インタールード
「なあ、兄さん」
「何だ?」
山荘の近くにある公園のような広場……と言っても、父が手作りしたブランコとアスレチックがあるのみだが。この広場が、僕たち兄弟が秘密の会話をする場所になっている。
今日も、密談をするにはもってこいの良い天気であった。
「お父さんがやっているあの占いなんだけどさ」
「おう」
僕と兄さんは、父がやっている占いに興味があった。太鼓や鈴の音を響かせて大きな声で天に向かってお祈りする。その姿は、神と戦う勇者のように、僕の目にはキラキラと映っていた。
しかし、兄さんにとっては少し違ったように見えていたかもしれない。
「僕たちも、あの占い、やることになるのかな……」
「どうだろうね」
興味があるはずなのに、まるで興味のないように返す兄さん。実はこの前、こっそりと父の部屋で占いに関する本を読んでいたのを見かけてしまった。
「僕さ、大きな声が出ないからさ……」
そう。僕は、身体が丈夫ではなかった。そんな身体を不憫に思ったのか、父は暇を見つけては、運動するための器具を手作りしてくれたのだ。
この占いには、休みなど存在しない。それなのに、占いに加え、父は近くの学校で教鞭を取っている。
僕は、そんな何でもできる父を、とても尊敬している。
だからこそ、父のする占いも、特別良い印象を抱いていた。
「たしかに、トシは身体が弱いからね」
そう言う兄さんはヒョイヒョイ軽々とアスレチックを駆け回っていく。僕は、何とか兄さんを視界に捉えながら追いかけるので精いっぱいだ。いつの間にか息は上がり、胸の辺りが苦しくなっていく。
「無理するなって」
諦めろとも取れるような、兄さんの大きな声が聞こえる。きっと兄さんなら、父の占いを、継ぐことができるだろう。
「無理なんか……してない」
口では突っかかるも、身体はなかなか前へ進もうとはしなかった。ふくらはぎが突っ張り、立っているのが辛く感じた。
「ふう……」
僕は我慢できずにしゃがみ込み、アスレチックに寄りかかった。
今はこんなに身体が弱くても、きっとこうやってアスレチックで遊んでいれば……。
兄さんの見ていないところで、めちゃくちゃ遊んでやろう。
絶対に僕もあの占いを、やるんだ。
そう決意した日から五年後。
僕はたしかに、身体は立派に成長した。あの頃とは、比べ物にならないくらいに。
しかし。
兄さんは、もっと立派に成長していた。僕の知らないところでこっそり、占いの勉強をしていたらしい。
父はそんな兄さんを、占いの跡継ぎに指名した。
「龍敏」
父の言葉を思い出す。
「ごめんな。占いは、一人でやるものなんだ。その一人を、神様に覚えてもらう。神様はその人以外を受け入れないんだ。だから、神様は、龍興しか受け入れない」
僕は悔しくて、父や兄さんの見ていないところで、大粒の涙をこぼした。
何故、兄さんはあの占いに興味を持ったのだろう。
僕のほうが、あの占いに興味を持っていたのに。
僕は何のために、今日まで、身体を鍛えていたんだ……。
その後、僕は父と同じく、教師となった。社会科を担当することになり、歴史の授業をするために、教材となる教科書をパラパラと眺めていた。
すると日蓮宗など、有名な宗教に関する情報が多数記述されているのがたまたま目に入った。それは酷く、醜く僕の目に映る。
「私も、宗教に振り回された一人なのか」
あの日を境に、好きだったはずの父が嫌いになった。好きだったはずの占いが嫌いになった。
それも、全部……。
全部……。
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