第10話12ヶ月寿限無の練習
「わかりにくい」
この前の12星座の時も思ったけれど、リツのやつ。なんかひとに前提として知識を求めるのよね。後半のオチの意味がわからない。ああそうですか、『そんなことも知らないのか』とあたしを馬鹿にしたいのか。
「ええと、前半の月の名前の日本の昔の言い方と、英語のほうを比較していくくだりはまあいいかな。日本の昔の言い方の由来も説明されてたし、英語のほうも聞いたことくらいはあるからいいけれども……後半はさっぱりよ。どうせ、この前の12星座みたいに神話かなにかの元ネタがあるんでしょうけれど、みんながみんな、少なくともあたしが知っていると思わないでよ。ちゃっちゃっと説明しなさいよ。あんたの文章読む方に不親切なのよ。後半の始めの所の『出入り口に手をはさみそうになった』ってどういうことよ!」
「なら、まずそれを読む人に知らせておきなさいよ。どうせ、その後のジャニュアリーフェブラリーマーチエイプリルメイジューンジュラーイオーガストセプテンバーオクトーバノーベンバーディセンバーちゃんがどうのこうのってのもなにか元ネタがあるんでしょうけど、知らない人には何が何やらチンプンカンプンなんだから」
それもそうか。いきなりそんな教科書みたいなこと読まされてもなあ……そういえば。
「あんた、落語にはまくらってのがあるんでしょ。鈴木先生に聞いたわよ。なんでも、話の本筋に入る前にちょっとした小話から始めるのが普通見たいじゃない。なんで、この前の12星座のやつにはそれが書いてなかったのよ」
「なにがアドリブよ。だったら、そう『アドリブ入れろ』とか書いておきなさいよ。そもそも、アドリブなんてあたしにはできないわよ。そうだ。まくらとして、英語の月の名前の言い方の由来を説明することにしましょう。それなら、あんたの話の面白さが伝わるかもしれないから」
「うるさいわね。その学校の授業でやるようなことを前提知識として要求する話を作るあんたが悪いのよ。それを、あたしがまくらとして補ってあげるって言うんだから、解説を続けなさい。次の、『お月様を見たい』てっのはどういうこと?」
「またローマ神話? 12星座の時はギリシャ神話で、今度はローマ神話? この後もローマ神話ばっかり出てくるの?」
「なら、それを最初に言っておきなさい」
別に謝る必要ないってのに。それにしても、こいつ変なことはよく知ってるな。
「で、『戦争映画に興奮して行進曲のマーチを歌い始めちゃったんだ』はどういうことなの」
「ふうん。なんで行進曲はMarchって言うの?」
「なるほどねえ。それで、『戦争映画に興奮して行進曲のマーチ……』ってことになるのね。じゃあ、、『こんな長ったらしい名前はいやだ。名前はビーナスがいい』はどういう意味なの?」
「なるほどね。ウェヌスなんてたしかにあたしも聞いたことがないわ。で、『自分の名前を略したい』ってのはどういうことなの?」
「ほお。それはいい雑学ね。そういうのでいいのよ。じゃあ、『結婚したい』は……あ、これはわかるわ。ジューンブライドだからでしょ」
「そうなの。あたしは六月は雨が多くジメジメした薄暗い雰囲気だから結婚する人が少ない事に困ったブライダル業界がしかけたイメージ戦略だって聞いたけど」
結婚ねえ。こんなぼそぼそとしかしゃべれないやつに結婚とかできるのかね。
「『自分の名前を日本でも月の名前として使え』ってのは?」
「ああ、だから『ローマの皇帝にでもなったつもりだってのかい』なんてセリフが出てくるのね。で、この後がわかりにくいわね」
「あ、ごめんね。じゃ、じゃあ説明するだけしちゃってよ。そこから、聞いてる人がわかりやすくなるようにしていきましょう。ね、決まり」
文章書いてくるようには言ったけれど、こんなに早く作ってくるとは思わなかったな。しかも、〆切に追われる小説家みたいに最後をいい加減にさせちゃったみたいだし。『7番目、8番目、9番目、10番目』とか、『9月、10月、11月、12月』とか言われてもなあ。
ラテン語と来たか……8番目がOctober。
「ねえ、タコのオクトパスと8本足って何か関係あるの?」
なるほど。それならまだ聞く人の興味を引くかもしかしそれ以外はなあ。
お、リツがスマホで動画見せて来た。結構な再生数じゃない。有名な曲なんだ。
ほう。それならdecimusもなんとか。
「なるほどね。10番目とか12番目とかの話になったから太郎、次郎、三郎、四郎、五郎、六郎、七郎、八郎、九郎、十郎、与一なんてのを出してきたってわけね。与一は余り1ってことね」
「最後の
「なるほどね。あんたの今回のお話に必要な前提知識は大体わかったわ。これをまくらにすればいいのね。リツ、楽しみに待ってなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます