第2話 覚醒

「喜多、そろそろ起きろ」

 耳元でぶっきらぼうに囁く女子の声。

 女子の声?

 そんなはずはない。

 俺はまだ独身だし、やさしく起こしてくれる彼女もいない。

「起きろ」

 またしても女子の声。今度は少々苛立っている様な……。

 掛け布団ががばっと剥ぎ取られる。

 うっすら目を開けると、眩い朝日の陽光を受けて浮かぶ魅惑的なシルエットが視界を眼尽くしていた。

 ?

 慌てて眼を開ける。と、至近距離からおれを見下ろす璃璃華の顔。もっと至近距離にたわわに揺れるはりのある乳房がぷるりんこしている。

「ななっ?」

 驚いて跳ね起きる。と同時に布団も勢いよく跳ねあがり、あらわになった璃璃華の白い肌に俺の眼は釘付けになる。

 完璧に目覚めた。

 昨日俺の身に起こった出来事の全ての記憶が、脳内で超高速再生される。

 でも。

 ちょっと待て……なんで?

 何で璃璃華が俺の横に?

 それも素っ裸で。

「り、璃璃華っ! なんなんだその格好はっ!」

俺は慌てふためきながら璃璃華を凝視した。

「御前がそうしろといったではないか」

「えっ?」

 真面目な表情で答える璃璃華に、俺は呆れかえりつつも動揺した。確かに、俺は言ったかもしれない。すっぽんぽんで添い寝しろって。でも普通それを真に受けるかよ。

 ちょっと待て。まだ、おかしい所がある。

 またまた俺は想定外の事実に気付いた。

 俺も素っ裸になっている。

 そんなはずはない。昨日は服を着たまま寝たはず。それが何故?

「璃璃華、俺の服は?」

「昨夜洗濯させてもらった。安心しろ、着替えは用意してある」

「じゃあ、御前が俺の服、脱がしたのか?」

「そうだ。何か不都合はあったのか?」

 璃璃華は顔色一つ変えずに淡々と事務的に俺の問い掛けに答えた。

「もし寿々音に見られてみろ、とんでもない誤解をするぞ、きっと」

「もう見てるし」

「えっ?」

 ぎょっとして振り向く。

 いたああああっ!

 寿々音が、いたあああああっ!

 ベッドのすぐ横で腕を組み、冷やかな眼でじっと俺を見下ろしている。

 昨日と同じ制服姿だが、スカートのチェックの色が紺からブラウンに変わっている。

「な、なんでおまえがここにいる?」

 俺は口から泡をとばしながら、傍らの寿々音を指差した。

「朝ご飯食べに来たんだよ」

「なんでここで喰うんだよっ!」

 寿々音の素っ気ない口調に、俺は妙に腹が立って逆切れした。

「璃璃華が準備しやすいように。二か所に分かれれば手間になるし」

 寿々音はくるりと背を向けると、寝室から出て行った。

「すまない。すぐに準備する」

 璃璃華は大胆に大股開きでベッドから立ち上がると、何事も無かったかのように手早く下着を身につけ始めた。

 くそう。

 いったい俺はどうすりゃあいいんだあっ?

 なんでまたこんな事で悩まんきゃならんのだあああっ!

 全くもって想定外の展開に、俺は耐え切れない気まずさと焦燥に打ちのめされていた。

 そして、俺はつくづく思った。

 何でも無い平凡な人生って、実は滅茶苦茶幸せな生活に違いない。

「喜多、此方に来い。朝食だ」

 璃璃華の抑揚の無い事務的な声が、俺を今という非現実的世界へと引きずり戻す。

 俺はふらふらとそのままキッチンに向かおうとして、慌てて立ち止まり、璃璃華が用意してくれた着替えを身に付けた。黒いボクサーパンツを穿き、黒いメッシュのTシャツに首を突っ込む。更にボトムは黒のパンツ、トップは黒の長袖のシャツ。

 全て黒ずくめ。これは彼女の趣味を通り越してこだわりというべきか。

 テーブルに着くと、寿々音は既にトーストにかじりついていた。

 当然、俺の顔を見ようともしない。完全無視だ。

 どんよりした重い空気とは対照的に、用意された朝食は眼を見張るものがあった。テーブルにはベーコンエッグとポテトサラダ、グレープフルーツジュースにヨ

ーグルトのフルーツ盛り合わせといった健康的メニューが華々しく並んでいる。

 凄い。これだけ豊富なメニューに彩られた朝食なんて今までに食べた事が無い。

 歓心の思いで合掌すると、俺はトーストに手を伸ばした。

「ったく。信じられない」

 寿々音は嫌悪に顔を歪めながら毒づいた。

「なんでそう簡単に開き直れるわけ?」

 トーストの耳をがしがしとかじりながら、寿々音は呆れた表情を浮かべて俺をねめつけた。

「それって、どう言う事?」

 俺は眉を顰めた。

「こんなとんでもない世界に迷い込んだのに、悩んだのは昨日の一時だけ? 私は一週間泣き続けたってのに。璃璃華が何でもいうことを聞いてくれるからって、好き勝手やっちゃってるし」

「やってねえよ。誤解だって」

慌てて反論する。

「へん、どうだか」

 寿々音が人を小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「本当だって! ただ冗談で添い寝してくれって言ったら、何故か彼女が真に受けちまっただけだって!」

「すっぽんぽんが抜けている」

 必死で弁明する俺の横で、璃璃華が思わぬ証言を告白した。

「ちょっちょっちょっと待てえ!」

 俺は慌てて否定しようとしたが、当たっているだけに、都合のいい弁明の台詞を吐き出そうにも、全く思い浮かばない。

「誤魔化そうとしても無駄。璃璃華は嘘つかないから」

 そんな俺を嘲笑うかのように、寿々音は何となくとげのある台詞を紡いだ。

「んな事言ったって……」

「それと、一言いっていい?」

 寿々音が、ぎろりと俺を睨みつけた。

「な、何だよっ!」

 本当に何もしていないとはいえ、彼女のどすのきいた低温ボイスに思わずビビってしまった自分が情けない。

「昨夜、シャワー浴びずに寝たでしょ」

「あ、そういえば――」

 確か、缶ビールを空けた勢いで寝てしまったかも。

「でも、ミストなんとかを浴びたから、匂いはしないだろ」

「しますっ! 必ず浴びて。汗臭いから。基地のミストシャワーは汚れは落とせるけど、体の中から出る匂いまでは落ちないから。それとも、昨日の夜、何か汗をかくことでもなさったのかしらあ?」

 笑っていない顔で冗談ぽく言う寿々音が、何だかぞっとするほど恐ろしい。

「はあ……」

 俺はうなだれた。今日は何を言われても反論できそうもない。

「行くよっ!」

 寿々音は、吐き捨てるように呟くと席を立った。

「行くよって、何処へ?」

 俺は口いっぱいに押し込んだトーストをグレープフルーツジュースで流し込むと、慌てて寿々音の後を追った。

「他の反政府組織との交渉よ。共同戦線を組む為にね。今朝、案山子から連絡が入った」

「てことは、ドンパチは無し?」

「まあね。でも、この情報が政府軍に漏れてたら、いきなり実戦デビューかもよ」

 寿々音は意地悪そうに口元を吊り上げて嘲笑を浮かべた。

 実戦、か……。

 僅か二文字のその言葉が、果てしなく重い現実としてのしかかってくる。

「そのままじゃだめだよ。あんたは私以上に顔が割れているから、何かしらの変装をしなきゃ」

 寿々音は口早に言うと、銀縁の眼鏡を掛け、髪を後ろで束ねた。それが彼女なりの変装なのだろう。かなりラフだが意外にもイメージはがらりと変わっている。

「喜多、用意しておいた。使え」

 璃璃華が部屋の奥から何やらごそごそ引っ張り出して来る。眼鏡、化粧品、付け髭、マスク、帽子……その他もろもろ。

 俺は苦笑を浮かべながらそれらを手に取った。度肝を抜く様な科学の発展を見せつけられたこの世界で、こんなアナログな小道具はないんじゃない?

