第2話 幼馴染

夕方、家に帰ると誰もいなかった。まぁ実際にはあかりがいるはずなんだが。俺はまず学校の宿題を... するわけがなく、真っ先に机の上の小説に向かった。最近は全くいい小説が書けないのだ。新人賞を受賞した当時は


「俺って実は天才なんじゃね」


と心の中で思っていたのだが、その後小説が売れることは全くなかったのだ。全く話題が見つからない中、俺はふと思った。


「あかりはいつも家で何をやっているんだ」


俺はあかりの部屋をノックしようかと思ったが、また頭をドアで叩かれて始末だろう。俺は思いとどまった。うん。俺、少しは賢くなった。俺は引き続き机に向かい、作業を続けた。


「そういえば、俺の作品に似たものを書いていた作者って誰だったんだ?」


そんなことを考えながら丸一日小説を書いていた。


夕方、夕食を作り妹を呼びに行った。まぁ当然のごとく跳ね返されたのだが。そしてリビングに戻り、俺に作風が似ているという小説を読んでみた。ははーん、なるほど。確かにこっちの方が面白い。悔しいが俺は認めた。まず表紙の絵が可愛いのだ。俺には何故か昔から絵の才能が飛び抜けてなかった。美術の成績なんて2をとる位だ。しかもこの小説、表現力がすごくあり、すごく読みやすい。これじゃあ俺の小説が打ち切りになるわけだ。少しへこみながらも夕食の片付けに向かった。次の日、クラスではあの小説の話で持ちきりだった。


「この小説マジで泣けるよね」


「それな。この作者マジ天才だわ」


こんな会話がすごく飛び交っていた。


「あの小説って快斗のにちょっと似てるよね」


こいつは遠藤美香、俺のクラスメイトだ。美香は小学生からの幼馴染で家も結構近い。まぁくされ縁ってやつだ。俺の友達はよく、


「お前って遠藤と付き合ってるの?」


と聞いてくるが、とんでもない。美香は顔が可愛いから結構男子から人気がある。でも、頭が残念なのだ。勉強が昔からできず、突拍子もないことばかり言ってきた。例えば、


「テストなんて取っても高卒だったら意味ないっしょ、100点も10点も0が一個変わるだけじゃん」


とかだ。流石に俺も呆れた。後、美香は胸の部分が少し寂しい。本人は今から成長期だと言っているが、それも夢になるだろう。


「俺の小説とあの小説、どっちが面白いと思う?」


俺は率直に聞いた。


「快斗の小説の方が私は好きだよ」


美香はこの辺の心遣いができる。


「俺はお前のそういう所が好きだぜ」


なんて、心の言葉が危うく出てくるところだった。


「でも快斗の小説って実話も少し入れてるんでしょ。この人とよく作風かぶったわね」


「俺もそこが不思議なんだよ」


確かにそれは俺があの日編集者と話して以来ずっと疑問に思ってきたことだ。普通俺みたいな親いない環境って珍しいはずだ。それがどうやったらかぶるのだろう。


「まぁ、快斗も頑張ってね❤️」


やっぱり照れる。美香は多分自分が思っているより可愛い。しかも天然だから、そこんところがまた可愛らしい。少し周りから重たい視線を感じるような気がするが、気のせいだろう。俺はあの小説の作者についてずっと考えていた。


夕方、家に帰ると過去一予想外のことがまっていた。

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