第11話12ヶ月寿限無の本番

「鈴木先生。前の授業みたいに寿限無のパロディやりたいんですけどいいですか?」


 一応、授業の前の朝のうちに鈴木先生に許可を取っておこう。さすがに二回連続でいきなり寿限無始めるのもまずいだろうし。


「おお、桂林か。別に構わないぞ。ちなみに時間はどれくらいかかる? いくらなんでも、授業時間をまるまる桂林の寿限無に使われるのはよろしくないんだが……」


「いえ、いくらなんでもそこまでは。前みたいに、五分か十分……今回はまくらがあるからもう少しかかるかな。十五分くらいだと思います」


「ほう、今回はまくらもあるのか。それは楽しみだ。期待してるよ。それじゃあ、古典の授業で……ああ、先生から何か紹介を入れた方がいいかな。『桂林の寿限無の始まり始まり』みたいな感じで」


「それはいいです。それよりもですね、今回は話の最中に『閏月』が出てくるんですけど……鈴木先生、『閏月』知ってますか? と言うよりも、『閏月』の解説できますか?」


「それはまあ。先生は古典の担当だからな。閏月が古典の文章に出てくることもあるし、解説もできなくはない」


「じゃあ、今回は話の最中に閏月の解説は必要になるんですけど……そこは先生に丸投げしちゃっていいですか? 閏月の解説まで入れようとすると、どうも話に収集がつかなくなっちゃって」


「それは構わないぞ。と言うよりも大歓迎だ。閏月を解説するいいきっかけになるだろう」


「それじゃあ、前回みたいに、あたしが『鈴木先生、寿限無のパロディやっていいですか?』って聞きますから、鈴木先生がそれを許可してもらえますか」


「わかった。じゃあまたな、桂林」


 よし、鈴木先生の許可は取った。リツのやつ、見てろよ。




「はい、みんな古典の授業を始めますよ」


「鈴木先生、今日も寿限無のパロディやっていいですか?」


「お、桂林か。いいよ、みんなも先生の話よりも桂林の寿限無聞きたがっていそうだしな」


「それでは失礼します」


 教卓の上に正座してっと。


「いや、中学に入ってからと言うものの、英語なんて授業が始まってこれがもう大変でして……特にややこしいのが月の名前ですな。日本みたいに1月から12月まで数字でと言うのなら覚えやすいんですが、英語の月の名前はこれがもう! ややこしくて覚えづらい。となると、なんでこんな言い方になったかが気になるのが人情というものでして、今からあたしが必死こいて覚えた英語の月の名前の語源を披露しますから、みなさん聞いてくださいね。なにせ、ただ『この英単語の語源はこうこうだ』なんて説明するだけですからつまんないかもしれませんが、そこは『つまらない』ではなく、『よく覚えたね』なんて思っていただければ、わたしもみなさんもお幸せになれるという寸法でありまして……」


 この『よく覚えたね』は見習いの落語家が使う決まり言葉だってあたしが調べたんだから。これなら、聞いてるクラスの子も『なら聞いてやろうか』ってなるみたいね。便利な技だわ。


「まずは1月、Januaryですね。なんでも、古代ローマ神話でドアと出入り口の神様のヤヌス/Janusというのがおりまして……ヤヌスなのにジャニュアリー。ちょっと違うとお思いになられるかもしれませんが、これが英語と古代ローマ後の発音の違いでして、例えばヤコブとジェイコブは綴りは同じJacobなんですな」


 ここで前の星座の絵みたいに紙に書いておいた『January』、次に『ヤヌス/Janus』、そして『Jacob』をクラスのみんなに見せるのよ。口で言うときはJanuaryなのかジャニュアリーなのかわからないんだから。それくらい注意して台本作っときなさいよ、リツ。


「お次は2月、Februaryですが……ローマ神話で月の神フェブルウス/Februusってのがいるらしいんですな。月といっても、お月様の方ですな。と言っても、月の満ち欠けが1月、2月なんて時間の単位の由来になってるからややこしいんですが」


 ここでも『February 』と『フェブルウス/Februus』を見せる。ひょっとしたらくるかもしれない、『授業中になに落語なんてやってるんだ』というクレームへの、『これは英語のお勉強なんです』という言い訳用よ。