 璃璃華に見送られ、俺達は部屋を後にした。ちなみに変装の小道具は眼鏡とマスク。

 途中、誰と出会う事も無く、俺達はエレベーターへと乗り込む。

 見る限り、俺達の部屋のフロアーには他にもいくつか部屋がある。当然、他の階もそうだろう。他の部屋の住民も案山子との何らかの係わりを持っているのだろうか。

 瞬時にしてエレベーターが止まった。階を表すモニターが『1』になっている。

(いよいよ、か)

 胃袋がひっくり返りそうになる程の耐え難い緊張に、心臓が地鳴りの様な重低音の拍動を刻み、全身を小刻みに震わせていた。軽く握っていた拳に、自然と力が入る。

 ドアが、ゆっくりと開く。

 大理石張りの無人のフロアーは朝の光を受けて白く輝いていた。

 エントランスの自動ドアが俺達のオーラに反応したのか、音一つたてずにスライドする。

 俺は空を見上げた。太陽は見えない。だが頭上には青空が広がっており、空間自体が明るい光に包まれている。

 俺の眼の前を集団登校する小学生の一群が通り過ぎて行く。

(本当にここは地下世界なのかよ)

 俺の潜在意識の中に、今だ現状を受け入れられない蟠りの領域があった。

 平和過ぎるのだ。

 世界を相手に全面戦争の渦中にありながら反政府組織が闊歩する不安定な国家の割には、人々は普通に街を歩き、生活している。ましてやここがハイテク技術を終結させた地下世界で、尚且つ他国の誰もその存在を知らないなんて、信じろと言う方が無理がある。

「お迎えに参りました」

 不意に、長髪で黒いパンツスーツ姿の女子が声を掛けてくる。はっきりとした眼鼻立ち。長いまつ毛は決してイミテーションではなく、生まれながらである事は一目瞭然だ。  

「もしかして、案山子の秘書?」

「はい。麻里李とお呼び下さい」

 俺の問い掛けに彼女は言葉短且つ事務的に答えると、踵を返し、さっさと歩きだす。

 案山子から会話は必要最小限にとでも教育されているのか、彼の秘書は皆必要以上の会話はしない様だ。だが、今まであった秘書の中では一番言葉遣いが丁寧だ。

 麻里李は道路の傍らに停車中の黒いミニバンの前に立つと、俺達に乗る様に促した。

 俺と寿々音が後部座席に乗り込むと、車は朝の通勤ラッシュの兆しが見え始めた八車線の道を走り始める。

「何処に向かっているの?」

 俺は運転中の麻里李の後ろ頭に向かって声を掛けた。

「KU・RARA栄町店です」

「くらら?」

「地下都心で最近店舗を増やし始めたスタンドコーヒーの店です」

 麻里李はハンドルを右に切りながら、他の秘書同様に事務的な口調で回答した。

 俺は呆気にとられて麻里李の後ろ頭と寿々音の横顔を交互にガン見した。

「そんな所でいいのかよ。てっきり廃ビルなんかに人知れず作られたアジトみたいなとこに行くのかと思った」

「そんなベタな場所だとかえって怪しまれるでしょ」

 寿々音は斜に構えながら、無表情のままで冷たく言い放った。

 つくづく思う。

 こいつ、とことん可愛げがねえ。

 車は途切れ眼無く流れる車道からはずれると、高層ビルの立ち並ぶオフィス街の一角で停止した。

 ウインカーを点滅させながら、静かに駐車場へと乗り入れて行く。

「着きました。私はここでお待ちしております」

 麻里李が振り向きながら俺達にミッション開始を告げる。

 俺と寿々音は車を後にすると、そそくさと店内に足を運んだ。

 全面スモークガラス張りで、カウンター席とボックス席があり、そこそこ客の姿が見える。よくありがちなスタンドコーヒー店。但し、俺の世界には無いチェーン店だ。

 店内に入り、寿々音はキャラメルマキアートを、俺は普通にコーヒーを購入し、店の奥に進んだ。

 不意に、窓際のボックス席に座っている女性が軽く手を上げた。

 軽くウエーブのかかった栗色のロングヘアーが、窓越しに降り注ぐ陽光を受けて柔らかい光を湛えている。白いブラウスにデニムのミニスカ―ト。年齢は寿々音と同じ位か。

 はっきりした顔立ちの――言い方を変えれば気性の強そうな――寿々音とは対照的な、丸顔でほんわかした優しい眼鼻立ちの少女だ。飾り気の無い黒縁眼鏡が、彼女の清楚な雰囲気を更に印象付けていた。

「おまたせしました」

 寿々音は軽く会釈しながら呟く様なぼそぼそした声で栗毛女子に声を掛けると、対面席

に腰を下ろした。おれも彼女に従い、その横の椅子に腰を下ろす。

「流石、時間通りね。で、この人が例の?」

 眼鏡女子が興味深げにおれを見つめた。

「そうです」

 寿々音が敬語で答える。

「御免なさいね。初対面なのに挨拶が遅れて。私、佐倉 麗。革命組織『リリース・ポイント』の主宰をやってます。と言っても、構成員は私しかいないけど」

 麗は眉毛を八の字にして申し訳なさそうに俺に謝罪をしながら、深々と頭を垂れた。

「あ、そのう、よろしくお願いします」

 俺もつられて慌てて御辞儀をする。と、おでこがカップに当たり、危うくひっくり返りそうになる。

 この子が革命組織の指導者だって? しかも構成員一人だけ?

