閑話 ちょっぴり本気のお嬢様

 王都にある学園の新学期初日。

 広大な敷地に建てられた建物の一つ、訓練室に貴族コースの女生徒達が集められていた。

 淑女として育てられる貴族令嬢達は、基本的に蝶よ花よと育てられるのだが、中等部の最初の体育の授業のみ、強制的に護身術を学ぶことが決まっているからだ。

 理由はいくつかあるが、自分達が護られる存在であることを自覚させるためである。


 初等部の頃であれば男女の体格差はないに等しく、また才能や環境による部分が大きい。それゆえ、お転婆貴族令嬢が兵士志望の少年に勝つこともありうる。

 けれど中等部に上がる頃には性別による体格の差が現れ、また訓練による成長の影響も出始めるために、お転婆貴族令嬢が兵士志望の少年に実力で勝つことは万に一つもなくなる。


 むろん、女生徒が絶対に男子生徒に勝てないという話ではない。騎士になった女生徒が多大な活躍をして、英雄と呼ばれるに至ったケースも存在している。

 だがそれは、血の滲むような訓練をした結果に他ならない。


 貴族令嬢は、礼儀作法を始めとした、学ぶべきことが数多く存在する。それらの合間におこなった護身術で身を守るのは無謀。生兵法は大怪我のもと、ということだ。

 ゆえに、貴族令嬢には、いざというときに逃げるように身の程を知ってもらう。


 これが貴族コースの女生徒が、中等部になって護身術を学ぶ理由である。そして、その授業を受け持つ教師は、かつて騎士だった初老の男、テレンスだ。

 彼はかつて優秀な騎士だったのだが、とあるご令嬢の護衛任務の際に夜盗に襲われ、撃退をするも大怪我を負って引退に追いやられた。


 本来であれば、問題なく撃退できるはずだった。

 だが護衛対象のご令嬢が自分も戦えるからと無謀を重ねてピンチに陥った。そのご令嬢を救う為に盾となり、彼は騎士としての未来が絶たれてしまったのだ。


 だが、テレンスはそのご令嬢を恨んではいない。ご令嬢に緊急時は逃げろと、付け焼き刃で戦うのは危険だと教えなかった者の怠慢だと思っている。

 それゆえ、彼はご令嬢に身の程を教えるという嫌われ役を続けている。

 もう二度と、同じ悲劇を繰り返さないために。


 そして今年もまたご令嬢が入学してきた。護身術の授業に気後れしている令嬢が大半だが、慢心した顔をしている令嬢達も少なからずいる。

 実家で付け焼き刃の護身術を学び、自分の身は自分で守れるのだと誤解したご令嬢達。彼女達の側に、いつでもテレンスのような護衛がいるとは限らない。


 ゆえに、最初が肝心。

 自分達が学んでいるのは付け焼き刃の護身術でしかなく、その技術は古傷を抱える老いぼれ騎士が相手でも通用しないのだという現実を思い知らせる。


「お嬢様方には身を護る術を学んでいただきます。誰か、この老いぼれ相手に護身術を見せてくださるご令嬢はいらっしゃいませんか?」


 テレンスはジャージに身を包んだ令嬢達を見回した。

 ここで一歩後ずさる令嬢はもちろん、視線を逸らすような令嬢なら問題ない。護られるという一点において臆病なのは利点である。

 問題なのは、テレンスを相手にしても良いところを見せられると慢心している令嬢だ。


 テレンスはかつての古傷が原因で片腕の握力が落ちているし、なによりも老いている。だが、それでも、付け焼き刃程度の護身術しか学んでいない子供では相手にならない。

 それを想像できない自惚れが危険なのだ。


 誰の鼻を折るのが効果的だろうか?

 そんな風に相手を吟味していると、一人の令嬢が目に入った。


 日の光を浴びて煌めく白金の髪。身に着けているのはみなと同じジャージだが、そのデザインにはアレンジが加えられている。

 一目で高貴な生まれだと分かる娘がこちらをまっすぐに見据えている。


「ふむ……そこのお嬢様。名はなんと仰るのですか?」

「わたくしはソフィアでございますわ、テレンス先生」


 澄んだ声で紡がれた名を聞いて納得する。

 その名は記憶している。ローゼンベルク侯爵家の娘の名だ。名門中の名門の生まれで、学年主席の結果を叩き出している。

 おそらく、護身術にしても相応の努力はしているのだろう。


 そのことは、彼女の自己紹介からもうかがえる。

 家名を含めて名乗るのが通例であるにもかかわらず、彼女は家名を名乗らなかった。彼女は家名に頼らずとも、自分という存在に自信を持っているのだ。

 だが、だからこそ、身の程を教えるデモンストレーションとしては最適の相手だ。


「では、ソフィアお嬢様。この老いぼれに実力を見せて頂けますかな?」

「わたくしで良ければ喜んでお相手させて頂きます。そして、テレンス先生。わたくしは生徒で、あなたは教師です。お嬢様などと敬称をつける必要はありませんわ」


 思わず笑みがこぼれた。

 教師が生徒よりも目上であることは当たり前だが、貴族コースの子供達はそれを忘れている者が多い。毎年苦労させられるのだが、彼女は随分と気持ちの良い性格のようだ。


「では、ソフィア嬢。この老いぼれと模擬戦をして、その実力を見せてくだされ」

「かしこまりました。武器はなにを選んでも構いませんか?」

「おや、貴方は武器を持ち歩いているのですかな?」


 テレンスはほんの少しだけ挑発するように問い掛ける。

 とっさに状況で身を護るのが護身術なのだから、普段持ち歩いていない武器を使ってどうするのかという皮肉が含まれている。

 これで激昂するのなら失格だが、ソフィアは表情を変えなかった。


「そう、ですね。普通は武器など持ち歩きませんよね。ええ、もちろんわたくしも武器なんて隠し持ってたりはいたしませんわ」

「……ふむ? では、素手と言うことでよろしいですかな?」


 ソフィアの言い回しに若干の違和感を覚えながらも素手での模擬戦を持ちかける。それに対して彼女は、「では開始と共に全力で逃げさせていただきます」と口にする。

 キョトンとしたテレンスは、次の瞬間にその言葉の意味を理解して笑みを浮かべた。


「……テレンス先生?」

「いや、失礼しました。あなたの言うとおり、逃げるのが正しい判断です。半端に習った護身術など無意味。自分の身を護れるというのは思い上がりでしかありませんからな」


 授業の目的は、生兵法は大怪我のもとであると自覚させること。

 彼女が己を知っているのなら他の生徒を指名するべきだと思ったのだが、彼女は「わたくしの学んだ護身術が無意味かどうか、その目で確認してくださいませ」と態度を一転させた。


