32話「お守り」






   32話「お守り」





 「………どうやって抜け出しました?あなたを捕まえるのに苦労したというのに」

 「簡単だったさ。もう少し使える部下を準備しておくべきだったな」

 「なるほどそれは失態ですね」



 お互い冷静に離しているが、お互いに激しく魔法を繰り出している。

 希海は主に炎魔法。そして、小檜山は氷魔法だ。その間に風魔法で上手く飛んだり、幻影で相手を撹乱したりと、2人の争いは激しくなる一方だった。



 「さすがは、黒鍵家の末裔ですね。呪いとはいえ花里家に遣えていただけはあります。魔法の使い方がとてもお上手だ」

 「おまえだって純血だろ?なんか、特殊な臭いがするな」

 「気づいておられましたか………では、そろそろ種明かしを………」

 「な、何………?」



 小檜山はニヤリと微笑むと同時に、希海はふらりと体が揺れた。そして、飛んでいた体はゆっくりと落下し、そのまま地面に倒れ込んだ。



 「希海っ!!」



 空澄は悲鳴を上げて彼の様子を見ようとしたが、空澄は体を拘束されているため、そこからは希海の様子は見る事が出来なかった。



 すると、小檜山は空澄や希海を嘲笑う可のように得意気に話し始めた。



 「戦闘中にもう1つの属性魔法である植物の力を使ったのですよ。麻痺の粉をあなたの回りに撒かせていただきました。」



 そう言うと、彼の掌からにょきにょきと芽がはえ、あっという間に大きな赤い花が咲いたのだ。それを見て、希海は「ぞ、属性が2つ………なるほど、特殊だ………」と、途切れ途切れに言葉を発した。



 「そのままで居てください。もう少しで脱獄したあなたを追ってくるでしょうから」

 「空澄っっ!早く逃げるんだ………」

 「希海………」



 空澄は彼を声を聞いて、ハッとして炎の魔法を唱えて手首の氷を溶かそうとした。だが、その前に小檜山は、空澄の前に現れ、そして冷たい指で空澄の唇に触れた。そこから少しずつ唇が凍りついてくるのがわかり、空澄は体を震わせた。



 「言いましたよね。呪文をとなえれば口を凍らせると」

 「………っっ!!」



 彼が怒っているのがわかり、空澄は魔法を消すしかなかった。



 「そうです………。大人しくしていれば怖い思いはさせません。大切にしますよ」



 小檜山は空澄の魔力しか見ていなかった。

 うっとりした瞳で、その魔力を手に入れた自分を想像して酔いしれているのだろう。

 空澄の魔法も使えない。希海は麻痺のせいで、思考も体も朦朧としているようだった。

 このままでは本当に小檜山に捕まり、魔力を供給するだけの生きた人形になってしまうのだろう。


 小檜山の魔法のせいだろう。

 氷が体を覆い、いつの間に空澄の体の半分が氷の膜に埋まっていた。



 「いやっ!やめて………」

 「魔法を使われては面倒ですからね。………大丈夫、死なないようにはしておきますから」

 「…………助け………て」

 「空澄っ!!」



 口まで凍りついて、もうダメだと思った。最後に弱々しい希海の声が聞こえてきた。

 瞳から暖かい涙がこぼれた。今まで感じたこともないような、とても熱い涙だった。だが、それさえも凍ってしまう。

 空澄が恐怖から瞳を閉じようとした。


 が、胸の辺りでとても温かい温度を感じた。


 すると、燃えるような熱くなり、空澄は驚いて目を開ける。すると、目の前が煌々と光り輝いていたのだ。そして、その光からは熱が発せられ、どんどん凍りが溶けていく。それでも火傷するほどではない。とても心地のよい温かさを放つ不思議な光だった。