 この子一人と共同戦線組んでどうなるというのか。

 それに、見た目が革命家って感じじゃない。休日は紅茶を飲みながら、ひがな一日読書をして過ごすインドア派的イメージたっぷりなのに。

「大丈夫ですかあ?」

 麗が心配そうに優しく俺に声を掛けてくれる。

「んもう、何やってんだか」

 呆れた口調でぼやく寿々音。

 違う。全然違う。寿々音にもこの優しさがあれば、少しでも可愛げがあるのに。

 そう思った俺だったが、即座に撤回。カップに寿々音の手が添えられているのに気付く。倒れなかったのは、彼女の咄嗟の行動によるものだったのだ。

 申し訳ないと思いつつ、小声で有難うと呟いておいたが、返ってきたのは小馬鹿にした様なため息だけだった。やっぱ可愛くない。

「すいません、顔をよく見せてもらっていいですか?」

 麗が小さな眼を見開いておれの顔を覗き込む。

「いいよ。どうぞ」

 俺はサングラスを外すと、マスクを喉元まで下げた。と同時に、彼女の眼がそれまでの倍以上の大きさに変化する。

「驚き。ほんと喜多にそっくり」

 麗は顔を紅潮させながら鼻を膨らませた。

「顔だけじゃなく、名前も同じだなんて……」

 麗は感慨深げに呟くと、うんうんと何度も頷いた。

「私も驚きました。最初は誰一人として疑ったりしませんでした。本物の喜多尚人以外の何ものでもない――それが、案山子が最初に出した答えでした。ですが……」

 寿々音は困惑した表情で眉をひそめた。

「本物はSPに守られて帰宅していた。それも、地下都市の豪邸にね」

「そういうことです」

 寿々音の回答に麗はにこりと微笑むと、カップのコーヒーに少し口を付けた。

「私が得た情報だと、彼らも戸惑っていたみたいよ。でも最終的には自分達をはめる為のフェイクだと判断したみたい」

「我々もその情報は掴んでいます」

「んで、寿々音さん」

「はい」

「今日の御茶会のテーマは彼の紹介だけなの?」

 麗が探る様な眼線で寿々音を覗き込む。

「いいえ。お願いがあります。毎回同じで申し訳ありませんが、麗さんと是非共同戦線を図りたいのです」

「それは、前もお断りしたはず。私とあなたがたとは根本的に方針が違いますから」

 麗は困惑した表情でやんわりと寿々音の申出を退けた。

「方針が違うって、何なんですか?」

俺の問い掛けに、麗は眼を細めて笑みを浮かべた。

「貴方達は政府に対抗しつつ、世界戦争にも勝とうとしています。私は勝ち負けではなく、戦争そのものを終わらせる事を目的としているんです。例え政府を倒し、外の圧力を抑えたとしても、そこには多くの犠牲者が出るでしょうから。私は出来る限り平和に全てを終わらせたいだけなんです」

 俺は黙って麗の言葉に耳を傾けた。新革命組織というより、政治改革を求める市民団体の様な組織なのだろうか。出来れば俺も麗の組織に鞍替えしたい――つくづくそう思った。

「政府はスピリチュアルスーツの開発に今まで以上に力を入れています。先日襲撃を受けた際も、斥候と思われるたった二体で中核支部が壊滅しました。ここのところ革命組織排除の動きが激しくなっています。今こそ共同戦線を張り、奴らに対抗しなければ、私達の未来は無い」

 寿々音は、周囲を気にしてか、小声ではあるものの、強い口調で言い切った。

「申し訳ありませんが、答えは同じです」

 麗は落ち着き払った静かな口調で、寿々音に答えた。仄かな笑みを湛えた彼女の眼の奥に、揺るがぬ強い意志の炎がゆらゆらと揺らめいている。彼女は、意外にも結構芯の強い女性なのかもしれない。

「そう、ですか……残念です」

 寿々音はややうつむきながら、口惜しげに呟いた。

「あのう、佐倉さんはもう一人の喜多尚人をどの程度まで知っているんですか?」

 俺は重い空気を少しでも和ませようと、麗に問いかけた。俺の顔を見たときの彼女の驚く表情と喜多の名を言葉にした時、何かしら親近感に近い感情が見え隠れしているのを感じたのだ。あくまでも、俺自身がそう思っただけの主観的なものだが。

「よく知っているわよ、元旦那だし」

「えっ?」

 爆弾発言だった。衝撃のあまりに、眼球が眼窩から転げ落ちそうになるのをかろうじて抑え込む。麗の突拍子も無い告白に、俺は完璧に言葉を失っていた。

「元、旦那、ですか? え、でも――すいません、変な事聞きますけど、佐倉さんって、歳おいくつなんですか?」

「三十四です」

「ええええええっ!」

 再びの衝撃。俺は目じりが裂ける限界まで両眼を見開き、まじまじと麗を凝視した。

 顔立ちといい、成長途中に見える華奢な体躯といい、どう見たって寿々音と同じ位にしか見えない。

「童顔だから、よく高校生と間違えられたりするの」

 けろけろと控えめに笑う麗を、俺は呆気にとられながら凝視し続けた。

「じゃあ、交渉決裂ということで。御免なさいね」

 麗はカップのコーヒーを飲み干すと、席を立とうと――動きを止めた。

「そう。動かない方が賢明です」

 不意に頭上から若い男の声が響く。見るとダークスーツ姿の長身の男が二名、親しげな笑みを浮かべながら佇んでいる。一人は肩までの長髪、もう一人はそれとは対照的な短髪だ。でかい。身長百八十センチは優にある。引き締まった鋼の体躯に、ほりの深い顔。絵に描いた様なイケメンが、まるでこれから二人をエスコートして連れ去って行くかの様にスタンバイしているのだ。

 他の客達は突然のイケメン登場に色めきだちながら、ちらちらとこちらに眼線を投げ掛けている。

 女性客の憧憬の視線と男性客の嫉妬の視線をスコールの様に浴びながらも、彼らの関心はあくまでも俺達の様だ。

底知れぬ戦慄が、俺の顔面の筋肉を強張らせる。

 恐ろしく悪い予感が脳裏を過る。

「我々は公安です。ちょっとお付き合いしていただけませんか」

 短髪イケメンが、俺達だけに聞こえる様に小声で囁いた。

「ちょっとだけならいいかな」

 麗が眼を細めながらにこりと微笑んだ。

 俺は驚きの表情で麗を見た。何なんだこの余裕綽綽の素振りは。公安といやあ、政府の秘密警察的な存在。よくテレビドラマで見る面々は格闘術に秀でたエリート集団だ。

 麗の落ち着きぶりはただ度胸がすわっているからなのか。特殊能力を駆使する寿々音の存在を意識しての事か。

 寿々音に眼線を投げ掛けると、こちらも動揺することなく涼しい表情でキャラメルマキアートを呑んでいる。

「失礼だけど、此方の方を御存知?」

 麗は徐に手を伸ばすと、俺のサングラスを外し、マスクを下げた。

 二人のイケメンは一瞬瞳孔を見開いて驚きの表情を浮かべるが、すぐさまそれは苦笑にとって変わった。

「存じ上げていますよ。喜多准教授のレプリカですよね」

 長髪イケメンが鼻で笑いながら蔑みの視線を麗に向ける。

「やっぱ騙されないか。流石、公安」

 麗が残念そうに肩を竦める。

「参りましょうか。彼の事も色々と聞きたいので」

 退席を促す長髪イケメンに少しも抵抗する事無く、麗と寿々音は立ち上がった。

「貴方もですよ、喜多先生」

 皮肉めいた口調で短髪イケメンが俺に席を立つ様に促した。寿々音が俺を見つめ、黙って頷く。

 俺はそれに従い、ゆっくりと立ち上がった。

 麗同様、寿々音の表情にも不安の翳りは少しもない。彼女は自分の常人的なスキルを自負しているからか、恐怖に怯える素振りは全くなく、その点は俺も理解出来る。だがもっと別の観点から、俺は得体の知れぬ恐怖を感じ取っていた。