「逃げるのが最高の自衛手段だと理解した上で戦うと仰るのですか?」

「ええ。貴族令嬢にも戦わなければいけないときがございます」


 ソフィアが意見を翻したのは、シリルに学んだ技術を無意味だと否定されたから。

 そのようなことがテレンスに想像できるはずもない。ソフィアが自分の護身術に自信を持っていると判断した彼は、その自信を打ち砕くべきだと判断した。


「……ではお手合わせを願います。準備はよろしいですかな?」


 テレンスの問い掛けにソフィアは答えず、ほんの少しだけ膝にゆとりを持たせる。そうして背筋を伸ばして腰を落とし、そのうえで軽く半身に身構えた。

 凜とした佇まいで、素人が見ても構えているようには見えないだろう。けれどテレンスは、どこから来ても受けて立つという、ソフィアの明確な意思を感じ取った。


 彼がこれほどの圧力を感じたのは、現役のころを除けば初めてだ。それを放っているのがまだ十二の可憐な少女であることに戦慄させられる。


 だが、それでも、現役の頃であればモノともしなかっただろう。つまりは生兵法でしかなく、ここで現実を教えておかなければ彼女自身が痛い目を見るかもしれない。

 だから――と、テレンスは老体を奮い立たせた。


 悲劇を繰り返さない。

 その意思に突き動かされてソフィアとの距離を詰める。即座に腕を掴もうとするが、ソフィアの手刀によって叩き落とされた。

 だがそれは、ソフィアが掴み合いになることを嫌ったからに他ならない。筋力差では明らかにテレンスに軍配が上がる。

 筋力勝負に持ち込もうと手を伸ばすが、ソフィアは巧みに腕の外側へと踏み込んだ。

 地面の上を滑るような足運びで回り込んでくるが、テレンスもまた軸足を中心に身体を捻る。一点を中心に身体を捻るテレンスが背後を取られることはない。

 ――その油断に付け込まれた。


 不意にソフィアの姿が消える。彼女がしゃがんだのだと気付いたときには、軸足に彼女の放った足払いが迫っていた。

 普段であれば難なく受け止めることが出来るはずだが、いまの軸足は素早く回るために地面との接点が減っている。彼女はそれを狙っていたのだ。


「――まだだっ」


 軸足を払われる――寸前、地面を蹴って宙に浮いて足払いをすかす。かすった足払いに軽く体勢を崩すが、テレンスは即座に空中で体勢を整えた。

 その瞬間、ソフィアが小さく笑う。それを見たテレンスは、自分が宙に逃れることまでもが彼女の読み通りだったことを理解する。

 地面を蹴って伸び上がるのと自由落下では、前者の方が明らかに速い。浮き上がっていたテレンスが重力に引かれ始めた刹那、ソフィアが地面を蹴って伸び上がった。


 テレンスには、その細腕から放たれた掌底を防ぐ手立てはない。

 とっさに交差した腕で受け、その衝撃に逆らわずに上半身を仰け反らす。その勢いのまま反転した彼は地面に手をついて、バク転の要領で後方に逃げる。

 追撃がないことを確認した彼は小さく息を吐いた。


「……ふむ。これは驚きましたな」


 平静を装ってはいるが、零れた言葉は紛れもない本音だ。まさか、温室育ちの貴族令嬢がここまで動けるとは夢にも思ってもみなかった。

 だが、そんなテレンスの言葉に、ソフィアの表情は硬いままだ。

 派手に吹き飛ばされこそしたが、それは宙に浮いていたからに他ならない。上手く衝撃を受け流したために、テレンスは実質的なダメージを受けてはいない。

 それを彼女は理解しているのだろう。


 なればこそ――と、テレンスは彼女の動揺をつくことにした。

 再び無造作に距離を詰め、ソフィアに掴みかかる。力比べを嫌ったソフィアがその腕を叩き落とすところまではさきほどと同じ。

 だがテレンスはその勢いをそのままに身体を反転させて裏拳を放った。その一撃が狙い違わずこめかみへと吸い込まれる――寸前、ソフィアがぐっと仰け反った。

 鼻先を掠めた拳の風圧で、彼女の前髪がふわりと揺れる。


「……先生は、随分とスパルタですわね」

「むろん、当たりそうになれば寸止めするのでご心配なく」


 テレンスの力量であれば、拳を寸止めすることくらいは容易い。だがそうは言っても、並みのご令嬢であればとっくにへたり込んでいるだろう。

