28話「地下室での秘密の約束」
28話「地下室での秘密の約束」
★★☆
魔力が欲しかった。
そうすれば、空澄を守れると思ったから。
魔王として生まれたかった。
そうすれば、空澄に相応しい恋人になれるから。
璃真は、生まれながらに勘が鋭かった。
予知ほどでもなかったが、「こんな事が起こりそう」、何て思うとそれが実際にそうなるなんていうのはいつもの事だった。
周囲を良く見ており、変化にも敏感な性格でもあったので、人の考えや気持ちも何となくわかってしまう。
敏感で人の顔ばかり見てしまう。大人から見たら面倒くさい子どもだったはずだ。
だが、璃真はそんな勘よりも魔力が欲しかったと、何度も思っていた。
璃真と空澄は赤ちゃんの頃から一緒で、幼馴染みだ。そして、気づいた頃から彼女の事が好きだった。何故かなんてもうわからない。笑顔を見れば心が熱くなるし、泣き顔を見れば守ってあげたくなる。彼女と手を繋いで歩きたい。恋人になりたい。
気づいたら、そんな気持ちに支配されていたのだ。自分でも止められなかった。
けれど、それと同時に自分は彼女と結ばれないのもわかっていた。彼女には他に相応しい人がいるのだと。
そして、璃真自身がそこまで長く生きられない事を知っていた。
そう、それも勘だ。
それがわかったのは、2人の両親が亡くなった時だった。
彼女が大きな家で一人泣いている姿が見えたような気がしたのだ。
璃真は自分の死よりも、空澄が一人になってしまう事が怖かった。
彼女は純血の魔女の生き残り。
璃真はそれに気づいて、彼女の両親に問い詰めた。2人は驚いた様子だったが、すぐに真実を教えてくれたのだ。そして「あの子を守ってね」とも言われた。言われなくてもそのつもりだったため、璃真は頷いたのを、ずっと覚えていた。
そして、使い魔の鴉、希海も紹介してくれた。夜になると人間の姿に戻れるという彼は、璃真より年上の少年だった。呪いで苦労しているはずなのに、全くそれを感じないぐらいに楽しく生きているようだった。それと同時に、璃真はまた勘を感じた。「こいつが、空澄の恋人になるのではないか」と。
空澄の両親が亡くなった後、璃真は希海に頼んで、地下の秘密室を開けて貰うことにしたのだ。そこで、作り物の魔女になる決意をしたのだ。
「おまえ、何で魔法の勉強なんてしてんだ?」
その頃、璃真と希海は年齢が近い事もありそれなりに仲良くなっていた。
ある日、夜に地下室で調べものをしていると、希海がそう質問してきた。
今まで疑問に思っていた事なのだろうが、希海はこの時に初めて言葉にしたのだ。魔法を勉強したい、と璃真が言った時もただ「そうか」と言っただけで、特に理由を聞くことはなかったのに、何故今ごろ?と思いつつも、きっと彼の気まぐれだろう。璃真はそんなに気にすることもなく、返事をした。希海に内緒にする必要はないと、本当の事を口にした。
「たぶん、俺がもう少しで死ぬから?」
「………は?おまえ何言ってんだ?」
「昔から勘が鋭いって言ってるだろ。ただ、そう思うだけ。たぶん、20歳までは生きれない」
「………防げないのかよ」
普通なら「こいつおかしいのか?」と、言われるような事を言っているのに、希海はすぐに璃真の言葉を信じた。昔から璃真の力を間近で見てきたので、彼はすぐに理解したのだろう。
璃真の言葉に嘘はないと。
「たぶん防げないんじゃないかな」
「………死因は?」
「それはさすがにわからないかな。でも、病気ではなさそう。事故とか事件にあうとか………あ、でも何かあのジロジロと見ている外人の魔王が何か関係してそう。今、そう思った」
「……じゃあ、あいつに聞いて………」
「いや……そうじゃない、と思う。あいつは死ぬ原因ではないような………」
「………なんだよ、それ………」
希海はため息をつきながら、頭をくしゃくしゃにした。
お気に入りのソファに寝転がり、魔法の本を読んでいた希海は、何かを考え込んだ後に、ガバッと立ち上がった。そして、棚に敷き詰められている本たちの中からとある1冊を見つけ出すと、そこから更に何かを探し始めた。
璃真は不思議に思いつつも、何か思い付いたのだろうかと、気にもとめずに、テーブルの本に目を向けた。
が、希海はズカズカとこちらに向かって来て、璃真が読んでいた本の上に、先程取り出した本を乗せた。
「………これは?」
「これ、覚えとけ」
そう言って、古びた本のある項目を指差して、希海は強い口調でそう言った。
そこには古い言葉で「魔人封印魔法」と書いてあった。魔人というのは、昔の言葉で魔女や魔王の事を言うとある本で説明されていたのを希海は覚えていた。という事は「魔女や魔王の封印魔法」が書かれているのだった。
ただパッとみた感じでは、かなり難易度が高い魔法だとわかるものだった。
「…………これは随分難しいね。作り物の僕には難しいかな」
「やるんだ」
「…………どうしたんだ、急に………」
「おまえが死ぬって言うからだろ。俺は空澄から離れられないし。だから、自分のことは自分で守れ。魔女が原因ならそれを発動して魔女を封印してしまえばいいさ」
「だから、僕に魔力が……」
「俺の魔力をガラスに保管しておく。それを持ち歩け」
真剣な表情で、璃真を見つめる彼の光る黒い瞳。まるで星空のようだと璃真は思っていた。その綺麗な夜空の瞳が、鋭く尖っている。彼は怒っているようだった。
「それでもし襲われたりしたら、割ればその魔力を吸収して魔法を使えるようにしておく。だから、呪文は覚えておけ」
「暗記は得意分野だ」
「………自分が死ぬのを普通みたいに言うなよ。おまえが死んだら寂しいだろ」
「……………ごめん、希海」
璃真の返事を聞いて満足したのか、彼は膨れっ面のままソファに戻り、横になって目を瞑った。ふて寝をしまったようだ。
だが、最後の言葉は実に希海らしかった。
そっけない雰囲気を持ちながらも、男相手に「寂しい」と自分の気持ちを言える。それはなかなか出来ないことだ。
だからこそ、希海は空澄に似ていると思ったし、恋人になるのだなと思った。
悔しくないわけはない。
空澄を置いて死にたくないし、他の男にも取られたくない。
けれど、恋人になって本当に死んだら、彼女はどんなに悲しむだろうか。今のままよりも孤独を感じるはずだと思った。
それに、振られるのが怖い。そんな弱い自分もいた。
きっと彼なら告白してしまうのだろう。
そう思い、希海は苦笑した。
やはり、希海には敵わない。生き続けられたとしても………
「鴉の呪いがとけても、空澄には言わないでくれよ。もちろん、俺がもし死んだ後も」
「……それは約束出来ないから、ちゃんと見とけ」
目を瞑ったまま冷たく答える希海を見て、璃真はまた笑ってしまったのだった。
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