 「なっ!なんだ……その魔法は!?」

 「………あ……これは宇宙ガラス………」



 首から掛け、大切にしていた宇宙ガラスの、ネックレス。服の中にしまっていたが、ふわりと浮いて、ガラスは自ら光りと熱を発していた。

 その光りに驚き、小檜山は1度後方に大きく飛び退いた。



 「なんだ………その魔法は………ガラスに魔法を封印していたのか?それにしても、このタイミングで発生するのは………何故だ」



 混乱している小檜山は、ブツブツと考察しながら光りを見つめていた。そのうちにも氷を溶かしつづけ、空澄を乗せていた氷の台もぐらりと揺れ始めた。



 空澄は慌ててそこから飛び出しながら、宇宙ガラスを見つめる。



 「璃真………あなたがやってくれたの?」



 彼が何かを準備してくれていたのかもしれない。そう思うと全てが納得がいく。

 これを空澄にプレゼントしてくれた理由。それは、今まさにこの瞬間のためだったのではないか。そんな風に思ってしまう。



 「………希海っ!!」



 地面にようやく降りると、倒れている希海を見つける。顔色が悪くとても苦しそうにしていたが、それでもガラスが光っているのをみて驚いている様子だった。




 「………そのガラスの魔法は………?」

 「わからないの。もしかして、璃真かな……」

 「なるほどな……だから、俺の魔法がうまく発動しなかったのか……」



 そう言いながらガラスに手を伸ばすが、希海はドサッと体が地面に落ちてしまう。空澄は慌てて彼の体をささえる。



 「…………私の魔力使ってくれる?」

 「え………」

 「小檜山さんの狙いは私………でも、私では魔法が使いこなせなかった。悔しいけど………彼は倒せなかった。………もっともっと強くなるって約束するから……だから………っっ」

 「……………」



 悔しい気持ちを吐き出した。

 彼に頼ってばかりで情けなくて志方がなかった。

 けれど、「大丈夫だ」と、言わんばかりに彼は空澄の口を塞いだ。いつものように、食べられるような深い深いキス。

 自分の魔力が彼に渡っていく。それを感じて涙が出てしまう。

 少しだけ、唇が離れると「俺がお前を守るんだって、前から言ってるだろ」と耳元で囁いた瞬間、ボオォーッッという炎が現れる。

 それを彼の手から出ている。



 「っっ!!遅かったですか…………!」

 「小檜山………おまえにはこいつは渡さない。空澄はそれを、望んでないんだ。おまえが何度やってきても、俺はおまえを追い出すさ」

 


 そう言うと、小檜山の体の周りを炎で包む。小檜山も必死に魔法で抵抗するが、純血の魔力を与えられた希海に敵うわけはないのだ。

 どんどんと炎の勢いが増していき、小檜山の服の裾が燃え始める。

 小檜山は悔しそうな表情をして、空澄の方を見つめた。すると、突然小檜山が大きな氷柱のようなもうを作り上げ、勢いよく空澄の方へと飛ばした。



 「空澄っっ!!」



 希海は、すぐに氷柱の方へと意識を変え、魔法を使ってその氷を溶かした。ガラスの魔法でも防げなかったそれは、きっと小檜山が残りの魔力を使い放ったもののようだった。


 

 「っっ!!」

 「おい、待てっっ!」



 希海が視線をそらした隙に、小檜山は火傷をした体のまま空をあっという間に飛んでいってしまった。希海は彼を追いかけようとしたが、希海も体が限界だったのだろう。よろけて、地面に足をついてしまった。



 「希海、大丈夫?!」

 「あぁ………悪いな、遅くなって………」

 「そんな事ないよ。私一人だったら何も出来なかったの………希海が来てくれてよかった。ありがとう、助けてくれて」

 「そのガラス………璃真が助けてくれたんだな」

 


 もう光を発していない璃真からもらったガラスのネックレス。空澄は、それを手に取るとほんのり暖かさを感じられた。



 「うん………きっとそうだよね………璃真にはずっと守ってられてばかりだな」

 「あいつはそれが嬉しいんだよ。………そういう奴だ」



 ボロボロになりがらも、ガラスを見て微笑む希海はとても嬉しそうで、空澄は笑みがこぼれた。



 空澄が魔女になって始めての事件。

 それが、ようやく終わろうとしていたのだった。







 

 


 

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