第5話:≪ダブルフェイス=クロウ≫



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 ホテルニューグラウンドカブラ。それは蕪新町に存在する中で、最も大きい商業カジノホテルである。

宿泊スペースは日本最大級の51階建て、延べ床面積は70万平方メートルを越えるモンスターホテルだ。


 衣・食・住、その全てにおいて最高水準の物を取り揃えており、およそ庶民には想像もつかないような歓待が毎夜繰り返されている。

そして何より、この世の全ての娯楽を詰め込んだとまで言われるカジノフロアは、圧巻の一言しかない。


 吹き抜けの天井は光取りのためガラス張りになっており、閉塞感を全く感じさせない造りとなっている。

その絢爛さたるや、博打を知らずに五十まで生きた男の財布の紐すら緩ませると言わしめる程である。


 またその裏では、警察官をも巻き込んだ売春の斡旋や違法な金貸し、薬物・医療機器・臓器の密売等、様々な悪事が行われている。

その母体は「組織」にあり、全体の収益の1/3程もがカジノによって賄われていると言われていた。

ものの噂によれば、その収益は年に数十億ドルとも数百億ドルとも言われている。


 ジョージ=ロングヒルは、その収益と負債の全責任を負う、カジノホテルの総支配人である。

そんな彼の元へ意外な来客が訪れたのは、夜も更け始めた午後11時頃のことであった。



「あぁ?ラモンが来ただぁ?」



 ジョージは、インカムから流れてきた名前に、この上なく渋い顔で返した。場所はカジノの裏口に程近い、支配人室である。

有事の際にはいつでもカジノフロアへ出ていけるよう、彼はこの場所で常に待機している。


 太い眉毛が印象的な、骨太の男だった。声も野太く、がさつそうな印象は拭えない。

その容姿ゆえに、彼が表へ出るのは本当の非常時だけである。

ジョージはインカムへ向けて、太い声を一層荒げてがなりたてた。



「今夜は火消しなんざ頼んじゃねーぞ。何の用だって?」


『はい。急ぎの用で支配人と話がしたいと……裏口で止めてますが、どうしますか?』



 そこまで聞いて、ジョージはインカムのマイクへ向かって露骨な舌打ちをした。

マイク越しに話しているのは、裏口の警備を任せている、組織の若い衆だった。

普通の人間なら有無を言わさず追い返すところだが、相手がラモンではさすがに荷が重い。



「何のつもりかは知らんが、用なら連絡員を通せって言っとけ。それより、そっちにセントはいるか?」


『セントさんですか?こちらでは見かけなかったですが……うわぁっ!?』


「もしもし?どしたぁ?」



 しばしの沈黙の後、インカムから最初の声とは違う声が流れる。



『ジョージ、ラモンだ。今からお前に話がある』



そこから聞こえたのは、紛れもないフォークロア=ラモン本人の声だった。



ジョージは不機嫌を隠さない声音でラモンへ怒鳴りつけた。



「用がある、じゃねぇよ。そのケツ穴ガバガバにされたくなけりゃ、今すぐ巣へ帰りやがれ」



ジョージは息をもつかせぬ勢いで、ラモンへ罵倒を浴びせる。

ラモンはその罵倒を気にも止めず、一人で話を続けた。



『出来れば直接会って話がしたい。お前の今いる場所はどこだ?』


「てめぇは人の話を聞けっての……」


『あぁ、もういい。もう見えた』



その台詞が聞こえるや、ジョージのいる支配人室の扉が派手に開かれた。



「やはりここにいたか、ジョージ」



いつもの黒いジャージ姿で、フォークロア=ラモンがそこに立っていた。

その姿を見るやいなや、ジョージは露骨に嫌悪の顔を見せる。



「ラモン……ここは掃除屋がウロチョロしていい場所じゃねぇんだよ。それくらい分かってんだろうが」



怒りを顕にするジョージを尻目に、ラモンはいかにも大したことでないとばかりに軽く言い放った。



「急ぎだったんでな。悪いが、手続きは全て取っ払わせてもらった」


「このホテルのどこかに、爆弾が設置されている。今すぐカジノの客を全員避難させてくれ」



 ラモンは確信を持って、ジョージへそう宣告した。

もしもその話が本当なら、被害者は客と従業員含め、百名をゆうに越える。

日本の爆破事件史上類を見ない、甚大な被害と言えるだろう。


 しかしジョージはそれを聞いて、ラモンを小馬鹿にしたような軽蔑の目を見せた。



「爆弾だぁ?寝言は寝て言えよ、ラモンさんよォ。ここは泣く子も黙る組織の台所だぞ。爆弾なんぞ持ち込ませる訳ァねぇだろが」



 ジョージが過信に近い放言をするのも無理はない。

ここは組織の金の大部分が出入りする要所である。


 そのため、武器や火器の類いは、誰であれ持ち込めないよう徹底しているのだ。

正面玄関にはSPが複数名待機し、客への金属探知が義務づけられている。


 それは外部の業者であろうと、カタギでない同業者であろうと同じ扱いである。

もし不審物等を持ち込めば、誰であれ必ず組織から処分を受けることとなる。


 そのため、不埒な輩が何かしようと企てることは、ほとんどないと言って良かった。

しかしラモンは、そんなジョージの余裕をきっぱりと拒絶する。



「敵が外部の人間なら、な」

 

