第16話Michael寿限無の打ち合わせ
「あの、鈴木先生。おねがいがあるんですけれども」
で、次の日の朝よ。鈴木先生を通して、英語の授業でリツのMichael寿限無をやろうと英語の斉藤先生にお願いしようと思ってるんだけれど、どう切り出そうかな。
「おお、ちょうどよかった。実は先生からも桂林にお願いがあってな」
「鈴木先生からもですか? なんでしょう?」
「英語の斉藤先生から頼まれたんだ。『あのジャニュアリーなんだかんだちゃんの寿限無を英語の授業でもやってほしい』とな」
「英語の授業でもですか?」
「ああ、授業時間中にあれだけドッカンドッカン受けてたら、ほかの教室でもなにごとだと思うだろうからな。で、隣のクラスで授業をしていた斉藤先生が桂林の12ヶ月の寿限無を聞いて、『これは英語の授業でも使える』と思ったんだろうな。先生は古典担当として閏月を説明したわけだが、英語担当の斉藤先生は英語の月の言い方の解説でもするんじゃないかな」
それは……タイミングがいいというか、渡りに船と言うか。
「それは、構いませんけれど、鈴木先生。とりあえず、斉藤先生と話をしてみます」
「そうか。で、桂林の話とはなんだ」
「それはその、寿限無のパロディの新作ができまして、それが英語に関係するものですので……斉藤先生に授業でやらせてもらえるよう鈴木先生からひと言通してもらったらなあと」
「なんだ。それならちょうどいいじゃないか。しかし、そうなると困ったことになるな。桂林の新作とならば先生も聞きたいし……例の12ヶ月寿限無みたいに前もって斉藤先生と打ち合わせするのか?」
「そのつもりですが」
「なら、先生はその打ち合わせに混ざらないほうがいいな。ネタバレされずに桂林の新作を楽しみたいし……じゃあ、斉藤先生の英語の授業中に桂林が落語をやることになったら教えてくれ。先生が予定をあわせるから。とりあえず、斉藤先生のところに行ってきなさい。話はそれからだ」
「わかりました」
……
「あの、斉藤先生。鈴木先生に言われてきたんですが」
「おお、桂林か。鈴木先生に聞いたぞ。授業中にどっかんどっかんクラスを笑わせていたのは桂林なんだってな。あれだけ人を笑わせられるというのはたいしたものだ。で、先生の授業でも、ジャニュアリーフェブラリーマーチエイプリルメイジューンジュラーイオーガストセプテンバーオクトーバーノーベンバーディセンバーちゃんの話をやってもらいたいんだ。あれは月の英単語の暗記としてとてもよくできているからな。桂林の後に先生が月の英単語の解説をしたいんだ」
鈴木先生だけでなく、斉藤先生にも絶賛されてるじゃない、リツの寿限無。
「そのことなんですが……斉藤先生、これ誰だかわかります?」
「わかるもなにも、マイケル・ジャクソンじゃないか。先生が英語担当と言うことを抜きにしてもトップスターだからな。今の子がマイケルをどう思うかは知らないが、英語の授業で洋楽を使うのは話のとっかかりとして普通だし……しかしなんでマイケル・ジャクソンなんだ?」
「じゃあ、斉藤先生。『はてしない物語』って知ってますか?」
「ええと、『ネバーエンディングストーリー』の原作だっけな。作者はたしか……ミヒャエル・エンデ……ああ、なるほど、そういうことか。桂林が何をしたいかなんとなくわかったぞ。ぜひ先生の授業中にやってくれ。英語ではないかもしれんが、外国語と言うことに関してだから話のタネになる。しかし、よくそんなに寿限無のパターンがあるな。12ヶ月だけでなく12星座のもやったみたいだし」
「ええ、まあ」
本当よ。リツのやつったら、『こんなの誰にでも作れる』だとか、『駄作の量産』なんてぼそぼそ言ってたけど、教師陣にもこんなに好評じゃない。もうちょっと自信を持てばいいのに。
「それで、斉藤先生。鈴木先生もこの新作を聞きたがっていたんですが……」
「ああ、鈴木先生がか。あの人は落語がお好きだからな。自分の受け持ち生徒がこれだけのものをやるとなったら聞きたくてしょうがないだろうな。じゃあ、いっそのこと今度の学級会の時間に学年の全員と教師陣を集めてやるか? 桂林、一つのクラス全員でなく、一学年全員を相手にすることになるけれども……どうかな。先生としては、桂林の寿限無は桂林のクラスだけでなく、ほかのクラスでも勉強のきっかけとしてやってもらいたいと考えてたし、いちいちクラスクラスでやるよりもそのほうが手っ取り早いと思うんだが……」
「あたしもその方がいいですけれども。先生が一学年全員集めてくださるのなら」
小学校のころ学芸会で主役をやったし、一クラスが一学年になってもあたしは平気だし。
「よし。だったら、先生たちで場をセッティングするから、桂林、よろしく頼む。ああ、一応聞いておくが、時間はどれくらいかかるんだ。いくらなんでも一時間も二時間もやるというのならこちらとしてもそれそうおうの準備がいるんだが」
「そんな大作じゃありませんよ。十分か十五分ってところです」
「それなら、先生が解説を入れる時間もちゃんとあるな。あ、しかし、一学年となるとその紙のサイズじゃ小さいかもしれないな。桂林、その紙を話の最中に見せるんだろう? 先生に貸してくれ。プレゼンみたいにプロジェクタで投影できるようにしておくから。放課後また来てくれ。やり方を説明する」
「はあ、それじゃあよろしくお願いします」
クラスでの出し物が一学年相手になって、手作りの紙がプロジェクター投影か。リツ、あんたの話がすごいことになってきてるわよ。
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