 公安の二人は、当然寿々音の能力は熟知しているに違いない。にもかかわらず、一見武器も何もないままで俺達に近付いて来るなんて、普通ならあり得ない。

 そうなると、考えられるのは唯一つ。この二人は寿々音以上の戦闘能力を体得しているのかもしれない――と言う事。

 店を出ると、二人は黒いセダンの前に止まった。

「どうぞ、御乗り下さい。遠慮なさらずに」

 長髪イケメンが不気味な位に清々しい笑顔で自動車のドアを開けた。

「うーん。やっぱ乗りたくない」

 麗の眉毛が嫌悪のハの字を描く。

「今更何を」

 長髪イケメンがむっとした口調で彼女を見下ろす。

「無理矢理でも乗ってもらう」

 短髪イケメンが不機嫌そうに台詞を吐き捨てると、麗の襟首を掴み、軽々と吊りあげた。彼女の脚が、宙に浮く。

 刹那、砂が零れ落ちる様な乾いた無機質な調べが、男の足元で響き渡った。

 短髪イケメンが怪訝な表情を浮かべながら麗を凝視した刹那、彼の表情が驚愕に歪む。

 麗を掴みあげている奴の手が、崩れかけている。それも、砂で出来た偶像が崩壊していく様に。手だけではない。脚も、そして身につけている衣服までも、砂漠の砂の様な微細な粒子となって、見る見る間に原型を失っていく。

 麗が、軽やかな仕草で地に降り立った。先程までの穏やかな表情とはうって変わって、眉毛を吊り上げ、恐ろしく冷やかな眼で短髪の方を見据えている。 

 短髪イケメンの膝が崩れた――というよりも、消失した。奴は呆然とした表情で次第に形状を失っていく自分の身体を見つめていた。もはや、声も上げる事は出来ない。砂状化は彼の胸部から喉、首へと進み、残るは頭部だけになっていたのだ。短髪イケメンの口が悲しげに何か言葉を綴り、消えた。

 長髪イケメンが愕然とした表情で麗を凝視する。

「何、しやがった……」

 奴は緊張の余りに張り付いた唇を無理矢理引き離しながら、戦慄に打ちのめされた魂の絶叫をか細く吐き出した。

「安心して。助けてあげないから」

 麗は至福の笑みを浮かべると、もはや完璧に戦意を喪失した眼前の哀れな男に、恐ろしく残酷な言葉をたむけた。

 長髪イケメンはかっと眼を見開くと何かを叫ぼうとしたが、それが言葉になる事は無かった。彼の身体は瞬時にして粉体と化し、アスファルトの路面にこんもりとした黄土色の砂丘を築いていた。

 余りにもの不条理な現象に、俺は完璧に言葉を失っていた。

「驚いた? 私もあなたと同じ『異邦人』なの。服とか生き物なら何でも分子レベルにまで分解出来ちゃうのが私のスペック。至近距離だけしか効かないけどね」

 麗が微笑みながら呆然と立ち尽くす俺を見た。

スピリチュアルスーツも生き物なのか? 仮の肉体に魂が憑依する訳だから、生き物と言えば生き物か。

「物理的攻撃しか出来ない旧型のスピリチュアルスーツじゃん。敵もなめてくれたものね」

 麗はむっとした表情で足元のイケメン達のなれの果てを爪先で蹴散らした。

「麗さん、まだ敵はいる。ブラインドが下りたままになってる」

 寿々音は口早にそう麗に囁くと、周囲に鋭い眼光を走らせた。

「ブラインドって何?」

 俺は思考内に疑問符をぶちまけながら寿々音に問い掛けた。が、彼女はそんな俺には目もくれずに未だ潜んでいる敵の姿を追い続けている。

 不意に、寿々音が公安の乗用車を目いっぱい蹴りつける。彼女の蹴りをまともに受けた運転側のドアが、思いっきりべコリとへこんだ。

「痛いっ! 参った参った、降参だ」

 どこかとぼけたような間延びした男の声が、間近で聞こえた。

 同時に黒いセダンの形状が、プレス機にかけられたかのように猛スピードで凝縮する。しかもそれは縦方向だけでなく、四方から見る見るうちに凝縮し、やがて全く異なった形態に変貌を遂げた。

人だ。そう認識出来るまでになると、更に色調が細分化され、完璧な一人の人物となった。アイボリーのスーツに白いYシャツ。長身痩躯の体格の男。少しウエーブの掛かった髪は恐らく天然だろう。口髭と、長くは長くはないが顎髭を湛えているその風貌から察するに、年齢は三十台後半かと思われる。

「もうっ、あなただったのっ!」

 麗はふくれっ面で男を睨みつけた。

「御免、御免」

 口髭青年は、眼を細く波打たせながらの営業スマイルで、麗に許しを乞うた。どうやら麗とは面識があるらしい。

「麗さん、この人は?」

「フリーライターの富士見東人。業界じゃ『不死身のハルト』って呼ばれてるそうよ。それと残念だけど彼も私達と一緒の境遇よ。さっきみたいに何にでも化けられる変身能力が彼のスペック」

「初めまして、喜多准教授のそっくりさん。んで、御久し振り、寿々音ちゃん」

 富士見は麗の不機嫌な態度に苦笑しつつ、俺達に声を掛けた。

「寿々音とも知り合いなんですか」

「ああ。何回か取材交渉にいっているけど断られっ放しって関係さ。麗ちゃんもそうだけど」

「今回はどう言うつもり? 取材ならちゃんと許可取ってからにしてよっ! 絶対許可しないけど」

 麗は富士見を激しく罵倒した。

「麗ちゃん、こうでもしないと必殺技みせてくれないっしょ。記事にはしないけど、個人的に見たかったんでね」

 富士見は頭をがりがりと掻いた。

「あのレトロスーツ、どこで手に入れたの?」

 相変わらず嫌悪に満ちた素振りで、麗は富士見に問い掛けた。

「闇市場、とだけ言っておく。足のつくネット市場じゃない。ジャンク屋達が作ってるギルドの深淵部にあるスペシャルなマーケットさ。まあ、滅茶苦茶デンジャラスなエリアだから、皆様にはお勧めできないけどな」

 富士見はそう言うと、もはや跡形も無いスピリチュアルスーツのなれの果てに眼線を落とした。

「ここまでやられちゃあ、修復は無理だな。結構高かったんだぜ」

「中に入ってた連中は?」

 寿々音が富士見に問い掛けた。

「映画の撮影だって言ってアルバイトを雇ったんだ。今頃ホルダーの中で伸びてんだろうな……あ、ホルダーってのは霊体分離装置の事。スピリチュアルスーツに憑依する時に肉体を保管する容器でね、裏世界では『棺桶』って呼んでいる」

 富士見は話の見えていない俺に気を使ってか、分かりやすく説明してくれた。

「富士見、いい加減ブラインド上げてもいいんじゃない? 余り長い時間降ろしてると政府軍に感付かれるじゃん!」

 麗は富士見の愚痴をさらりとかわすと、ぶっきら棒に吐き捨てた。

「了解」

 富士見はジャケットの内ポケットからライターのようなものを取り出し、親指でその上部を弾いた。

 俺は周囲を見回した。

 何か、変わった?

