第5話 コイバナーお弁当を添えてー

 今日も時は過ぎ、昼の休憩時間がやってきた。

 いつものように前の席の椅子をこちらに向け、古室が鎮座する。


「いやー、疲れたなぁ。持久走はつらいよ」

「そうだな」


 古室は俺の机にミルクコーヒーと真新しいメロンパンを置き、両手を上げ伸びをする。


「昨日のメロンパンはどうした」

「え?あれを食べろっての?ムリだよ」

「食べ物を粗末にするのか」

「いや、そう言う訳では……」


 昨日メロンパンがなくなったと大騒ぎしていたこいつは、結局見つけることができず昼飯抜きで午後の授業を受けることになった。

 だが、今朝になってこいつが教室中に響き渡る大声をあげた。俺は探偵のように駆けつける事もなく、無かったこととして処理していたのだが、こいつがいち早くお知らせしてくれたので仕方がない。

 こいつの話では、机の中からメロンパンが無残な姿で発見されたらしい。


 古室被告は、

「保健委員の仕事に間に合いそうになかったので、急いでいた」

などと供述している。


 なお、俺は古室被告の供述には不審な点が多く、故意による犯行とみて静観していく方針である。

 ただ、食べ物を粗末にすることは静観できない。例え無残な形になったとしても、メロンパンはメロンパンだ。食べられなくはない。


「分かったよ、食べるさ」


 古室は潰れたメロンパンをモサモサ食べ、俺は愛する妹作の弁当に手をつける。


「奏はいいよなー、可愛い妹が毎日弁当を作ってくれて。ただただ羨ましいよ」

「お前にも妹はいるだろう」

「いるけどさ」

「せがんでみたらどうだ」

「いや、俺のために作ってくれるとは思わないなぁ」


 こいつの妹とは一度会ったことがあるが、頼んで断るような強気な性格には見えなかったが。どちらかといえば内気で、こいつの妹とは思えないな、と思ったような気がする。


「そうか、なら諦めろ」


 それだけのことだ。まあ、何にしても我が妹には感謝。

 古室は今日も委員会があるからとさっさと席を立ち、その後弁当を半分ほど食べ終えたところで隣の席に女子生徒二人が向かい合って腰掛ける。ひそひそと内緒話をするように話していたので最初のほうは聞き取れなかったが、次第に聞き取ることのできる声量に戻ってくる。


「でさ、かげの先輩のことなんだけど」


 かげの先輩?なんだそれ。


「どうすればいいかな?どういう告白の仕方が一番いいと思う?」

「うーん、そうだなぁ。ラブレターっていうのも良いけど、直接言ってみたほうがいいかもね」


 なるほど、かげの薄い先輩に告白しようって話か。いや、薄いとは言ってないか。


「えー、でも直接かげの先輩に告白するのは緊張する」

「でもなぁ、そっちのほうがインパクトというか、気持ちがストレートに伝わっていいと思うよ」


 ……。「影野先輩」か。普通そうだろうが、なぜ俺は「影の先輩」だと思ったのだろうか。


「ねえ、神崎君。おーい、聞いてる?」


 思考を巡らせていた俺は名前を呼ばれ、現実へと引き戻される。


「え?なに」

「神崎君はさ、ラブレターで告白されるのと、直接告白されるのってどっちがいい?」


 は?と言いそうになるのを堪え、こちらを向く隣の席の女子生徒に返答する。


「どっちでもいいんじゃないのか。本当の気持ちが伝われば」

「ふーん、意外と普通な考えね」


 おい。


「ありがと。参考にしてみる」


 真面目に答えるのも面倒なので適当にテンプレートのようなことを言ってみたが、

「普通な考え」と言われると腹が立つな。

 まあ、俺の回答が何の役にも立たないことくらい向こうも最初から承知だろう。片方の女子生徒の健闘を祈ろう。




 私は前にも言ったようにご飯派である(実証はできなかったが)。そのため、昼食をコンビニで買うとなると、惣菜パンや菓子パンではなく、おにぎりを選ぶ。

 その中でも梅は欠かせないだろう。あの酸味がたまらなくおいしい。

 次にエビマヨ。エビの食感がアクセントになっており、マヨネーズとの相性も抜群。

 大体おにぎりは二つくらいが丁度いい。一つでは足りないし、三つでは飽きてしまう。

 だが、たまらなくお腹が空いている時だってあるだろう。そういう時は、「菓子パン」の出番だ。

 ごはんとパンの両刀使いでお腹を満たす。

 だが、この二刀流昼食には弱点がある。それは飲み物のチョイスに困ることだ。

 おにぎりの場合はお茶、パンの時は牛乳かコーヒーをおともに食を進めるが、ハイブリッドとなるとそうはいかない。お茶はパンに合わないし、牛乳とコーヒーはごはんに合わない。かといって清涼飲料水という選択肢もない。洋食には合うが、和食にジュースは合わないからだ。

こうなれば妥協するしかない。お茶ですべてことを済まし、私は次の行動へと移るのだった。立ち上がるとどこからか心の声がする。


「はぁ、僕たちの立場……」

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