第4話12星座寿限無・其の2

「おや。今出ていったとばかり思っていた熊さんがもう戻ってきたよ。いったいどうしたのかね」


「ご隠居、産まれました。玉のような赤ん坊です。立派な男の子です」


「そうかい。そいつはよかったね。それで、なんて名前をつけたんだい?」


「『名前』って、ご隠居さんがいい星座をたくさん教えてくれたじゃありませんか。だから、そいつを名前にさせてもらいました」


「だから、どの星座の名前を息子の名前にしたんだい?」


「そんな、せっかくご隠居が教えてくださった名前ですから、ありがたく全部ちょうだいしましたよ」


「全部って、それじゃあお前さんは息子にアリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスなんて名前をつけたっていうのかい」


「はい、きょうからおいらにはアリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスって息子がいることになりました」


「しかし、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスってのは名前としては長すぎないかい?」


「そんなことありませんよ。ご隠居に教えていただいたありがたい名前です。それじゃあ、早い所アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスの顔を見に帰りたいですから、これで失礼させてもらいますよ」


「そ、そうかい。それじゃあおっかさんとアリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんによろしくね」


……


「さてさて、おいらの可愛いアリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんは元気かな……どうしたことでい。赤ん坊の泣き声が騒がしいじゃないか。おい、かあちゃん、なにが起こったんだ」


「あ、あんた。それが大変なんだよ。アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが、近所の双子の姉妹を助けに行ったと思ったら、皮をはがれちゃいそうになっちゃったんだ」


「なんだって、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが皮をはがれそうになったって。なんて恩知らずな姉妹なんだ。とっちめてやらなあ」


「それだけじゃないんだよ。アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが、お姫様に恋しちゃって、牛に変装して家を抜け出しそうになっちゃったんだ」


「なに、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが家出だって。まだ赤ん坊だってのに、とんでもねえ話だ」


「そして、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが、あたしのお腹の中で一緒にいたけど、お産の時に死んじゃった双子のお兄ちゃんと一緒になりたいって、自分も天に帰ろうとし始めたんだ」


「そんな、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんはまだ産まれたばかりだってのに、もう天に帰ろうとしてるんだって」


「で、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが近所の乱暴者にいじめられてる友達を助けようと思ったら、その乱暴者に踏みつけられちゃったんだ」


「なんだって、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが友達をかばったら、踏みつけられたって。どこのどいつだい、その乱暴者は。とっちめてやる」


「そしたら、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがその乱暴者に棍棒で叩かれて、しまいには首を絞められたんだ」


「ええ、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが踏みつけられただけでなくそんなことまで。どこまで乱暴者なんだ、そいつは」


「で、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが正義だのなんだの言い始めちゃったんだ」


「なんだって、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが正義だなんて言い始めたのかい。いくらなんでもヒーローごっこはまだ早いんじゃあねえのかい」


「お次は、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが、その正義の味方が使ってる天秤が欲しいだなんて言い出し始めたんだよ」


「なんと、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがおねだりを。可愛い息子にそんなおねだりされちゃあ親としては弱っちゃうなあ」


「さらに、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが、さっきとは別の乱暴者とケンカして負かしたら、その乱暴者がしつこく恨んで追いかけ回してくるもんだから、逃げ回ってるんだよ」


「え、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが逆恨みされて追いかけ回されてるって。どうしてうちの周りにはそんな乱暴者ばかりなんだい」


「そして、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが踏みつけたり棍棒で叩いたり首を絞めたりしてきた乱暴者に毒矢を撃たれて、『痛い! いっそ殺してくれ』と泣き叫んでるんだ」


「おや、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがもうしゃべるようになったのかい……なんて喜んでる場合じゃないよ。一体どうしたらいいんだい」


「で、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがハイハイをし始めたんだ。まだアンヨはおぼつかなくてお魚みたいにバタバタさせちゃってるんだけれどね」


「わ、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがもうハイハイし始めたのかい。こいつは正真正銘のおめでとさんじゃねえか」


「そいでもって、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがあんたのお酒をこぼしちゃったんだ」


「え、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがおいらのお酒を……息子が産まれたから気持ちよくいっぱいやれると思ってたのに、その息子にお酒をこぼされたんじゃあ怒るに怒れねえや」


「最後に、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがおぼれている女の子を助けようとして自分もその川に飛び込もうとしちゃったんだ」


「なんだって、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがおぼれている女の子を助けようと。長ったらしい口上を垂れている間にその女の子が死ぬようなことは縁起が悪いけれど、赤ん坊が助ける事はねえんじゃねえかな」


「あんた、アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんが……」


「アリエスタウラスジェミニキャンサーレオライブラバルゴスコーピオンサジタリウスカプリコーンアクエリアスピスケスちゃんがどうしたって言うんでえ」


「あんまり名前が長すぎて、もう一歳の年を取っちまった」

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