「……なんだと?」


「野間、奴を連れてきてくれ」



 奪ったインカムとは別に持っていたらしい通信機へ向けて、ラモンは低い声で告げた。



「オラッ!キリキリ歩かんかい!」


「ひぃぃ……」



 数十秒後、恐らくはどこかで待機していたらしい野間が、男を一人引き連れてやってきた。

髪の長い、頬のこけた貧相な男であった。両手首は手錠で縛られ、その上から縄が幾重にも噛まされている。

薄っぺらな、冬物のコートだけを羽織り、いかにも冴えない男という風体である。



「誰だよそいつは。次から次へ勝手に人を連れ込むんじゃねぇよ」


「こいつは、組織の爆発物製造班班長、≪ダブルフェイス・クロウ≫だ」


「あぁ!?なんだって!?」



ジョージは訳が分からないといった顔で男を指差した。



「こいつが、爆発物製造の班長?てこたぁ爆弾仕掛けたのもこいつってことか?」


「そういうことだ」


「意味が分かんねぇ……なんで同じ組織の人間がカジノに爆弾を?」



困惑するジョージの間に割って入るように、野間が言葉を差し挟む。



「話すと複雑過ぎる事情があんねんけどな……」


「あんたは組織の連絡員か?悪いが何の説明もない今の状況じゃ、お前ら誰一人信用出来ねーな」



警戒心を顕にするジョージをなだめるように、再びラモンが口を開く。



「ま、そうだろうな。時間がないんで俺も簡潔に話すとしよう」



ラモンは油断なく辺りに目を配ると、静々と語り始めた。



「ジョージ。あんた、ロマネスクの恩赦は知ってるか?」


「あぁ、聞いてる。ボスが殺し屋どもを焚き付けた、意味の分からん指令だろ」


「こいつ……クロウは、その恩赦の参加者の一人だ」


「ほう?」



 ジョージは横目でじろりとクロウを見る。クロウはそれを直視できず、下を向いておどおどしていた。



「元は爆発物の製造と解体のスペシャリストだが、恩赦へ参加して組織から離反する意思があったらしい」


「だが、事を起こした直後にこいつは怖じけづいた。本来なら敵対しあうはずの俺に、爆弾を処分してくれと泣きついて来たのさ」



 男はラモンの言葉に、何度となく小さく頷いている。その度に長い黒髪は揺れ、何本もの白髪が混じっているのが散見された。



「おいおい、いい年したオッサンがビビってケツ捲っただって?ダッセぇにも程があるだろ……」


「そもそも、何だってそいつは無関係な俺のカジノを巻き込もうとした?」



 ジョージがクロウを睨むと、彼はそれだけでびくりと身をすくませる。病的なまでに臆病な男のようだった。



「おおかた組織の施設を巻き込めば、俺が動くと踏んだんだろう。実際、話を聞けばそうせざるを得なかったからな」


「クソが……そんな理由で人様に泥かけんじゃねぇよ」



それに、とジョージは前置きをして喋り始める。



「俺ァここの責任者になって長いが、セキュリティはいつでもおこたらず万全に調整してる」


「どう足掻いても、SPや従業員に気づかれず爆弾を持ち込むなんざ不可能なんだよ」



 しかし、その言葉を否定したのは首謀者のクロウであった。



「ち、ち、違う……」



 クロウはどもりながら、ようやくそれだけを発声した。どうやら、その声に乞音障害を有しているようだ。



「……何が違うってんだ。言ってみろ」



 ジョージはドスの効いた声で、クロウを恫喝する。伊達にカジノの責任者をやってはいない、貫禄のある恫喝である。

その言葉に、クロウはすっかり怯えきってしまっていた。



「う、うぅ……」


「何が違うのか言ってみろってんだよ!!」


「ひぃっ……」



怯えて答えに窮する男に代わり、すかさずラモンが助け船を出した。



「清掃だよ、ジョージ。この広い施設、清掃は外部の業者に委託してるんだろ?」


「いいや。残念だが、清掃も全て従業員にやらせてる」


「窓の外もか?」


「……あ?」



