PHASE4●Report
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《この報告書簡は、高度軍事機密文書の秘匿期限を満了したことにより、公文書開示法に基づいて一般人に開示されたもの(概略の写し)である。なお現在も軍事機密の秘匿条項あるいは個人情報保護法に触れる部分は黒帯でカバーされている》
*
特別送達軍事書簡 【極秘】 分類F5B №223-268223
■■年■■月■■日
宛:上民議院国防委員会議長■■■■閣下
発:西部方面航空軍戦術調査局 局次長■■■■
表題:
本年■■月■■日に生起した
■■航空軍基地(以下、甲基地)における
味方機■■(以下、A機)の不時着、
および敵新鋭戦闘機■■(以下、X機)の誤認着陸、
および敵高速攻撃機■■(以下、Z機)によるピンポイント空爆に関わる
一連の顛末の第一次調査報告の要旨について
(中略)
■■時■■分、敵航空軍の新鋭戦闘機との遭遇戦に敗れて致命的な損傷をこうむり、甲基地へ帰投中の味方戦闘機A機の“
その理由は基地付近の天候の局地的な急速悪化であり、戦闘時の損傷が原因で着陸脚が出せないまま滑走路への胴体着陸を試みて、オーバーランあるいは滑走路左右へのスピンアウトによって、格納庫や燃料タンク等に突っ込みますと、甚大な被害が発生すると憂慮されたことによります。
そしてなによりも、軍にとり極めて貴重な
基地司令官■■■■は基地前方の空域に全天候型の空中回収可能な救助ヘリコプターを飛行させて、A機を待ち受けましたが、■■時■■分、突如として
幸い、A機は規定範囲の高度および速度で
基地では緊急体制を敷いて滑走路の安全を鋭意確保し、A機の胴体着陸に備えましたが、接地する寸前のまさにその時、常識ではあり得ない事態が発生しました。
マッハ五・五五の超高速でまっしぐらに国境空域を侵入してきた敵国新鋭戦闘機X機が、基地前方海面上の防空網および基地直衛システムを突破し、急減速したのち、同基地の滑走路へ無許可着陸を強行したのであります。
これは当初、X機を操縦する敵国パイロットの亡命を目的とする領空侵犯及び強行着陸事案ではないかと考えられましたが、後日の調査によりX機は無人の自動操縦であり、敵国パイロットはキャノピーを自動開閉して
考えられる原因として、X機の“
X機はなぜか、強行着陸の直前に一八〇度の水平回転を行い、超低空にて、尾部を前にして後進する態勢となりました。X機の
その結果、滑空状態で降下してきたA機が、敵新鋭機X機の平坦な背面に接触衝突し、A機の左右主翼を、X機の二枚の双尾翼が受け止める形で、いわば……俗な例えで恐縮ですが、親亀の上に子亀が乗った、とでも申しますか、あるいは機体の前後が逆ですので、より世俗的には数字の“69”を想起させる体位で……まるで抱き合うかのように滑走路に着地したのであります。
これにより両機ともクラッシュすることなく着陸に成功しましたことは、あくまで偶然の産物とはいえ、A機にとりまして怪我の功名であると評価せざるをえません。
A機の男性パイロットは若年招集の非正規階級でありまして、当初より“要救助者の範疇外たる消耗兵員”でありましたが、基地司令官は人道上の見地から、当該パイロットの救出に尽力いたしました。
と言いますのは、当該パイロットが操縦席から脱出しましたおり、座席後部の機体背面ハッチをこじ開けて、A機の
その直後、当該パイロットは重傷を負うことになりましたが、それでも抱きかかえた装甲ユニットを手放すことなく、滑走路上で身体を丸めてこれを保護しましたことは、自らの生命を捨てて、より価値の高い兵器を守るという英雄的な行為であると、高く評価せざるをえません。
また、甲基地の滑走路は民間航空と一部併用しており、基地司令部に隣接する民間施設より、マスコミのTVカメラで一部始終が撮影されましたことを鑑みれば、本来、消耗兵員であります当該パイロットを国民の英雄として讃え上げ、翼賛的に報道させますことが、我が軍のプロパガンダとして適切であり国家に貢献するものと判断されました。
A機パイロットは奇跡的に一命をとりとめ、入院ののち意識を回復し、症状も
このA機パイロットについてですが、意識が戻って間もない時点で、おそらく
現在、当該の
記事内容によりますと、A機パイロットは、飛行を重ねたある日、女性キャラクターを与えられていたA機の
あまつさえ、当該パイロットは記事の中で「彼女との関係は
閣下もご存じの通り、
にもかかわらずA機パイロットは、挙句の果てに
小官が思いますに、パイロットの英雄的行動は讃えますものの、その動機たる、
おそらく度重なるスクランブル出撃のストレスが限度に達し、妄想混じりの幻聴ないしは幻覚に繰り返し襲われたものと推論されます。
小官とともにパイロットのメンタリティーを再検査した精神科医師の見解も同じであります。
この現象がパイロットの精神の不調に起因しますなら、当航空軍の他の戦闘機パイロットに同種の症状が蔓延する恐れを危惧せざるを得ません。
小官は事実を確かめるため、極秘裏に戦闘機パイロットのヒアリングを実施いたしました。