 分からない。俺が見る限りでは、何も変わっていない。

「寿々音、さっきも聞いたけど、ブラインドって何?」

 俺は再び疑問を寿々音に投げ掛けた。

「局地型御空間隔離システム。反体制分子制圧用のトラップよ。雑踏に紛れる敵を局地的に空間ごと隔離し、捕獲できるってやつ。その間、通行人は誰一人としてブラインド内の出来事に気付かないし、例え銃撃戦になっても流れ弾が当たる事は無い」

「別の空間って事?」

「そう言う訳でもないみたい」

「バイパスみたいなもんよ」

 不意に、麗が寿々音のフォローに入る。

「バイパス?」

「そう、同じ空間だけど、別ルートを取っているだけ。但し、半径二十メートル位が限度かな」

「麗さん、詳しいですね」

「まあね、私が開発したやつだから。最近のは喜多がかなりいじっているみたいだけど」

「えっ?」

 さりげなく重大発言した麗を、俺は思わずガン見した。

「麗ちゃんはこう見えても空間物理学の学者様だからね。元旦那とは同じ研究室だったんだ」

 富士見が俺にそう説明してくれた。

「でもどうやって此方の世界にきて学者になれたんですか? 大学入試とかはどうしたんですか。俺達個人を証明出来るものが何もないのに」

 俺はふと疑問に思った点を麗にぶつけた。

「喜多がうまくやってくれた。富士見は別だけどね。こいつは独自のつてがあったみたい」

「苦労しましたから。それなりにね」

 富士見はにやりと意味深な笑みを浮かべた。

「麗さん、これからどうします?」

 寿々音が麗に問い掛ける。

「そうねえ。とりあえず帰ります」

「え、俺の取材は?」

「やああだよ」

 麗は富士見にべっと舌を出すと、背を向けて歩き出す。が、数歩進んだ所で不意に立ち止まった。

「寿々音ちゃん」

 麗は、背を向けたまま寿々音に話し掛けた。

「一時だけだけど、さっきの話、のったわ」

「お願いします」

 寿々音が緊張した面持ちで答えた。

 さっきの話って何だ?

 ひょっとして共同戦線の事か?

「まずいことになったな」

 富士見の顔から笑みが消えていた。

「どう言う事です?」

俺はそっと富士見に話し掛けた。

「君達の密会に気付いてたのは俺だけじゃないってことさ」

 富士見が、先程までとはうって変わって神妙な面持ちで答えた。

 俺は何気なく周囲を見回した。

 通勤途中のサラリーマンやOL、セーラー服姿の女子校生、散歩途中の老夫婦。俺が見る限り怪しい人物は特にいない。いや、いる。

 彼ら全てだ。総勢約二十数名。立ち止まって此方をじっと見つめている。せわしなく人々が行き来している中で、彼らの行動は余りにも異質に見えた。

「喜多、気をつけて。あいつらみんなスピリチュアルスーツだから」

 寿々音がそっと俺に囁いた。

「見た目一般人だぜ。確かに何か変だけど」

「ああやって油断させるの。政府軍の常等手段よ。見た目女子校生でも中身はおっさんだから」

 寿々音が忌々しげに吐き捨てる。

「でもバズーカ持っていないぜ」

「この前の奴は基地破壊用。今いる奴は対人用タイプ」

 何度も問い掛ける俺に苛立ったのか、寿々音は早口で答えた。

「既にブラインドが降ろされています。かなり広い。喜多のやつ、また改良したみたいね。半径五十メートルは優にある。起動させたのは、あいつだっ!」

 麗はおもむろに振り向くと、背後の一点を指差した。

 ショートヘアーの、セーラー服姿の女子校生。まだ子供っぽさが残るその表情から中学生位だと思われる。

 彼女は仄かに笑みを浮かべながら、俺達をじっと見据えている。

「降伏しなさい。貴方達は完全に包囲されている。投降するのであれば命の保証はします」

 彼女の澄んだ声が、静寂の中で非情の調べを奏でた。

「嫌だと言ったら?」

 寿々音が挑発的な態度で女子校生に答えた。

「ここで消えてもらう」

 女子校生が右手の人差指と中指を立てて、手を拳銃に見立てると、寿々音に狙いを定めた。

「気をつけて。彼女、本気で撃って来るから」

 寿々音が女子校生を見据えたまま、俺にそう忠告した。

 撃って来るって? えっ!

 疑いの目も向けるまでも無く、彼女は本当に撃った。

 指先周辺の野球のボール位の空間がユラユラと陽炎の様に揺らめいたかと思うと、拳大の弾丸に形状化し、猛スピードで中空を走る。

 寿々音は右掌を軽く前に出し、その弾丸を受け止めた。弾は四散し、小片となって中空を舞う。

 それが合図となった。

 彼らは女子校生同様に手拳銃を構えると次々に無いはずのトリガ―を引いた。気の弾丸は凝縮された陽炎の様に揺らめきながら、朧げな弾道を空に刻む。

 寿々音が、俺を庇うように前に立つ。

 着弾――していない。弾丸は彼女の掌から十センチ手前で全て静止していた。

 次の瞬間。その弾丸の全てが、飛んで来た軌道を遡り、撃ち放った本人を襲った。気の弾丸は次々に彼らの腹部に風穴を開けて行く。が、驚いた事に誰一人動じる者も倒れる者もいない。口を開けた腹部からはどろどろとした半透明のスライム状の粘液が滴り落ちるだけで、内臓が飛び出る事はおろか、流血すら全くない。

「奴らは頭を吹っ飛ばすか身体を完全にばらばらにしない限り倒れないから」

 寿々音が俺に背を向けたまま囁いた。

 ふと、先日の戦闘時に案山子の秘書の一人がパワードイケメンの頭部を蹴り飛ばして切断し、倒していたのを思い出す。まるでゾンビの集団だ。

 そうだ、後ろにも敵がいたはず。

 慌てて振り向くと、今まで無かったはずの黒い壁が背後からの攻撃を全て遮断していた。

「心配しなさんな。背後はがっちり守ってるぜ」

 余裕に満ちた富士見の間延びした声が、耳元で響く。

 富士見がメタモルフォーゼしたのだ。高さ二メートル、幅四メートル程のその壁は、ゲリラ豪雨の如く降り注ぐ気弾をもろともせず、全て四方に弾きとばしていた。

 老人と老婆が、その容姿からは想像出来ない俊敏な動きで急接近。遠方からの攻撃ではらちがあかないと思ったのか、他の面々も同様に、一気に間合いを詰めて来る。

 麗が老人と老婆の前に立ちはだかる。刹那、二人は弾ける様に粉体化した。それを見たサラリーマンとOLが大きく跳躍、同時に二人の両手から青白い光が突出し、巨大なブレードの様な形状を成した。