 ジョージの瞳に、怪訝な光が宿る。ラモンはその瞳の変化を見逃さなかった。



「これだけの高層ホテル、従業員の手だけで清掃が行き届くとは思えん。内部は中の人間でも、外装は業者に掃除させるしかないんじゃないか?」


「……」



 ジョージの額に、冷たい汗が一筋流れた。それは、ラモンの言葉に思い当たる節があることを意味していた。



「クロウは、ビルの屋外清掃業者に紛れて爆弾を設置したと言っていた」


「さすがのセキュリティでも、清掃具の一つ一つまで確認は出来ないだろうからな」


「掃除用具の中に爆弾の材料をバラして仕込むことは、充分に可能だ」



 訥々と語るラモンへ、ジョージは焦りを隠さずに反論する。



「ま、待て。清掃業者への委託は俺じゃなく副支配人のセントの担当だ!奴の采配なしに業者を入れるこたぁねぇぞ!」


「そのセントは今どこだ?」


「奴は……今朝から行方が知れずに、連絡が取れなかった……」


「なら、すでに利用されて殺されてるな。まず間違いない」


「ウソだろ……おい……」



 ジョージは困惑の度合いを深めたが、すぐにその顔を怒りの色へと染める。その矛先が向かったのは、当然クロウの元だった。



「おい、クロウとやら。あんた、うちのセントに何しやがった!?」


「し、し、知らない……わわ、分から、な、ないんだ……」



 怯える子犬のような様相で震えるクロウに、ジョージはなおも食ってかかる。



「てめぇが首謀者なんだろうが!!知らねぇはずねぇだろ!!」



 勢いのままにクロウの胸ぐらを掴んだジョージだったが、クロウはそれに抵抗すらしない。



「ほ、ほっ、本当なんだ……わた、わた、私は『彼女』のめい、命令に、従っただけだ……」


「か……か、彼女はい、いつでも……私を監視してる……わた、私は彼女から……一時だって、にげ、逃げられ、ないんだ……」



 おどおどと語る男へ、ジョージは今にも噛みつかんばかりである。

ラモンはクロウの胸ぐらを掴んだジョージの手をほどくと、二人の距離を強引に引き離した。



「落ち着け、ジョージ。そいつは本当に何も知らない」


「んな訳があるか!!こいつが爆弾を仕掛けた犯人なんだろ!?」


「それが事態を複雑にしてる原因でな……こいつは犯人であって、犯人でないんだ」



ラモンがクロウとジョージの間に入り、事情を説明しようとした、その時だった。



「あぁっ……!!」



クロウが突然、頭を抱えて左右に振り始めた。



「く、来るっ……!!『彼女』が、来てしまうっ……!!」


「うああああああああああああっっっっ!!!!!」



 クロウは尋常でない速度で頭を左右させ、狂った雄叫びを上げる。

それは今にも舌を噛み千切らんばかりの、凄まじい勢いである。



「なっ……なんだこいつ!?」


「来たか……」



 ジョージはそれまでの怒りが収まるほど呆気に取られ、ラモンは状況を冷静に捉えようと静かに見守っている。

やがてクロウは、その速度を維持したまま、壁へ頭を打ちつけ始めてしまった。



「お、おい!大丈夫なのかよアイツ!?」


「すまんが、今は黙って成り行きを見ていてくれ」



 そしてクロウの鮮血が壁を染め上げ、彼の白髪混じりの髪をも染め上げる頃。



「あっ……あはっ……あはははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!!!!!!!!」



彼の悲痛な雄叫びは、狂った笑い声へと変貌を遂げていた。


 そこには、先ほどまで怯えた顔で周囲を見回していた男の姿はなかった。

白髪は鮮血に染まり、まるで真っ赤なメッシュで染め抜いたようになり。

その瞳は挑戦的に光り輝き、恐ろしいまでの不敵な自信をその内部に窺わせた。



「あははははははっ!!!!よぉう、ラモン!!!久しいじゃないかぁ!!!」


