が降り立ったということは、誰かを乗せていたことは想像に難くない。
こんなところに、しかも飛竜でやってくるなんて、どう考えても普通ではない。
だがそんな俺の様子に気づいたのか、レアが優しく俺の肩に手を置いた。
「大丈夫。恐らく敵ではない」
その時、大きな衝撃と共に、扉が吹き飛んだ。
その様子を見て、俺はいつでも《心器》を引き抜けるように態勢を取る。
だがレアの反応は、なんというか、参った様子だ。
その時、
「久しぶりだな、レア・ツヴァイヘン」
扉の残骸から、一人の妙齢の女性が姿を現した。
黒いドレスを纏い、燃えるように真っ赤な髪を伸ばした女性だ。
だがその手には、漆黒の
その威容は、俺も軽く戦慄するほどの圧だった。
だがレアは、特に驚くような顔もせず、参ったような声を上げる。
「そうだな……、エレノア」
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