 接近戦バージョンか? しかも二刀流。

 コンマ秒刻みで迫る刺客。

 黒い影が二人の間を擦り抜ける。と同時に、刺客達の首がごそりと落ちた。不時着する刺客達の間に黒い影が降り立つ。

「申し訳ありません。後れを取ってしまいました。」

 上下黒のパンツスーツ姿の美女――麻里李だ。

「案山子の秘書だな。流石美人の上に強えな。丁度いい、喜多先生のガードを頼むぜ」

 富士見はどこか楽しげな口調で麻里李に声を掛ける。と、同時に俺達の背後を守っていた黒い壁は凝縮し、人型を成していく。

 否、人じゃない。形態は人だが幾つもの手が生え、それぞれには鋭く光る長剣を握りしめている。

「千手観音?」

 思わず零れた俺の呟きに、富士見は得意げな笑みを浮かべた。

「ちょっくら、遊んで来るわ」

 富士見が動く。

 接近戦に転じた女子校生軍団に正面から突っ込んで行く。両手を刃に変えた女子校生達を、富士見の剣は容赦無く切り刻んだ。圧倒的な強さだ。流血は無く、ドロドロした半透明の液体が飛び散るだけなのだが、首や手足が次々にごろごろ転がっている光景はかなりグロい。

 数名のOLが時間差で此方に突っ込んで来る。他の者と同様に両手を刃に変えて。

 寿々音は臆することなくその中に飛び込み、大きく手を薙ぐ。

 ずん、と言う思い衝撃波を伴いながら、眼に見えない力が空を裂き、OL達を捕える。

 OL達の首が瞬時にして吹っ飛び、切り離された胴体がよろよろと数歩進むと、折り重なるように倒れた。

 その向こうで、麗に分子化されたサラリーマン達が足元に砂丘を築いていく。

「危ない!」

 麻里李が叫ぶ。我に返った俺の眼に、間近に迫る女子校生三名の姿が映る。

 麻里李が身を翻し、旋風脚で内二体の胴を切断。刹那、もう一人は大きく跳躍し、俺の目と鼻の先に降り立った。見ると腹部に大きな穴が開いている。最初の寿々音の反撃で気弾を喰らった奴だ。彼女は簡抜を入れずに俺に刃を突き立てた。

 やられた。これで終わりかよ……情けない位、あっけないぜ。

 俺は全身を貫く激痛と急速に忍び寄る死を予感した。

 が、何ともない。

 死ぬどころか、痛みも何も感じない。

 まじまじと俺に突き刺さっているはずの刃を凝視する。

 刺さっていない!

 刃は俺と接触すると貫く寸前でバチバチと放電らしき光を放ちながら形状を失っている。

 彼女は狂ったように切りつける。が、全て同様に分散され消えていた。

 彼女の表情に焦りが浮かぶ。徐に剣が消去。両手を組み、至近距離から俺に照準を合わせるや、立て続けに気弾を撃つ。

 が、それらも全て同様だった。気弾は俺を撃ち抜く寸前、バチバチと弾け散りながらその役目を放棄していた。

 何が何だか分からない。

 更に分からないのは、何故か攻撃を受ける都度に、俺の中の疲労は回復し、やる気指数が急速に増加していくのだ。

 何だろう、この感覚。今までになく怒涛の如く活力がみなぎって来るのを感じる。

 彼女は無抵抗で攻撃を受けつつも平然としている俺に焦りを感じているのか、同様を隠せない引きつった様な形相で執拗に攻撃をし続けている。

 反対に、俺の方は何故だか分からん状況の中で、死への恐怖心が薄れて行くと同時に平常心を取り戻し始めていた。 

 俺の方からは攻撃は出来ないものか。このまま一方的にやられっ放しってのも面白くない。

 かっと眼を見開き、気弾を連射する女子校生を凝視する。

 こいつは人間じゃない。木偶なのだ。それも、中身は公安か軍隊のおっさん。そう、おっさんなのだ。セーラー服姿のキモイ筋骨隆々のおっさんが武器を振りまわして暴れているのだ。迷う事は無い。変態退治と思えばいい。

 俺はほとんどない間合いを一気に詰めた。反撃を想定していなかったのか、彼女は一瞬怯んだ様な仕草を見せる。

「そりゃあ」

 俺はその隙をついて、両手で容赦無く彼女の胸をついた。

 ぶにっと、柔らかなうれしい感触?を両手に覚える。

 同時に、彼女の身体が大きく弾け飛んだ。俺がタッチした胸に巨大な穴が開き、支えきれなくなった首と両腕がてんでばらばらにアスファルトの路面を転がっていく。

 俺が倒した女子校生の下半身だけは形状を留めており、ミニスカ―トがめくれ上がった上にM字開脚しているその姿に、思わず本能的に眼を向けても、グロさが先立って好奇の感情にときめく事は皆無だった。

 気が付けば、敵は全て路面に伏していた。俺が一人倒し終えるまでの間に、寿々音達は他の敵を全て倒していたのだ。

「凄い……これが、喜多の能力か」

 寿々音が、感慨深げに呟いた。

「エネルギー還元型とでも言うべきか。敵の攻撃をリターンさせる寿々音ちゃんの能力に似て非なるものね」

 麗が流石研究者らしく理にかなったコメントを述べた。

「一体、どう言う事、ですか?」

 興味深げに俺を見つめる麗に問い掛ける。

「恐らく、貴方は自分が受けたエネルギーを全て吸収して凝縮し、それを一気に放出する事が出来るのよ」

 麗の説明を、俺は半信半疑のまま聞き入った。

 憑依していた魂は、今頃本来の肉体に戻っている頃なのだろうか。以前、案山子が話してくれた説明では、例え四肢がばらばらになっても、『憑依者』には全くダメージが無いらしい。

 だが、いくらツクリモノとはいえ、そのリアルな形状は、余り気持ちのいいものではなかった。せめてもの救いは、流血や内臓ぶちまけシーンが無いところか。

「あんたはいいよ。私が初めて倒した相手は生身の人間だった」

 俺の心情を察したのか、寿々音が耳元で物憂げに囁いた。

 俺は、はっと我に返り、彼女を見つめた。

 寿々音自身が敵を殺そうとしたんじゃない。生きたい――そう考えただけで、運命の糸車は彼女の命を狙う者に死を与え、生き抜く事を懇願した彼女に生を与えたのだ。

 俺なんかまだ青いものだ。生きる事を選んだ以上、覚悟しなきゃならない。

俺は、肺の奥底から全ての呼気を絞り出し、重苦しい嘆息をつくと、地に散在するスピリチュアルスーツの残骸を見渡した。

 これってどうするんだろ。このまま放置? 今はいいけどブラインドが上がったら大騒ぎだ。

 その時、妙な現象に気付く。

 スピリチュアルスーツが、溶け崩れている。まるで火で炙られた蝋人形のように、どろどろと溶解しているのだ。妙なのはそれだけじゃない。溶解した屍が崩れて路面に流出する訳でもなく、しかしながら確実に形状は縮小しているのだ。