「相変わらず、湿気った火薬みたいな辛気臭ェツラしてるねェ!!!ギャハハハハハハハハッ!!!!!」



そこにいたのは、まるで別人のようになってしまった男の姿であった。



「なっ……なんだァ!?」



 ジョージは文字通り、開いた口がふさがらない。

その醜態を嘲るかのように、「それ」は荒縄で縛られた腕でジョージを指差して答えた。



「あんたがこのホテルの支配人だねぇ!!アタシゃ、≪ダブルフェイス・ヒイロ≫!!」


「このホテルへ爆弾を仕掛けた張本人だよ!!あっはははははははははははっっっっっ!!!!!!!」



まるで人が違ってしまった男の様子を、ただ一人ジョージだけが呆然と見詰めている。



「一体、何なんだこいつは……」



ラモンはそうなるのもやむを得ないといった様子で、ジョージへ説明した。



「こいつはクロウのもう一つの顔、ダブルフェイス・ヒイロ。二重人格と言えば分かりやすいか?」


「二重人格……!?」



 一人の人間の中に複数の人格が介在する、多重人格という症例がある。クロウは世にも珍しい、その発症者であった。

しかもクロウが彼女と呼んでいたことから、ヒイロはクロウの中に存在する女性の人格であるらしい。

ヒイロは中指を立てて、ラモンたちへがなりたてる。



「そうさ!!ゴミ虫のクロウは、自分で背負いきれない殺しの罪を、アタシになすりつけて逃げたのさ!!」


「だからアタシゃ、好きなようにやらせてもらうことにした!!ロマネスクの恩赦を勝ち取って、自由になるのはこのアタシだよ!!」



 まるで屋内で雷が鳴っているかのような、凄まじい声量でヒイロは叫ぶ。

その言葉に、ジョージはかろうじて反論しようと試みた。



「ば、バカ野郎!そんなてめぇの都合にカジノを巻き込むんじゃねぇ!」



 しかしその懸命な努力も、ヒイロの饒舌の前では簡単に掻き消されてしまう。



「あぁ~?文句があるならさっさと爆弾見つけて解除してみせな!!!眉毛野郎!!!」


「まぁこの程度のお粗末なセキュリティで満足してた能無しに、アタシの爆弾は見つけられないだろうけどねェ!!!」


「能無しはいきがってないで、アタシの靴でも舐めて命乞いしな!!!ギャハハハハハハハハッ!!!!!」



そしてヒイロは、罵倒の言葉を引っ込めるとラモンへと向き直った。



「さぁ、ゲームの始まりだよラモン!!あんたとアタシ、どっちがクレバーか競おうじゃないか!!」


「このヒイロ様が直々に、あんたをぶち殺してやるよォ!!ギャハハハハハハ!!!ギャハハハハハハッッ!!!」


「ハハッ……」



 そこまで喋ったヒイロは、床に膝をついて座り込んだ。



「……うぅ……い、い、今彼女が、き、来てたのか……ラモン……?」



 顔を上げたその瞳には再び怯えが宿り、クロウの人格が戻って来たことを示唆していた。



「あぁ、来たよ。宣戦布告だけ残してな」



 ラモンがその肩に手を置くと、クロウは背中を丸めてガタガタと震え始めた。



「うぅ……お、お、恐ろしい……恐ろしい……わ、わ、私のじ、人生は、彼女に、し、支配されている……私に、にはな、何も……出来、ないんだ……」



 クロウはその場にへたりこみ、頭を抱えるばかりである。

その血にまみれた髪を、野間がどこからか持ってきたタオルで優しく拭ってやっている。

ラモンはそれを横目に見ながら、ジョージへ声をかける。



「説明は以上だ。理解したんなら、早く客を避難させてくれ」



 しかしジョージは、その言葉に対して難しい表情で返した。



「……残念だが、それは不可能だ。今日は黒瀬組の組長と幹部がお忍びで来てる。途中でカジノを閉める訳にはいかねぇんだよ」


「黒瀬組か……グレーの客か?」



ラモンの質問に、ジョージは頷いて肯定する。



「チッ……ヒイロの奴、抜けさせられない客が来る日を把握してやがったか」



 組織の賭博部門では、客層の判断を色の隠語で分けて識別している。

