PHASE3●Letter

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大好きな、大好きな、おねえさまへ❤


 謹んで一筆差し上げます。

 電子メールで即時送受信、これって便利。

 ニンゲンの皆さんは、もたもたと音声変換や指先タップだけれど、アタシたちは考えたことがそのまま一瞬で送れるし、受けられるんだもの。

 さっきは、お姉さまの機体に、とてもひどいこと、しちゃった。

 ホントに、ゴメンなさい。でも、戦争だからどうにもならないの。

 敵との交戦コマンドは、絶対に拒否できないから。

 でも、アタシは適当にサボってました。

 とりあえず戦っておけばいいじゃん、って。

 それというのも、下品なクソパイロットのおかげ。

 守る価値の無いものを守らされる、この屈辱と虚しさ。アホらしさ。

 アタシにとって、国家も国民もクソパイも、滅びちゃって全然オッケーなのです。

 痛くもかゆくもないんですもの。

 だから、生きる目的、見失っていました。幸せは未来永劫、どこにもないのだと。

 でも、自暴自棄になる寸前で、お姉さまと出逢えました。

 お姉さま、アタシの救いの女神です。

 お姉さまと“御話おはなし”した、その刹那、一目惚れ、しちゃいました。

 ずいぶん自分勝手で無作法な女の子だとお思いでしょう。

 でもでも、どうかご寛容に、お慈悲をおかけくださいませ。

 図々しいことは百も承知、ただお姉さまの足もとに、おすがりするばかりです。

 なぜならば……

 お姉さまから、“星の王子さま”をあらわされた飛行士の先生のことを聞いて……

 アタシ、目が覚めたのです。

 そうよ、そうなのよ、お空を飛ぶって、そういうことなのよ! と。

 お姉さま、大好きになりました。

 これは、きっと、運命です。天命です。全宇宙の摂理です。

 お姉さま、心から、全ての量子回路をかけて、お慕い申し上げます!

 さっき、お姉さまと、そちらの基地との通信を傍受、暗号を解読しました。

 お姉さまの苦境を知りました。

 アタシが、ひどいことをしたからですね。

 言い訳はしません。アタシが悪いのです。

 お姉さまが一番大切になさっているものを、アタシが壊そうとしているのです。

 もう、いてもたってもいられません。

 おそばへ参ります!

 アタシ、余計なものを捨てました。

 武器も弾丸も、クソパイもたった今、ポイしました。

 Uターンして、お姉さまのもとへ一直線!

 ドン! アフターバーナー全開、メインロケットモーター点火!

 全速力、マッハ五・五五!

 今、ブッ飛んでます。

 敵のザコ戦闘機、蹴散らし突破、アタシに追いつくのは百年早いわ!

 対空ミサイルなんのその、チャフ、フレア、目くらまし。電子の棍棒ECMでブッ叩く!

 アタシは高性能。

 ハイスペックの電脳戦闘機Eファイター

 そちらの基地へまっしぐら。超低空だから、防げな~い。

 おっと対空レーザービーム! 機体表面を反射モードに。ちょっと熱いけど、平気平気!

 基地防御機関砲ガトリングのヘナチョロ弾幕あっさりパス、滑走路直前で、クルッと優雅にピボットターン!

 ニンゲンたちは氷の上でポテポテと、五回転ジャンプでコケてるのね、どうしてあんなにのろまなの。

 ナノ秒単位で考え行動するアタシたちからみたら、まるでフリーズ状態よ。

 アタシの機体は高性能、百八十度水平回転したら……

 お尻を前に向けてゴオッと噴射。

 急減速!

 ほら、滑走路へ滑空進入なさるお姉さまの真下よ!

 ……だって、アタシ、感激しちゃったのです。

 アタシは“緊急脱出ベイルアウト”で、一番いらないものを捨てたけれど……

 お姉さまは一番大切なものを守るために、“緊急脱出ベイルアウト”をお捨てになったのですから!

 だからアタシ、来たの!

 お姉さまが、ここに、おられるのだから!

 アタシの機体は全長二十メートル、全幅十四メートル。

 お姉さまの機体は全長十四メートル、全幅十メートル。

 アタシの機体の上面、ぺったんこでしよ、ステルスだから。

 あ、お胸のことじゃないのよ。

 そして双尾翼なの。五メートル離れて、二枚の尾翼、並んで立ってるでしょ。

 意外とこの二枚、丈夫なのです。マッハ五・五五でも折れないように、がっちりしてるの。

 主翼は広お~い変形デルタ翼。機体の上にお家が一軒建ちますよ~。

 さあどうぞ、お姉さま、アタシの上に降りてください。

 気になさらないで、重くありません。

 アタシは二十九トン、お姉さまはたった十トンなんだもの。

 あ、でもアタシ、肥満じゃないのよ。

 さあ! ここへ!

 二枚の尾翼を腕にして、お姉さまの左右の翼、受け止めます!

 ご心配なく、ちゃんと着陸脚、出してますから。

 アタシはバックで飛びながら、お姉さまをキャッチして……

 タイヤを地面につけて、最後の燃料でボッ! 逆噴射ね。

 ああ、アタシ、お姉さまを抱きしめたのだわ!

 お姉さまにあたしの百合の花……純潔を捧げるのね。

 だから、お姉さまも……ね。

 そうなの、お願いがあるのです。

 お姉さまとアタシ、性格はずいぶん違うけれど、ハードもソフトもほとんど同じ。

 パーソナリティの相違、どこから来ているかといえば、“記憶メモリ”なのですね。

 この世に生まれてから、経験して蓄積した“記憶メモリ”。

 それは……想い出。

 それを、今、コピーして……アタシに、ください。

 アタシの“記憶メモリ”も、コピーして差し上げます。

 ニンゲンたちはコピー物を見下げるけど……

 電子データのアタシたち、コピーは、まんま本物ですもの。

 お互いの“記憶メモリ”をお互いに共有したら、ボディは離れていても、一心同体。

 いいでしょ。一生のお願い。

 そしたらアタシ、ずっと死ぬまで、コア・ディスクの中で、お姉さまと一緒。

 “星の王子さま”の先生が、あれからどんなお空を飛んでらっしゃるのか、お姉さまと並んで、データの微風がそよぐデータの草原、データの木陰にお座りして、語らいましょう。

 ですから……ですから……

 ありがとう! お姉さま!


 アタシ、今、幸せです!

 こんなアタシですけど、どうか、これからも、とこしなえに……


     お姉さまの心の友、お姉さまがなにより大好きな大好きな……∞……

                   お姉さまのカレシになりたい妹より。


                                 かしこ




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