 昇華している――そう表現するのが適切だろう。でもそんな物質ってあっただろうか。記憶にあるのはドライアイスか防虫剤位だ。

「スピリチュアルスーツはエクトプラズムを凝縮して作られている。肉体だけじゃなく、衣服もね。細かい点は分からないけれど、憑依している霊体が離脱した瞬間、分解が始まってあっという間に消えて無くなってしまう。痕跡一つ残さずに。軍にとっちゃ、例え倒されたとしても証拠隠滅にはもってこいの素材よ」

 俺の疑問を見透かしたのか、麗が分かりやすく説明してくれた。その間にも、敵の残骸は見る見るうちに溶解し、麗が説明を終えた頃には、全く痕跡の無い状態に至っていた。

「ブラインドのスイッチ、あったぜ」

 富士見が路面からライターの様な物をつまみ上げる。さっきおれが倒した相手の屍があった場所だ。

「もう上げていいな」

 富士見はスイッチを軽くオンした。

 刹那、閃光が俺の視界を奪う。同時に凄まじい爆音が鼓膜を震わせ、熱風が俺を包み込む。

 爆発した?

 あのスイッチはトラップか。ひょっとして、奴ら元々こうなるのを予期して仕組んでいたのか?

 そんなことより富士見は、無事なのか?

 漸く戻った視界に、苦笑いを浮かべる富士見の姿が映った。

「富士見さん、大丈夫ですか?」

 慌てて声を掛けた俺に、富士見はウインクで返す。

「俺は名の通り不死身だから」

「駄目よ、ブラインドのスイッチ壊しちゃあ。最悪戻れなくなるかもしれないんだから」

 麗は富士見にぶつぶつと文句を言った。これぐらいの事じゃ富士見は死なないのを知っているからこそ平然としていられるのか。。

「そう怒るなよ麗ちゃん。大丈夫、スイッチはちゃんと作動したぜ」

「ま、そのようね」

 麗は周囲を見渡すと、とりあえず満足に頷いた。

 サラリーマン、OL、小さな子供を連れた母親、学生――色々な人々が行き交う、ごく普通の街並が、そこにはあった。

 と言っても、風景自体は変わっていない。ブラインドが、いつクローズしていつオープンになったののか、俺にはさっぱりわからなかった。

「寿々音にはブラインドが見えるの?」

「うん、何となく。透明な衝立が立ってるように見える」

 俺の問い掛けに、寿々音は躊躇する事無く答えた。

「そうなんだ」

「喜多もそのうち見えるようになるよ」

 寿々音の素っ気ない返事に、俺は当惑しながらも言葉を飲み込んだ。

なるようになるしかない。とりあえずは、俺も『異邦人』としてのスペックに目覚めたわけだし。

「これから、どうしますか? このまま軍が引き下がるとは思えません。追撃部隊が来る可能性も十分に有です。」

 寿々音が暗い表情で麗に伺った。

「んんん……どうしようかな」

「どう、取材というより情報交換てのは? これも何かの縁ってことで」

 富士見が二人の間に割って入る。

「駄目」

 すかさず麗が、ぴしゃりとはっきり言ってのけた。

「いいでしょう。その話、のります」

 答えたのは麻里李だった。俺と寿々音は、驚きの余りに両眼をかっと見開いて麻里李を凝視する。

「麻里李さん、大丈夫なんですか?」

 寿々音が不安げに眉をひそめながら麻里李を見つめた。

「大丈夫です。案山子にはOK頂きましたから」

 麻里李はそう言いながら俺にワインレッドのスマホを見せた。

「仕方ない、寿々音ちゃんの保護者と言う事で私も付き合うか」

 麗が吐息をつくと、やれやれといった素振りで答えた。どうやら、俺と麻里李では不安だと言う事らしい。

「やった! じゃあ場所を変えますか。この近くに俺のオフィスがあるんで、そこでどうかな? 流石にもう『KU・RARA』はまずいでしょ。政府軍がまた別の刺客を送りこんで来るかもしれないものね。 そうなれば麗ちゃんにも迷惑かけてしまうし」

 富士見の提案に、珍しく麗が頷いた。

「富士見、午前中には解放してよね。午後から各店長との定例会議があるから」

 麗がきつい口調で富士見に念を押す。

「麗さん、会議って?」

 俺は麗に問い掛けた。

「カフェの経営会議、あ、私『KU・RARA』のオーナーなの」

「え、そうなんですか?」

 驚きだ。公安からマークされながらも、大々的にスタンドカフェを経営してるって。しかも、政府軍の奇襲を受けたばかりなのに経営会議の方が大事だなんて、大胆と言うか、何というか。

「麗さん、政府からの圧力はかからないんですか」

「ええ、ちっとも。何故だか分かる?」

「いいえ」

「全てが公表されていないからよ。私たちの存在も、公安の活動も、自衛隊以外に存在する政府の軍組織の事も。ましてや、地下都市ですら、地上生活者でここを知り得る者はほんの僅か。それに、極めつけは現在第三次世界大戦の真っ最中であると言う事までも、知ってる者はほとんどいないし、一般人はまず知らない。変な話だけど、この世界の中で妙なボーダーが引かれているのは確かね」

「だから、政府は正面切って俺達を拿捕出来ない。俺も仕入れた記事を出版社に売りこんだりするけど、そこが何かしらの圧力を受けたって事は一度も無いしね。ただ、余りにも突拍子過ぎるからって、なかなか買い取ってはくれないけど。ま、続きは場所を変えて」

 麗の回答に、富士見はすかさず捕捉すると、今度はすたすたと歩き始めた。

「何処まで行くの?」

「すぐそこ。車はそのまま置いて来て。駐車場余分にないから」

 麗の問い掛けに富士見は振り向く事無く答えると、歩みを進めて行く。

「失礼な奴。そりゃあ周りを警戒しているのは分かるけど」

 ぶつぶつ言いながらも、麗は富士見の後を追った。

「行きましょう」

 麻里李に促されて俺達も二人の後を追った。

立ち並ぶ雑居ビル。それの側面に沿って連なる飲食店の看板。それが、見る限りずっと続いている。どうやらこの界隈は繁華街の様だ。ただ、まだ開店には程遠い店舗が多いのか、所々喫茶店がモーニングサービスのウェルカムボードを店先に出している位で、全体的にひっそりとしている。要するに夜の街――大人の社交場なのだ。

 富士見は徐に歩みを止め、俺達がちゃんと付いて来ているか確認すると、すぐ目の前のビル地下へと続く階段を下りて行った。地下道入り口に、『有料駐車場』と看板が掛かっている。

「駐車場、あるじゃん!」

 麗がますます不機嫌になる。

「監視カメラがあちらこちらにあるからね。軍に車の情報が渡ると色々とまずいでしょ?」

 富士見は苦笑いを浮かべながら、ふくれっ面の麗に話し掛けた。

監視カメラを避けているのか、冨士見は駐車場構内をうねうねと進むと、不意に立ち止まった。

「着いたよ」

「着いたって、ここ駐車場でしょっ!」

 すかさず麗が富士見に噛みついた。

「此処の壁、フェイクウォールになっているんだ。それに、今通って来た通路もそうだけど、ここも監視カメラの盲点になっているから俺達の動きは記録に残らない。今、開けるから待って」

