27話「作り物」






   27話「作り物」






 「ねぇ……どういう事、教えて…………」




 リアルが言っている事が理解出来なかった。

 璃真が前にも死んでいるとはどういう事なのか。全くわからなかった。頭がガンガンする。目の前が歪んで、現実の世界ではないようだった。

 ふらつく体を何とか自分で支えながら、空澄はリアムを見つめた。彼は弱った空澄を見ると楽しそうに笑った。



 「だから、そのままだよ。あいつは1度死んでる」

 「でも、私と一緒に暮らしてた。白骨の遺体が見つかるまで…………」



 そこまで言ってから、空澄は気づいてしまった。リアムはどこから現れた?

 璃真の姿になって、空霞の前に現れたのだ。そして、璃真の体からふわりと出てきたのがリアムだった。そして、彼が離れた瞬間、璃真は白骨になった。

 そう、リアムは璃真から出てきた。



 「………まさか………」

 「やっと理解したか。そう………あいつの体の中にいたのは俺だよ。10年前死んでから、動かしていたのは俺だったんだよ」

 「10年前に………あの事故があった時に璃真は死んでたって事なの?」

 「あぁ………その体を俺がもらったってわけ………けど、あいつは俺を逆に利用したんだ!!」



 楽しそうに笑っていたリアムの表情が一変した。思い出したように憤怒して、大きな声を出したのだ。空澄は大きな声と彼の態度の変化に驚き体をビクッとさせた。


 彼の急変した様子に空澄は驚き、思わず後ずさってしまう。

 が、そんな空澄を見てリアムは、またニヤリと笑った。



 「怖がるなよ。俺と結婚するんだ。……お嫁さんには、俺の事を教えてあげないとね」



 そう言って、リアムは楽しい話をするかのように、ニコニコと明るい口調で話し始めた。

 その姿に恐怖を感じていた空澄だったが、話を聞いていくうちに、彼の話に夢中になっていったのだった。










  ☆★☆




 リアムは日本とフィンランドのハーフだった。フィンランド人の母親が魔女であったが、父は一般人。リアムの魔力はそれほど強いものではなかった。だが、母親の祖母が純血だったようで、リアムの母は魔力が強かった。そのため、母には及ばないもののリアムも子どもの頃から魔力が高かった。他の魔王の友達にも尊敬される存在となっていた。

 そして、リアムは昔から魔王に憧れていた。自分の魔法を使って、人を助ける。まるで、ヒーローのようだと憧れ、自分の将来はキラキラと輝くものに思えていた。


 だが、ある時、純血の血を持つ魔王に会ったことがあった。戦争が始まると、1人で相手国を焼き尽くす事が出来るほどの力の持ち主で、見た瞬間にあまりの膨大の魔力を感じてしまい、リアムは戦慄し、その純血の魔王を直視する事すら出来なかった。

 自分の価値観というものが、なんて愚かな考えだったとわかったり、そして衝撃が走ったのだった。



 それからと言うもの、純血に嫉妬し、憧れをいだき、リアムは調べものに没頭した。

 そこで、純血のように莫大な魔力を得る方法を知った。それは一時的なものであれば、純血の体液を体内に取り入れる事。そして、もう1つが結婚だった。

 それを知ったリアムは純血の末裔がいる場所を調べた。そこで、魔女にもならずにノウノウと生きている日本人の女がいると噂を聞いたのだった。

 その女は生まれながらにして強い魔女になれる資質をもちながら、両親がそれを隠し魔女になることを止めているという。

 

 それを知ったリアムは、これはチャンスだと知った。魔女としての力がないのであれば、彼女は対抗する事は出来ない。それに、その女と恋人になり結婚してしまえばいいだけなのだ。それに、リアムにとっては幸運な事にその女の両親は死んでいた。

 そうとわかると、リアムはすぐに日本へと向かった。



 だが、物事はそんなに上手く運ばないものだった。

 花里空澄という純血の魔女のひく女の周りには、使い魔の鴉がいた。使い魔だが、呪いによって鴉にされた純血の魔王だった。そのため、リアムよりも魔力も魔法も強く、空澄に近づくことが出来なかったのだ。


 それに、幼馴染みの新堂璃真という男もやっかいだった。魔力を持たない一般人だというのに、妙に勘が鋭いようで、監視をしているといつもリアムの方をちらりと気にして視線を送ってきていた。



 そんな時に、絶好のチャンスが訪れたのだ。

 璃真が事故に遭ったのだ。不運な事故だった。だが、その男に同情する事などなかった。これは、璃真を使って空澄に近づけるのだ。


 リアムの得意魔法は「憑依」。人体や動物など生き物に入り込み、言葉通り操れるのだ。もちろん、様々な人間に憑依をして空澄へと近づいていた。だが、全て鴉や幼馴染みにばれてしまい、失敗していのだ。

 だが、幼馴染みの体に入ってしまえば、鴉も容易には近づけない。空澄と璃真は仲がいい幼馴染みで共に暮らしているほどだった。それに、恋人にもなりやすいだろう。


 道路に倒れ血を流している璃真を見て、リアムはニヤリと微笑んでしまう。


 ゆっくりと近づき、璃真の傍にしゃがんだ。

 虫の息なのか、浅い呼吸とヒューヒューという乾いた息が出ている男は、朦朧とした瞳で、リアムを見た。



 「………おま……えが、……いつも見てた奴か………」

 「あぁ………おまえの体を貰う。安心しろ、璃真として生きてやる」



 そう言うと、リアムは璃真の体に触れて、小さな声で呪文を唱え始めた。

 すると、横たわる男は弱々しく口元を緩めた。何故この状況で笑えるのだ?と、怪訝な視線で璃真を見つめる。



 「……空澄………が独りぼっちじゃ………なくなる………。あいつは泣き虫だから………」

 


 そう言って目を閉じた。

 監視をしていてわかってはいた。この男は純血の魔女に好意を持っていたのだ。だからこそ、空澄を一人きりにしたくなかったのだろう。

 ならば、俺がこの体を使うことは調度いいことだろう。そんな風に思った。


 呪文を唱え終え、死にそうになっている璃真の体に憑依をする。


 が、その時だった。

 最後の力で、璃真が何かを呟いた。

 その瞬間、リアムの体は縄で締め付けられたように動かなくなった。



 『なっ!!何だこれ…………』

 「………うまく、いったかな」



 先ほどまで死にそうになっていた男、璃真が血まみれになりながら立ち上がった。

 だが、おかしいのだ。確かにリアムは璃真の体に入っているが、全く体が動かない。だが、確かに男の体は動いている。



 『これはどういう事だ!?』



 その声は外にはもれていない。璃真の体の中だけで響いていた。それに、この男には聞こえているようだった。



 「僕が魔法をかけたんだよ。君を封じる僕の体の中に封じる魔法をね」

 『なっ………おまえ、魔王じゃないはずじゃ………』

 「そう、魔王じゃない。いや………純粋な魔王ではない、かな?」

 『作り物の魔王…………か!!』

 「そう。空澄の両親が遺したものでこっそり勉強したんだ。あの鴉も手伝ってくれたけどね」

 『………早く俺を解放しろ!』

 「だって、君が出ていったら僕は死んでしまうだろ?まぁ、あと10年だけだから。そしたら、おまえはあいつと結婚すればいいさ。まぁ、出来ればだけどね」

 『じゅ………10年だとっっ』



 そうやって、リアムは璃真の体に閉じ込められていたのだった。








 

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