第16話 班長
「あの、係長」
のんのが帰ったあと、山根は写真を手にして生活安全一課の上田係長へ近づいた。新聞を読んでいた上田が顔を上げる。
「おう、どうした」
「この写真なんですが、顔に心当たりがありますか」
そう言いながら、先ほどのんのがビルの現場にいた言った男たちの顔写真を置いた。上田はチラリと写真を一瞥して、「なんだこれ」という顔で山根を見た。
「これ、さっき刑事課から回ってきた、例の秋葉原の見当たり用の写真のうちの何枚かなんですが」
上田が今度は写真を手にしてジッと見ている。
「実は、うちの警部補が、こいつらがこの間の飛び降り騒動のビルの現場にいたと言ってまして。あっ、いや、あの喧騒の中ですからそんな見るような暇もなかったし、絶対見間違いだとは思いますが。とりあえず、こいつらがどこのどいつかぐらいは調べておかなきゃ、無視するのもかわいそうかな、と」
「日暮が言ったのか? いた、と」
「あっ、いや、まあ勘違いですよ。ホントすいません」
山根があわててその写真を上田の手から取ろうとしたが、上田はそれを手にしたまま立ち上がり、「ついてこい」と言ってさっさと歩き出した。
廊下にいったん出て隣の刑事課のドアを開ける。
「班長」
上田がツカツカと歩み寄る先の「班長」と呼ばれた男が腰掛けたソファーから上体だけ振り向いた。「班長」は、名前を土居といい、刑事課のベテランだ。
「おう、上さんが自分からここへ来るなんて珍しいな。どうした」
「こいつら何者だ。どっかの組員か」
土居が座っているソファーの前へ上田が回り込み、バサっと手にした写真4枚をテーブルに置いた。
「いや、最近ここらで売り出し中の若造だよ。ギャップという半グレの連中で、表向きは組には入ってないことになってるが、バックには関東蜷川組がいると睨んでる。暴対法逃れの隠蓑になってるみたいだな」
「蜷川っていやあ、シノギは薬か」
「ああ。最近はコカインを東南アジアあたりから仕入れてるって噂だ」
「蜷川ならノガミ(上野)からこっちだから、アキバあたりもだな」
「日曜日のあれか」
「合同だから、あんたんとこも行くんだろ。この写真の若造らの顔、ちょっと気にしといてくれ」
「上さんが言うなら、なんかありそうだな。わかった。若い衆に言っておくよ」
「かいかぶるなよ」
照れ臭そうに上田が笑った。
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「繋がった、かな」
一課へ帰る道すがら、上田が山根につぶやいた。
「でも係長、警部補の見間違いの可能性が高い気もするんですが」
そう山根が言うと、上田は山根の目をジッと見る。
「山根、本当に何も感じないか」
「何をですか」
上田は一瞬考えたが、それ以上は結局何も言わなかった。去り際に「人は見かけにゃよらんもんだぞ」とだけ言い残して行ってしまったのだ。
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