 富士見は壁の一部に手を翳した。

「どうぞ、もう入れるから」

 富士見に進められて、俺達は壁に向かって進んだ。壁を擦り抜けるとそこにもガレージがあり、ジープが一台止められている。確かに、この空間だけで言えば、スペース的には二台止めるのは難しい広さで、富士見の言い分は間違いではなかったと言える。

 駐車スペースの奥にオーラ認証式ロックで制御されたドアが二か所あり、その向こうに彼の仕事場があった。

 十畳ほどのスペースにパソコンが数台並んだデスクとソファーセットとテーブルがあるだけのシンプルなレイアウトで、意外にも煙草臭い匂いや缶ビールの空き缶で溢れたゴミ箱も無い。

「意外ときれいね」

 麗が妙に感心した口調で呟いた。

「だろ? 俺、こう見えても几帳面で綺麗好きなんだぜ。おまけに酒も煙草もやらない。健全そのものだろう」

 確かに意外過ぎる。、酒と煙草と女が命的な、彼に抱いていたアウトローなイメージが、根本から崩れ去っていく。現実とのギャップが余りにも落差があり過ぎて、正直のところ俺は声すら発するのを忘れていた。

「その当たりに適当に座ってくれ。今、お茶を入れるから」

「結構よ。さっさと話しをして帰るから」

麗にせかされ、富士見はやれやれと両掌を上に向け、がっかりお手上げのオーバーアクション。その姿が可笑しかったのか、寿々音が珍しく肩を揺らして笑っている。

「じゃあ、始めましょうか」

 ソファーに俺と寿々音、麻里李が並んで座ったので、対面に座った麗の横に富士見が腰を下ろした。

「情報交換に関してですが、我々の組織についてはお答え出来ません。あくまでも政府の動向に限らせていただきます。よろしいですか?」

 麻里李が淡々とした口調で口火を切る。

「了解しました。俺の方もそうしてもらえればありがたいです。それに、お互いある程度の事は掴んでるしね」

 富士見がにやりと笑みを浮かべる。

「唐突だけど、皆さんは本当に世界大戦の真っただ中だと思う?」

 富士見の突然の振りに、俺は驚きを隠せなかった。確かに、普通に考えるとおかしい事ばかりなのだ。世界を巻き込む戦争でありながら、国民の多くはその真実を知らされてはいない。そればかりか、敵国との国交が断絶した訳でもない。

 余りにも不自然で、余りにも妙で。

 確かに、案山子に最初戦争の事実を告げられた時、狐につままれながらも何となく納得してしまっていた自分がいた。あの時は俺自身何が何だか分からない環境に放りだされてままならぬ状態で、かといって今もそうだけど冷静に判断できない状況であったのは確か。

 だから、富士見にあらためてその一言を告げられた時、俺の思考は疑問符で埋め尽くされた振り出しにリターンしていた。

「それって、どう言う事です?」

 寿々音が訝しげに富士見を見た。

「俺が今調べているのは世界大戦がらみでね。時々他国にも出向いて調べているんだけど、何か腑に落ちない点が多過ぎる」

 富士見はソファーから立ち上がると、自分のデスクによりかかった。しゃべりだすとじっとしていられないたちなのだろう。

「どう言った点?」

 麗が疑い深げに眉を顰める。

「あからさまなジャパン・バッシングの事実がないんだ」

「え、それおかしいです。案山子は確か戦争の根本的な原因は発展した日本経済に対する他国のひがみだって言ってましたよ」

 俺は思わず富士見に反論した。

「この大戦を認知している者は全てそう理解している。俺も最初はそうだった。そりゃあ、ちょっとしたデモがあったことにはあった。でもそれは経済とは別の問題が原因だし、どちらかと言うと民間主体で国を挙げてじゃない」

 富士見は優しげに表情を緩めながらも、はっきりとした口調で俺にそう答えた。

「じゃあ、なんだってえの? 何か新事実を掴んだって事?」

 麗がすかさず富士見を問い詰める。

「日本が一方的に世界に喧嘩売ってるんじゃないかって」

 富士見の回答に、皆、言葉を失っていた。不意に生じた沈黙に、彼は満足した表情で頷くと俺達を見渡した。

「それは無いと思います。現に核ミサイルが落とされていますし」

 麻里李が凛とした声で富士見に意見した。

「確かに。じゃあそれを発射したのはどこから?」

「それは……はっきりしません。ステルスタイプのミサイルだったから――」

「何故ステルスタイプだって分かる?」

「政府の情報を傍受して得たので」

「現物を見た訳じゃないってことだろ」

 富士見が麻里李の顔を覗き込む。

「まあ、そうですけど……」

 富士見に圧倒されたのか、麻里李は歯切れの悪い返答をすると口をつぐんだ。

「それともう一つ。二回撃ち込まれたミサイルのターゲットが何故同じポイントなのか。必ずミサイルはある特定の建造物を狙って撃ち込まれている」

「喜多准教授の別邸……」

 寿々音が遠くを見る様な仕草で呟く。

「ピンポーン! 正解。じゃあ、喜多先生はあそこで何をしているのでしょうか?」

「時空に係わる研究」

 麗が真面目な顔付きで答えた。

「流石、喜多先生の元妻だけに良くご存じだ」

 調子に乗る富士見を、麗がきいっと般若顔で睨み付ける。

「じゃあ、もう一つ質問。何故、喜多先生はわざわざあんなボロ屋に出向いて実験なんかしているのだろう」

 俺達は互いに顔を見渡した。

 誰も答えられなかった。あの麗ですら、腕を組んだまま首を傾げている。

「ここからはあくまでも俺の推測だけど、あの家の上空付近に、時空の歪があるんじゃないかって」

「時空の、歪?」

 急に真顔になった富士見をを俺は思わず凝視した。

「昔、旅客機が原因不明のまま行方不明になるって噂のあったバミューダ・トライアングルみたいな何かが、あの近辺に生じているはずだと思う。そこでだ、俺のもう一つの疑問について考えてみて。何故、ミサイルが二回ともあの場所なのか」

「別の次元に転送する為に、喜多が何らかの方法で誘導した」

 俺の回答に、富士見は感心したかのように、ほうっと一言声を上げた。

「そういう考え方もあるか」

「富士見さんの考えはどうなんですか?」

「俺かい? 俺はね、あえてあの場所に打ち込ませたんじゃないかって考えた。時空転移させりゃあ、実害は無いからね」

「喜多が連合軍に、ですか?」

 俺の答えに、富士見がにやりと笑みを浮かべる。

「惜しいな。連合軍じゃないね。恐らくは自作自演」

「えっ?」

「俺の調査では、この地下都市建設から、皆が政府軍と呼んでいる公安直属のシークレットアーミー設置に至るまで、全てあの喜多准教授が絡んでいる。彼を含む軍部が、あくまでも日本側が被害者であるかのように装って実際には世界侵略を図っている――それが俺の導きだした仮説さ」

 富士見は自信に満ちた微笑みを浮かべた。

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