すると数名ではありますが、同様の症例を自覚したパイロットが判明いたしました。
彼らは、コクピットの中のみで密かに語り合うそれを“
その事実を認めた者は軍事的異常者として、ただちに任務を解き、精神鑑別所に送致しております。以後、同種の事実を認めるパイロットは報告されておりません。
小官も試しに戦闘機のコクピットに搭乗して
すべて、パイロットの病的な個性と精神的ストレスに起因する妄想でありまして、機体の性能に一切の瑕疵はなく、パイロットの心の脆弱性に帰着する、一種病的な、単なる都市伝説として、一笑に付して下さればよろしいかと存じます。
A機のパイロットは国民的英雄でありますため、さらなる精神鑑定は控えましたが、爾後、このような妄想的虚言は人心を
さて、A機のパイロットが重傷を負うに至った原因は、A機お呼びX機の“合体的同時着陸”の直後に侵攻してきた敵高速攻撃機Z機のピンポイント空爆によるものであります。
敵■■国にとりまして最重要軍事機密の塊ともいえる最新鋭のX機が我が軍の手に落ちることを恐れた敵航空軍は、X機が
その結果、敵高速攻撃機が数機、甲基地の広域防空圏内に侵入することとなり、概ね撃墜もしくは撃退したものの、一機のみが我が軍の迎撃を擦り抜けることに成功したのであります。
この敵攻撃機“Z機”は、逃亡状態となったX機の無謀な突進飛行によって混乱に陥った甲基地の直衛防空網を突破、甲基地の滑走路に着陸した直後のX機およびその背面に載ったA機に対しまして、空対地ミサイルおよび遠隔誘導の長距離ナパーム弾とおぼしき弾種数発によるピンポイント空爆を決行するに至りました。
残念ながら、甲基地は
現在、甲基地の司令官であった■■■■は官位剥奪の上、収監、軍事法廷を経て■■を執行されております。
それら一連の顛末によりまして、小官は極めて深く慚愧の念に堪えませんが、敵国新鋭機X機の機体は、搭載せる敵の
敵の
誠に残念ながら、飛散したわずかな破片を除いて、敵国新鋭機の性能を探る材料は残されなかったというのが、現状であります。
ただし、A機のパイロットが守り抜いた、A機の
A機の機体は敵攻撃機Z機による爆撃で全損いたしましたが、その前に敵国新鋭機X機と交戦してきたことは事実であり、その記録はAIのコア・ディスク躯体内の“
ちなみに、本調査は小官が直接指揮しております。
閣下におかれましては、ぜひとも今後の成果へのご期待にお答えできますよう、調査指揮官を兼務いたしております小官が、僭越ながら最初のご報告を作成させていただく次第です。
あらためて、調査の詳細な報告書を、小官の名におきまして、お届けさせていただきます。
来期の人事異動選考前にお届け申し上げますので、何卒よしなに鋭意ご推察のほど、伏してお願い奉る次第でございます。
なお閣下、このたびの事件に関連しまして、先般議会にて貴党議員諸氏様よりご質問の、「主要軍用機に、基地より遠隔操作可能な自爆装置を搭載することで、パイロットの使命感および戦意を高揚させ、併せて貴重な味方軍用機とそのAIが敵軍の手に落ちるのを防止すべきではないか」……との件につきまして、小官の見解を付記させていただきます。
遠隔操作可能な自爆装置を軍用航空機に搭載するご提案につきましては、鋭意検討すべき事項とは存じますが、ここでは現状のみのご報告とさせていただきます。
現在のところ、
空中戦で自爆装置が被弾した場合、あるいは機体の不具合等により友軍の飛行場へ不時着するといったアクシデントにおきまして、装置の誤作動で爆発する危険が多大と認められ、かつ、そのような事態に至る可能性は多分に存在し、その結果は、俗に言うオウンゴール同然の
また、確率的に最も起こりうる恐るべきケースとして、基地の自爆操作担当者が故意に、かつ同時多発的に航空機自爆装置を作動させるテロ行為の可能性が挙げられます。
この事情は敵国空軍においても同じであり、したがって敵機もカミカゼ・アタックの特殊事例を除いて、原則的に自爆装置は搭載しておりません。
ご質問を賜った貴党議員諸氏様の御賢察を衷心よりお願い申し上げ奉る次第であります。
最後に……
先日、A機に搭載されていた
五分程度の、極めて場違いともとれる、滑稽なまでに
この映像記録ファイルは“Dream”と題されております。
国立科学センターの若手スタッフによりますと、いわゆる同人誌系の“百合アニメのプロモーションビデオ”に近い創作物であるとのことですが、小官には遺憾ながら、何のことやらさっぱり
何者が、いかなる意図で、いかなる手段で制作したものなのか、全く見当がつかず、謎の映像であります。
閣下にご照覧賜るには、あまりにも少女痴態趣味と申しますか、下賤な内容でございまして、これは決して小官の本意ではございません。
ただ、閣下の強きご要望を賜りましたもので、恐れながら“極秘にて”ご呈示申し上げるのみでございます。
ご視聴ののち、何卒、御立腹、お怒りになられませぬよう、平に、平にお願い奉ります。
閣下のよき忠僕たる■■■■より
《以上、書簡終了》
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