第19話 結衣のアプローチ

「いいじゃん! 撮ろうよ~」


「う~ん・・」


そもそも俺はプリクラというものに縁がない。なぜなら今まで女子とお出かけなんてしたことなかったからな。


「こんなの撮ってどうするんだよ」


「思い出だよ。お願い〜」


まあたかが写真だろう。ちょっと位ならいいか。


「一回だけだぞ」


「やった〜」


俺たちは早速プリクラの中に入った。


「コインを入れてボタンを押してね」


写真を撮る時間が始まった。


「最初は笑って〜」


「次は変な顔で〜」


「次は決めポーズで」


へぇー、プリクラってこんなものなのか。俺は初めて知ったな。もっと変なことを要求されるかと思ってたけど、思い違いか?


「じゃあ次は手をつないで〜」


手か。手だけだよな。


「ほら、快斗くん」


結衣が手を差し伸べてきた。まぁ、ここまではいいだろう。許容の範囲だ。


「じゃあ最後は抱き合って〜」


やっぱこうくんのか。最初の方はマシだと思っていたのに。抱き合うとかさすがに無理だろ。


「ゆ、結衣? ど、どうする?」


「・・・」


そんな反応になるわな。ここは普通に写真を撮っておこうか。


「はい、ち・・」


一瞬、時が止まったかと思った。結衣が俺に抱きついてきたのだ。甘い香りがする。なんか幸せな気分だ。


「ゆ、結衣? こ、こ、これは?」


「そ、その・・ な、成り行き。そう、成り行きだから。忘れちゃって」


成り行きって。てか今のを忘れるとか無理だろ。


「ほ、ほら、もう行こうか」


「う、うん。そうだね」


2人ともぎこちない雰囲気だ。店員さんに「お二人共顔が赤いですが大丈夫ですか?」と聞かれたものだからすげぇドキドキしたよ。そうだ。でも今のは成り行きでああなったんだ。俺は何を期待しちゃってんだ。落ち着けよ、俺。


「か、快斗くん。き、今日はいろんな事があったけど。た、楽しかったわね」


「あ、ああ。今日はありがとな」


結衣はいつまでテンパってるんだよ。さっき成り行きって自分で言ったろ。


「あ、あの〜 快斗くん?」


「なんだ?」


「もしこの勝負で私が勝ったら・・・その・・ ほんとの恋人になってくれる?」


「・・・・」


これが告白ってやつなのか? 結衣をほんとの恋人にか〜 俺はどうしたらいいんだろうなぁ。どちらか1人を選ぶとどちらか1人を切り捨てる。そんなのは嫌だなあ。美香とだって、結衣とだって、もっとおしゃべりがしたい。


「考えておくよ」


「そうね、でも私はあなたのことを1番愛してる彼女だから、忘れないで」


「・・ああ」


結衣からこんなにもアプローチがくるとは思わなかった。最初は彼氏の代役を頼まれただけだったのになぁ。


「あと、これは、今日のお礼よ❤️」


「⁈」


唇に伝わるやわらかい感触。美香とは違う温かさだ。


「快斗くん、またね」


夕日を背に結衣は去っていった。やっぱりお嬢様だなぁ。てか2人ともにキスされる俺って、どうしたらいいんですか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る