 にもかかわらず、ソフィアは少しだけ眉をひそめただけ。曇りなき瞳はテレンスの全身を捉えるのみで、拳を恐れるような色は浮かんでいない。


 ここまで来れば、ソフィアの評価をあらためざるを得ない。

 むろん、かつては一流の騎士だったテレンスから見ればまだまだだが、決して生兵法と言えるような技術ではない。彼女は間違いなく自らの力で身を護る術を身に付けている。


 そもそも、彼女は最初に逃げるという選択を視野に入れていた。彼女であれば引き際を誤ったりはしないだろう。

 だが、貴族令嬢が無謀をしないように身の程を知らしめることがテレンスの役目。ソフィアが身の程を知っているのだとしても、このままでは他の令嬢を増長させてしまう。

 だから――と、テレンスは三度(みたび)ソフィアに襲いかかった。


 時に掴みかかり、不意を突いて拳を振るう。間合いから外れようとする彼女に向かって蹴りを放った。それらの攻撃をソフィアは全て回避する。


 高等部に通う騎士志望の生徒でもなければここまで動ける者はいないだろう。それを理解した上で、テレンスは故意に口の端を吊り上げて見せた。


「逃げ回るだけなら、最初から戦闘を回避していた方がマシだったのではありませんかな?」


 ソフィアは護身術に並々ならぬ自信を持っていると、その認識による挑発。刹那、回避に専念していた彼女が、瞳を赤く染めて前に踏み込んだ。


(掛かった――っ)


 多少の技術はあれど、やはり精神的に未熟な子供に他ならない。ソフィアの動きを読んだテレンスは、その踏み込みに合わせてハイキックを放った。


 一瞬遅れでソフィアもハイキックを放つ。

 本来であれば、先にテレンスの蹴りがソフィアの肩を捉えるはずだった。だがソフィアの蹴りはグンとスピードを増した。

 このままでは、ソフィアの蹴りが先にテレンスを捉える。

 刹那に判断した彼は、蹴りを放ちながら上半身を反らした。それによって、ソフィアの蹴りの射程から、強引に自分の上半身を退避させる。

 だがそれと同時、ソフィアも上半身を仰け反らせていた。


 互いの蹴りが軌道を変え、脚と脚が交差する。

 だが、テレンスの脚とソフィアの細い脚とがぶつかり合えば、ソフィアの脚が折れてしまうかもしれない。少なくとも、アザにはなるだろう。

 引退した老いぼれ騎士とはいえ、令嬢にアザを作るなどたとえ訓練であろうともあり得ない。刹那に判断を下したテレンスは軸足に力を入れて寸前で足を止めた。


 けれどソフィアは止まらず、制止したテレンスの脚を蹴り飛ばした。いくら体格が違うとはいえ、振り上げた脚を蹴り飛ばされて耐えられるはずがない。

 テレンスは体勢を崩して尻餅をつく。その衝撃をやり過ごして立ち上がろうとするが、それより早くにソフィアが躍り掛かってきた。


 テレンスが動くよりもソフィアの方が速い。マウントを取られることを確信したが、彼女は袖口に手を伸ばして硬直した。

 その理由を理解するよりも速く、反射的に巴投げでソフィアを投げ飛ばした。


「しま――っ」


 声を漏らしたのはテレンスの方だった。

 令嬢に大怪我をさせたのではと恐怖するが、振り返ったテレンスが目にしたのは前回り受け身を取って立ち上がるソフィアの姿だった。

 思わず安堵の溜め息をついたテレンスは、すぐに「ここまでだ」と模擬戦を中断する。


 中等部の生徒にここまで動ける者がいるとは思っていなかった。古傷を抱えて年老いたテレンスに、傷付けずに彼女を圧倒することは不可能だろう。

 さきほど反射的に反撃してしまったのも彼女に気圧されたから。テレンスはソフィアを大きく評価したのだが、肝心の彼女は不満気な顔をしている。


 模擬戦の中断に不満を抱いていることは明らかだ。だが彼女ほどの力量を持つ者が、なぜ模擬戦ごときにこだわっているのかが理解できない。


「ソフィア嬢、さきほどの一撃。私が蹴りを止めなければ貴方は脚を痛めていた可能性が非常に高い。それを理解しているのですかな?」

「貴族令嬢にも戦わなければならないときがございます、そう申し上げたはずです」


 その言葉自体は理解できなくもない。

 だが、模擬戦で負傷を覚悟するというのがまるで理解できない。だが――と、テレンスは彼女の蹴りが驚くべき速度に加速したことを思い出す。


(まさか、身体能力を強化する魔術を使ったのか……?)


