第11話 解読不能−得体の知れないスタンプたち−
失敗だったかもしれない。
いや、失敗だった。
連絡先を交換してしばらくは俺の言いつけ……いや、脅し文句が聞いたのか、あまり連絡してこなかった。あって1日3、4件。それでも俺にとっては多いほうだったが、許容範囲と我慢できた。それが一夜にして破られた。ホーム画面のアイコンの右上には忌々しい表示が18と表示されている。1件は先ほど来た妹からの連絡だ。
中身を見るのも怖い。
とりあえず部活で学校に行った妹からの『洗濯物、干しといて』という飾り気のない連絡に対して決して可愛いとは言えない頭にツノの生えた
ベッドに鈍いバイブ音が響く。今現在にも通知音が鳴り止まないのでマナーモードにしてやった。
だがしかし、バイブにしたところでこの通知地獄からは逃れられない。
「仕方がないか」
そう独り言を呟いてアプリを起動し、れいなのトークルームを開く。
『何か用か?』
既読は即座についた。
しかし、既読の早さと裏腹に、返信は割と時間がかかった。
『朝早くにすみません』
またもや少し時間を開けて、次。
『ゴールデンウィークの予定にたいて聞きたいのですが』
ん?
『ついて、だす』
んん?
『です』
まさかスマートフォンも初心者なのか。今時珍しいな。
『予定、というと?』
ちょっと意地悪だったかな、数分後。
『いっしょに何処かへ出かけましょう』
『どこか?』
『へい』
おいおい。寿司屋に行きたいのか?
『はい、です』
しばらく返信しないでいると、あちらから送ってきた。
『遊園地とかどうでしょうか』
は?
『恋人同士じゃあるまいし、そんなところ行ってたまるか』
少し動揺してしまった。
『ためですか』
まあ、俺たちは“ため”ではあるが。
『だめ、です』
だめだ、こりゃ。
『いちいち訂正しなくてもいいぞ、ニュアンスくらいはわかるから』
『はあ』
あ?
『あっ』
間違えたんだな。それは分かったが、この場合は訂正してしかるべきだ。誤解を生みかねない。
『はい、だな』
『そうです』
『で、他にマシなところはないのか』
もう諦めた。一回くらいは付き合ってもいいだろう。
『じゃあ、いろいろなところへ買い物に行きましょう』
……まあ、遊園地よりはマシか。しかし、いろいろなところとは何だろうか。
『わかった、それならいいだろう』
『やった!ありがとうございます』
喜んでくれて何よりです。
『じゃあ、明日の9時に駅前で』
明日の話だったのか。どうせ何も予定など入ってないが。
『わかった』
俺的にはそこで会話終了だったが、れいなにとっては違ったようだ。
『では、明後日はどうしましょう』
あ、明後日?2日連続であなたとお出かけですか、ご冗談を。
『そう言えば、れいなに聞きたいことがあったんだ』
少々強引ではあるが、会話をそらしてみた。これが大成功。
『はい、なんでしょう』
『この動物、なんだと思う?』
−スタンプ送信
『え?サイじゃないんですか?』
意外と早い返信、予想外の回答。
サイ?ああ、サイか、これは。いや、まて。サイなのか、これは?言われてみればそうかも知れないがしかし、サイではないだろう。灰色でないし、……いや、それ以上サイについての情報は持ち合わせていないが。だが、灰色でないからサイではないと決めつけるのもどうかと思う。世の中にはもしかしたら灰色でないサイが存在しているかも知れない。それに、目を細めればサイに見えないこともない。
−スタンプ送信
「グッ」と親指を立てているサイ(としておこう)のスタンプを送り、これで本当に会話終了。
会話終了とともに、この得体の知れない動物のスタンプが「最近使ったスタンプ」の上位の常連になることは想像に
しかし、懲りないれいなはまたも何かを送ってきたようだ。
「なんだ?」
その様相はペンギンにも見えるが、しかし背中に翼の生えている得体の知れない動物のスタンプ。そいつは自分の頭の上に翼で円を作り、OKマークとしている。
作者は同一人物だろうな。
初頁-First Page- 桜咲優 @P2000
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