第3話 巻き爪は地味にしんどい

 彼らがしょっぱい自己紹介を終え少ししたころ、そこには再び問題に直面している二人の姿があった。


「なあケイ。俺らって大学生じゃん?」

「そうだな。俺らが大学生じゃないならだれが大学生を名乗ることができるんだと疑問に思ってしまう程度には大学生だな」

「となるとやるべきことがあると思わねえか?」

「酒か?たばこか?イキった大学生感がするからやめとけよ。しょうはともかく俺は未成年だしな」

「いや俺も未成年だよ。留年してねえって言ったろ?」

「ならなおさらやめとけよ。普通に法律違反だぞ」

「一度も酒とかたばことか言ってねえよ。そうじゃなくてだな」

「ああ、パチンコ?俺近所の占い師にギャンブルでボロ負けする相が出てるって言われたからそういうのしないようにしてるんだよ。わるいな」

「パチンコでもねえよ。あとおれもケイはギャンブルで大負けするタイプだと思うからやらないほうがいいと思う」

「パチンコでもねえとしたら何なんだよ。分かんねえ!俺にはしょうが何を考えてんのか全然分かんねえよ!!」

「おれにもなんでケイがヒステリーを起こしてんのかが分かんねーよ。いや、ちょっとな。そろそろバイトをしてみるべきなのかなーと思ってな」

「ああ、そういえばしょうはバイト童貞だったな」

「その呼び方はやめろ。まあその通りなんだけどさ」

「二重の意味で?」

「二重の意味でだけどさ。で、ケイはもうバイトやってんじゃん?」

「やってるな。顔がいいから飲食店のウェイターだぜ」

「顔関係ないだろ。で、バイトって面接あるじゃん?ちょっとあれの練習させてくんね?」

「あー、しょうはコミュ障ダブルミーニングバイト童貞だもんな」

「悪意しかない呼び名をやめてくれ」

「俺は面接官をすればいいんだな?」

「話が速いな。そういうこと」

「じゃあやるか」



「あ、すみません。バイトの面接で来た神城慧です」

「あーはいはい君ね。じゃあ事務所のほうに行くからついてきてもらえるかな」

「はい。よろしくお願いします」


「じゃあ、そこの席に座って。じゃあ面接を始めようか」

「失礼します。お願いします」

「じゃああれ。あの紙出して」

「あ、履歴書ですね。これです」

「は?履歴書?何言ってんの君?面接であの紙って言ったら彼女とのプリ写に決まってんじゃん」

「え、そうなんですか?いや、そんなはずないでしょう!」

「ダブルミーニングバイト童貞は黙ってろ!!面接官が出せって言ってんだから早く出すんだよ!」

「す、すいません。いやでも僕彼女いなくって...」

「っふ」

「いやそんな渾身のどや顔でマウント取んなよ!」

「あーでもそうかー。彼女いないのかー」

「いないとダメなんですか?」

「そりゃそうだよ。うちの仕事は交通量調査だし」

「あ、おれそんな仕事のバイト受けてる設定だったんだ。でもなんでその仕事と彼女の有無が関係あるんです?」

「そりゃこの仕事は退屈だからね。仕事中の私の話し相手として呼んでくれないと」

「いや絶対いらんだろ。職権乱用かよこのおっさん」

「そっかー。彼女いないのかー。本当なら不採用だけど彼女もいないし面接は落ちるしダブルミーニングバイト童貞だしかわいそうだなー」

「張り倒すぞこのおっさん」

「あれは?今まで彼女いたことは?」

「ないですよ」

「そっかーそうだよねー。じゃああれ、好きな人って今いんの?」

「なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよ」

「おい面接官が聞いてんだぞ答えろよ」

「...いませんよ」

「ほんとにー?面接官は百戦錬磨だからね。嘘ついてもすぐにばれちゃうよー」

「いやなんだよこのおっさん!つーかこのひとを面接官にしたやつ誰だよ!!」

「まあ顔見たら「あ、好きな人とか作っても付き合えないからあきらめてるやつだな」ってすぐわかるんだけどね」

「うざい!このおっさんうざい!もういいです。帰ります」

「あ、まって。そのまえに面接の結果だけ伝えるね」

「いやもういいよこんな奴がいるとこではたらきたくねーし」

「常識がなってないから不採用」

「一番言われたくねーやつに言われた!」



「ケイ。これはひどくね?」

「俺のバイト先履歴書送るだけで面接とかなかったしな」

「先に言えよ...」

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