 噂には聞いたことがあるが、テレンス自身は使えないので判断は出来ない。だが身体能力を強化していたのだとしたら、負傷しないだけの算段があったのかもしれない。

 そんなテレンスの予想を見透かしたかのように、ソフィアは首を横に振った。


「わたくしは、自分が未熟なことを理解しています。先生が手加減をしてくださらなければ、わたくしは為す術もなく敗北していたでしょう」

「それなのに、逃げる選択をしなかった、と?」

「ええ。わたくしが学んだ技術は、決して無意味などではありませんもの」


 凜とした彼女の言葉に胸を打ち抜かれた。

 彼女の強い意志を秘めた瞳には、技術を教えてくれた者への強い敬意が感じられる。


「なるほど。ソフィア嬢の師を貶すつもりはありませんでした。謝罪しましょう」


 ソフィアは「許します」と微笑んだ。

 それは自らが怒っていた理由を認めると同時に、これで手打ちにするという意思表示。彼女は随分と清々しい性格をしているようだ。

 そのうえで「わたくしも生意気な口を利いたことを謝罪いたします」と続ける。


「むろん許します。生徒が生意気な口を利くのはいつものことですからな」


 戯けてみせると、彼女はふわりと態度を和らげた。

 中等部に上がったばかりとは思えぬ気高く美しい令嬢だ。


 彼女であれば、身の程をわきまえずに護衛に迷惑を掛けるようなことはないだろう。だが、そんな彼女を見て、自分達も戦えるのだと誤解する令嬢が出てくるかもしれない。

 そんな不安を抱いて周囲を見回したテレンスは――それが杞憂だったことに気付く。


 気の弱そうなご令嬢は言うに及ばず、自分の身は自分で守れると慢心していたご令嬢ですら、何処か呆然とした顔でこちらに視線を送っていたのだ。

 中でも、特に慢心した素振りを見せていた令嬢がおずおずと手を上げた。


「あ、あの、テレンス先生。この授業では護身術を学ぶとうかがっておりますが、その、ソフィア様のように動けるようにならなければいけないのでしょうか?」

「もし貴方が自分の身を自分で守るつもりであればそうなりますな」


 肯定したことで令嬢達がざわりと戦く。

 それを確認した上で、彼は「ですが――」と表情を和らげた。


「貴方達には優秀な護衛がついているはずです。ですから、自分で自分の身を護る必要はありません。いざというときに護衛に護られやすいように動く。それが貴方達の学ぶことです」


 テレンスの言葉に令嬢達は目に見えて安堵した。

 そうして、ソフィアのように動くなんて出来るはずがないので、自分は護衛にしっかりと護ってもらえるように、この授業をしっかり受けようと言った空気が広がる。

 予想していたのとはまったく違う展開だったが、ひとまず目的は果たせそうだ。


 安堵の息を吐いたテレンスは、あらためてソフィアに視線を向ける。


「ソフィア嬢、模擬戦のお相手ありがとうございました」

「こちらこそ、とても良い勉強になりました」


 ぺこりと頭を下げて他の生徒達のもとへと戻ろうとする。そんな彼女が脇を通り抜けるそのとき、テレンスは気になっていたことをぼそりと呟いた。

 不意を突かれたソフィアはピクリと反応して、けれど気付かなかったかのようにクラスメイトのもとへと戻っていった。

 それを見たテレンスは、自分の予想が当たっていたのだと確信する。


 テレンスが転倒したとき、躍り掛かってきたソフィアは袖口に手を伸ばして硬直した。もしそれがなければ、ソフィアの手が先に届いていただろう。

 彼がさきほど呟いたのは、ソフィアが袖口に手を伸ばした理由の予想だった。


(まったく。普通は武器など持ち歩かないなどと、よく言ったものだ)


 彼女が最初から最後まで本気なら、負けていたのは自分の方かもしれない。彼女を育てた師に興味を抱く。テレンスがシリルの存在を知って驚愕するのはまた別の話である。


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