第17話Michael寿限無の本番

 ふう、あれから斉藤先生にプロジェクターの映像の切り替え方を教えこまれちゃった。まあ、リツが作った画像やらあたしが新しく用意した『果てしない物語』の表紙とか『ドン・キホーテ』の表紙、それにミハイル・カラシニコフが設計したって言うAK47なんていう銃の画像を斉藤先生がパソコンに取り込んでくれたから……あたしは斉藤先生に渡されたスイッチを手元で押すだけでプロジェクターの画像が切り替わるみたいだけれど……


 それにしても、斉藤先生ったら『話のまくらにはこれを使うといい』なんて英語の発音問題を教えてくれたな。たしかに、この発音問題なら最初の小話としてはちょうどいいか。


 で、今から学年全員の前でリツのMichael寿限無をやるんだから、気合入れていくわよ、あたし。視聴覚室に学年全員が集まってる。プロジェクターの前には教卓に置かれた座布団が一つ。あたしが持っていけるのは扇子だけ。プロジェクターに映し出される画像もチェックしてあるし。さあ、始めるわよ。


「はい、みなさん、どうも、どうも。落語と言うことで、教卓の上で正座させてもらいますけれどね。これは、先生に許可取ってますからね。みなさんはまねしないでくださいね。先生に怒られても知りませんからね」


 よし。視聴覚室に入りながらのあいさつでまあまあ受けてる。いまからまくらをやって……


「それでは、みなさん。英語の問題です。はい、『なんだ、何が始まるかと思えばお勉強か』なんてがっかりしないでくださいね。お勉強はお勉強でも、エンターテイメントとしてするつもりですからね。それでは、例文の指定された部分と同じ発音をする選択肢を選んでもらいましょう」


 Michael is in the Heaven.


1Michael is in America.

2Michael is in Germany.

3Michael is in France.

4Michael is in Russia.


「正解は1番です。例文はミカエルイズインザヘブン。1番はマイケルイズインアメリカ。2番はミハエルイズインジャーマニー。3番はミシェルイズインフランス。4番はミハイルイズインロシア。と呼びますからね。いいですか、みなさん。つづりは同じでも、国によって発音が違うんですよ」


 よし。これでまくらは終わりだ。みんな興味を持ったみたいだな。よし、本筋に入るぞ。


 ……


「angelもangerしちまうよ」


 やんややんや。


 ふう、学年全員でも最後までやり通せるくらいはできるみたいね。けっこう盛り上がってるし。少なくとも、ブーイングや居眠りはされなかったみたい。


「はい、桂林。たいへん面白くてためになるお話をどうもありがとう。それでは、英語担当の先生が補足説明をさせてもらうぞ。桂林も自分のクラスにもどってくれ。それと、画像の切り替えスイッチも渡してくれ」


「わかりました、斉藤先生」


 ふう、とりあえず一段落ね。さて、斉藤先生はどんな解説をするのかな。


「同じつづりでも違う発音の単語と言うのはいくつかある。

 『 live 』はリブだと住むという意味の動詞だが、ライブだとライブコンサートのライブだな。生放送の『生』と言う意味合いになる。

 『minute 』はミニットだと1分1秒の『分』になるが、マイニュートできわめて小さいという意味になる。 

 『read』は『読む』なんて意味の動詞だが現在形だとリードで、過去形だとレッドだ。他にもいくつかあるから、今度の授業で説明する」


 あ、最後のオチの『angelエンジェル天使とangerアンガー怒った』の画像から『 live  minute read』の画像に切り替わった。斉藤先生も画像仕込んでたんだ。


「そして肝心の『Michael』だな。キリスト教や、ユダヤ教のミカエルが由来の名前は西洋ではいっぱいあるが、国によって発音が違うんだ。スペインのミゲルにいたっては、『Miguel』なんてつづりまで変わってしまってるな」


 今度は『Michael』、『Miguel』か。英語のつづりを言葉で説明するのは難しいものな。


「こういうパターンはほかにもある。『Jacob』はもともとは旧約聖書の創世記に登場するヘブライ人の族長の名前なんだが、ヤアコブと発音していた。それが日本ではヤコブ、アメリカではジェイコブになったりする。ジャックやジェイムズなんてのもこのヤアコブがもとだ」


 『Jacob』かあ。いろいろあるんだなあ。


「そもそも、アメリカ人やヨーロッパの人の発音を日本のカタカナで表記するのが難しい話なんでな。フランス語だとミシェルやミッシェルだったり、ドイツ語ではミハエルやミヒャエルになったりする。君たちも、英語の教科書にカタカナでルビを振るのはほどほどにしておいたほうがいいぞ。今のご時世、いくらでもネィティブの発音が聞けるんだからな」






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