第3話 鷹とよだかの力関係

「何の用ですか」



 そんなわけでやむなくこの俺様自ら、かわせみの元に聞きに行ってやった。ずいぶんとまあ、えらそうな顔をしやがって。

「違いますよ、兄貴におびえてるんです」

「それもありますけど、最近少しイライラしてましてね」

「どういう事だ?」

「兄さんがあんな事になってからというもの、小鳥たちは僕やはちすずめのごきげんを取ろうと集まって来るんです、本当は兄さんにこびを売りたいんですがそれができないのでね」

「あーあそうかよ」


 あんなのにこびを売ろうと言うのか、本当にあきれたね。あれほどボロカスに言っておいてよくもまあ。

「僕は魚を取ります、この脚とくちばしで魚を取ります。でもあなたをこのくちばしや脚で狙ったりはしません、あなたに本気で来られたら一たまりもありませんから」

「何が言いたいんだ!」

「要するに、これまでさんざん兄さんの悪口を言って来たあいつらは兄さんにしっぺ返しされるのが怖いんです、ですからそうされないように僕やはちすずめにへつらって来るんです」

「ああわかったもう十分だ!」


 要するに、よだかにおびえていると言うのか。

 あんな所に逃げてまで鷹の名にしがみついている弱虫が恐ろしくて仕方がないのか。本当、よだか以上の弱虫だな!



「あの、その……」

「食おうなんて言ってねえよ、かわせみとかにヘコヘコしてるのが本当なのかって聞いてるだけなんだよ」

「いやですね、そのような事私には関係のない事でございまして……別に星がどうなろうが私が生きて行く上では何の関係もない事で……あ、鷹さんはお気になりますか?やはりそうですわよね、私などよりずっと大きい範囲を飛ぶことができるお方ですから……」

「それがどうしたんだよ!」

 そういうわけでその弱虫のひとりであるひばりをとっ捕まえて話を聞いてやったが、ひばりもまた要領を得ない言葉しか返して来ねえ。


「最初はその、わしさんとカシオペア様の話をあまりまじめに聞いていなかったんですけど、いやその……段々と時が経ち仲間たちからのお話や小鳥たちのかわせみやはちすずめに対する、その……」

 えーなんだ、要するにこのひばりも最初はよだかの話を聞き流してたけど、どいつもこいつもかわせみとかに対するへつらいぶりを見るや、よだかが星となり夜空にまたたく存在になったと言う事実を信じない訳に行かなくなったっつー訳か。目を背けるほどみにくいと思っていた奴が、今や夜空にきらびやかにまたたく星となっている。

 この時のひばりの顔と来たら、とんでもなく引きつっていた。俺様は喰うつもりなんかねえってのに、ったくもう……いや待てよ?


「もしかしてその、お前よだかが怖いのか?」

「いやその、そのようなことがあろうはずが……」

「もういい!」

 俺様は約束通り、ひばりを放してやった。高いはずの空は急に低くなり、その上にはあのおくびょう者のきたねえ顔がうかんでいる。



「あんな奴が!」

 鷹なんて名乗るのもおこがましいと思っていたほどの奴が、俺様よりも上の存在になっているなんて。許される訳がねえだろ!

 あの時のひばりは間違いなく俺様以上に、よだかにおびえていた。おそらく小鳥たちも同じ調子なんだろう、だからよだかの代わりにかわせみやはちすずめにこびへつらい、必死によだかに対しての無礼の許しをこうているのだろう。ああ、腹立たしい!

 かわせみやはちすずめからしてみりゃ「たまたま兄であった」よだかが勝手にやった事であり、本人が何かそういうへつらわれるような事をした訳じゃねえ。それだけでもいやな気持ちだってのに、あげく今まで兄をさげすんで来た連中が急にこびを売ろうとしている姿はもっと見苦しくいやな気持ちになるのもごもっともだろう。

 で、今日かわせみを見た所あいつは小鳥たちのこびへつらいに耳をかたむける事はなく、以前と変わらない暮らしをしていた。その行動が何を呼ぶか。答えは簡単だ、かわせみやはちすずめに兄の名声におごらぬ者という評価を与え、結果彼らにおべんちゃらを言う連中をますます増やした。


 ざけんじゃねえ。俺様は空の星も認めた地上の実力者だぞ?それが何だ、あんなおくびょう者ごときに負ける事なんぞあっていい訳があるか!


 俺様のやる事はもう、決まっていた。


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