「そして3月。Marchですね。これはローマ神話のマルス/Marsからきてまして。これは行進曲のマーチ/marchと同じ綴りなんですな。マルスと言うのも戦いの神様でして、そこから3月は行進の月ってことになったらしいんですな。なにせ3月になるとポカポカ陽気になって、戦さ支度いくさじたくでもしようかなってことになるらしいんですわ」


 はい、『March』と、『マルス/Mars』、『march』を見せる。文字を見せながらの落語ってのも結構大変ね


「4月はAprilです。これはエイプリルフールでおなじみですね。由来はローマ神話のウェヌス/Venusですが……これはヴィーナスといった方が日本人の皆さんにはわかりやすいかもしれませんね。しかし、エイプリルフールがあるからいいようなものの、これがなかったらエイプリルという単語を覚えるのも一苦労でして……同じ綴りでもなんでお国によって発音が違うんでしょうね?」


 みんな、とくにリツ。『April』と、『ウェヌス/Venus』を見るのよ。あんたがこんな英語と日本語と古代ローマ語をちゃんぽんにした話を作ってきたせいで、あたしがこんなに苦労してるんだから。


「5月はMayですね。えいごでは1月から12月の略称として、『JAN、FEB、MAR。APR、MAY……』なんてのを使うんです。6月から12月はあとのお楽しみということなんですが……このMayに限っては、もともと3文字ですから略す必要がないんですね。豊穣の神マイア/Maiaが語源だそうです。ちょっと馴染みのない神様ですがトトロのサツキとメイちゃんで簡単に覚えられますね」


 『May』、『JAN、FEB、MAR、APR、MAY』、『マイア/Maia』を書いた紙。リツのやつ。Mayの由来言い忘れてたじゃない。おかげで気になって調べちゃったし、まくらでの説明にいれないとダメじゃない。


「6月はJune/JUE。後ろの三文字が略称ですね。残りの6つもこんな感じでいきます。ジューンブライドのジューンですね。結婚の神さまユノー/Junoに月の名前が由来していて、ヨーロッパでは6月になると冬が開けて春になるからジューンブライドなんて言葉ができたそうなんですが……日本だと梅雨時の少ない客に困ったブライダル業界が仕掛けたもの、なんてイメージが強いですね」


 『June/JUE』、『ユノー/Juno』の紙を見せる。あと半分……まだまくらだった。


「7月、8月はJuly/JUL、August/AUG。二つをまとめたのは、ジュラーイはジュリアスシーザーが、オーガストはアウグストゥヌスが自分の名前を月の名前にしちゃったからなんだそうですね。この二人はどっちもローマ皇帝だったんですが、まったく横暴にもほどがあります」


 『July/JUL、August/AUG』の紙を見せる。そして……


「9月、10月、11月、12月はSeptember/SEP、October/OCT、November/NOV、December/DEC。最後がひとまとめになってるのは、別に面倒になったからじゃなくて、これが7番目の月、8番目の月、9番目の月、10番目の月という意味だからなんですね。ソロ、デュオ、トリオ、カルテット、クインテット、セクステット、セプテット、オクテット、ノネット、デクテット。これは室内楽の独奏、二重奏、三重奏、四重奏、五重奏、六重奏、七重奏、八重奏、九重奏、十重奏のことなんですが。セプタ/sept、オクタ/oct、ノナ/non、デカ/decが7、8、9、10を意味する接頭語なんですね」


 September/SEP、October/OCT、November/NOV、December/DECを書いた紙を見せて、セプタ/sept、オクタ/oct、ノナ/non、デカ/decの紙を見せる。ああ、いそがしい。


「で、オクトパスといえばタコ。8本足をそのまま意味してるんです。デカが10ってのはなじみはないかもしれませんけれど、デシリットルが10分の1リットルと聞けば、『ああ』となるんじゃないですかね。しかし、英語の月の言い方ってのはややこしいですね。しかしながら、日本にも閏月というややこしい問題がありまして……これは古典の鈴木先生に任せちゃいましょう。それでは本筋の……」


……


「……閏月が入っちまったからだよ」


 やんややんや






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