26話「真実を知るとき」
26話「真実を知るとき」
冷たい床にシミがある白い壁。
窓には鉄格子がついている。
希海は先程の取調室より酷い場所に入れられてしまった。
小檜山に「逮捕する」と言われた瞬間に、魔法を発動しようとした。が、何も起こらなかった。呆気にとられ、自分の手のひらを見つめていると、小檜山はツンッとした表情で飄々と答えた。
「この部屋は魔法が使えないのです。魔力を封じるまじないがされています」
「それはおまえも使えないって事だろ?」
「はい。………ですが、私には何にも問題はありませんので」
「っっ」
小檜山は言葉を言い終わった瞬間に、物凄いスピードで希海の元に駆け寄ったのだ。咄嗟に後方へと跳んでそれを回避したが、それも小檜山はよんでいたのだろう。希海が跳んだ先には、すでに小檜山が居たのだ。「まずいっ!」と心の中で叫んだ希海は、すぐに腕で顔をガードしていたが、そこに軍服の黒いズボンとヒールの靴が飛んできた。勢いがある蹴り。希海は苦痛から「くっ!」と声が漏れ、体は横に飛ばされてしまい、壁に体をぶつけた。だが、そこで終わる希海ではなかった。使い魔として、子どもの頃から尚美を、そして空澄を守るために魔法だけではなく体術を鍛えてきたのだ。
壁にぶつかった反動のまま、希海は壁を思い切り蹴って、小檜山に迫った。
希海の反撃は予想外だったのか、小檜山は驚いた表情だったが、口元は笑っていた。希海は嫌らしい奴だと思いながら、反撃と言わんばかりに彼の顔に殴りかかった。
が、その攻撃は当たらなかった。
気づくと手首を小檜山に捕まれていた。
「私はこの魔女対策部の中でもエリート中のエリート。少し前まで使い魔という下等な呪いを受けていたあなたとは違うのですよ」
そう言い放つと、小檜山は腰にかけていた手錠を取り出し、希海の片方の手首にかけた。よく知る銀色の手錠ではない、真っ黒な手錠だった。
希海はまだ片腕にしか手錠をかけられてないため、攻撃を仕掛けようとした。が、ガクンッと膝をついた。
「な………なんだ………」
「この黒い手錠は魔女や魔王のために作られたものなんですよ。魔力を一気に吸いとる事が出来るんです。ただ、使用すると1時間で壊れてしまうので、あまり使いたくないのですが………今回は花里のためですから、仕方がないです」
「………おまえ、目的は………空澄か?!」
「あなたに話す理由などありません。それでは、しばらくの間お休みください」
「…………くそっ…………」
頭が朦朧として、希海は目を開けることを立っている事も出来ずにその場に倒れたのだった。
そして、気づくとこの場所にいた。
先ほどの手錠は外されていたが、変わりに銀色の手錠が両手首につけられていた。
その場所は、きっと牢屋だろう。
先ほど何度と魔法を使おうとしたが、発動しなかったので取調室と同じで、この場所は魔法が使えないようだった。
出入り口はとても大きく重厚なドアがあり、しっかりと鍵がかかっており、とてもじゃないが開きそうになかった。
そして、希海は先ほどから体が気だるく感じてしまい、布団に横になっていた。原因はわかっている。腕に、何かで刺されたような小さな傷跡。これは注射の痕だ。
魔女や魔王は、寝ることで魔力を回復する。先ほど、気を失っていた希海は少しだが魔力を回復していたのだ。そうなると、希海は奪われた魔力はどんどん回復していくのだ。
だからこそ、血液を抜いた。体液には魔力が宿るのだから、とってしまうが1番簡単なのだ。
「くそ………やられた………」
希海は弱々しくそう呟いて、鉄格子の窓から外を見つめた。まだ外は明るい。希海が倒れていた時間はそこまで長くないはずだった。
だが、心配なのは空澄だった。
小檜山という男は「花里」の言葉をよく出していた。きっとあの男は空澄が目的なのだろう。だから、邪魔な希海を空澄の傍から離した。
希海はそう考え付いたのだ。
「………もう少しだけ………空澄、無事でいてくれよ」
そう呟きながら、希海はまた目を閉じた。
まずは魔力を回復させることが最優先なのだ。早く魔力が戻る事を願い、希海は力が入らない体を布団に沈めて、ぐっすりと眠りについた。
☆☆☆
「は、伴侶って………何を言っているの?」
赤髪の男、リアムに問いかける言葉は、震えていた。
彼の考えが全くわからなかったからだ。
伴侶というのは、結婚するのだというのは空澄にもわかる。だが、どうして、見ず知らずの魔王と結婚するという話しになるのかがわからなかった。
すると、乾いた笑いを見せたリアムは、小馬鹿にしたように空澄に言った。
「おまえは本当に何も知らないんだな」
「…………あなたは何を知っているの?」
「おまえの知らない事だよ。魔女と魔王が結婚すると、お互いに魔力を分け与える事ができるんだ。おまえの魔力を0にして、おまえの魔力を全部貰う。そうすることで、俺の魔力が今までの限界以上に付与される。しかも、純血の魔女の魔力となればその力は格段に上がるだろう?」
「そんな………」
「それが俺の願いだ」
リアムの説明に、空澄は絶句した。
そんな話しは聞いたことがなかった。夫婦になれば魔力の譲渡が可能。しかも、相手の魔力をプラスした魔力を使えることになるのだ。そう考えると純血同士が結婚をした両親はとても強い力があったのだろうと考えられる。
純血が狙われる理由が、ここにもあったと空澄は背筋が凍る思いをした。
「本当は無理矢理奪うのは好きじゃないんだが、俺もそろそろ我慢の限界なんだよ。幼馴染みの体をもう使えないしな」
「…………え…………」
彼の呟きが耳に入る。
それは、信じられない言葉だった。空澄は体が固まり、視線だけでリアムを見つめた。
すると、リアムはまた面白そうに微笑み、腕を組むと得意気に話し始めた。
「まだ、気づいてないんだな」
「ねぇ……幼馴染みって璃真の事でしょ?体は使えないって………」
「おまえの幼馴染みは10年前に死んでるんだよ。1度………な」
少しずつ自分が知らなかった事を知り始めている。そんな実感を感じながらも、空澄は真実を知るのが怖くて仕方がなかった。
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