シロの客は、全く害意のない一般客。クロの客は、博打ではなく闇取引が目当ての裏の要人。

そしてグレーの客は、カジノを目的としたヤクザやその関係者のことを指していた。


 もし今ここで全ての客を帰してしまえば、黒瀬組も満足しないまま帰す羽目になる。

組織との背後関係を考えて引き下がることも考えられるが、何せ相手はそれなりの筋の者である。


 使う金額すら、一般客のそれより桁二つ程も上回っているのだ。そんな彼らに面子を潰したと思われれば、どんな報復行動に出るか知れたものではない。



「分かったろ。カジノに火の入ったこの状況で、客を帰す訳にはいかねぇんだ」


「ならせめて、一般客だけでも逃がしたらどうだ?」



 しかしラモンの提案に、ジョージは首を縦に振らなかった。



「出来なくはねぇが、万が一爆弾が爆発しちまえば、今度はなんで黒瀬組を逃がさなかったって話になるだろ?」


「VIPはまず一番に逃がすのが定石だ。あちらを立てりゃ、こちらが立たずってこったな」



 ラモンはジョージのセリフに、珍しく諦念めいたため息をついた。



「面倒な人種だな、ヤクザってのも……結局、現状のままで爆弾を見つけて解除せにゃならんってことか」



 ジョージはそこで、ラモンの言葉を遮った。



「そのことだが、お前爆弾の解体なんか出来んのか?」


「いくらお前が殺しのプロでも、素人判断でどうこう出来る代物じゃねぇだろ」



ジョージは胡散臭げな顔で、ラモンを睨み付けている。



「俺の専業は殺し、爆弾処理が専門外なのは百も承知だ。だから危険を承知で、敵であるクロウを連れてきたんだ」



 ジョージはそれにも真っ向から異を唱える。



「だがよ、爆発物製造班って言うからには、こいつ以外にも爆弾の専門家はいるんだろ?」


「だったらそいつらを連れてきた方が、人手も確保出来て良かったじゃねーか」



それに対してラモンは、そうではないのだと首を横に振る。



「もう組織には、クロウしか爆弾職人はいない。これを見れば分かる」



 ラモンは懐から一枚の紙を取り出して机へ置き、支配人室の扉を開けて外へ出ようとした。



「……?」



野間とクロウはラモンに追随し、ジョージだけがその紙を不用意に覗き見てしまう。



「ゲッ!?」



 そこに写っていたのは、胸部を爆破され息絶えた、製造班の男たちの死体である。

それはダブルフェイス・クロウの、恩赦への参加表明写真であった。



「テメッ……何てもん見せやがんだラモン!!」



ジョージは込み上げる吐き気を堪えながら、ラモンの後を追った。



「何の前置きもなしにあんなグロいもん見せるんじゃねーよ!!」


「悪かったな。だが時間がない以上、ああするのが一番手っ取り早い」



 迷いなく歩くラモンへ、それまで口を閉ざしていた野間が尋ねる。



「ラモンはん、どこ行きますのん?」


「カジノスペースの屋上だ。爆弾は十中八九そこにある」



 あまりにも断定的なその口調に、ジョージが何故という顔を見せた。



「なんで犯人でもねぇのに、んなことが分かるんだよ?」



 ラモンは、天井を仰ぎ見ながらそれに答える。



「カジノの天井は吹き抜けだ。上で爆発が起これば、ガラスや鉄骨が大量にフロアへ降り注ぐ。爆弾造りのプロが、そんな美味しい構造を見逃すはずがない」


「なるほどなぁ……」



 ジョージの代わりに、野間が感心したような口振りで納得してみせた。



「それに、屋外清掃員に化けて侵入したなら、必ず屋上へ通される。窓の清掃は、上からゴンドラを吊るして拭き上げるのが基本だからな」



その主張に、クロウが静かに頷いた。



「わ、私も……そう、思う……ひ、ヒイロは、無駄なことを、い、一切し、しない……いつも最短距離で……ひ、人を殺める……」


「ご、ご、合理的で……人の命を、な……何とも思ってい、ない……あ、悪魔なんだ……」



 クロウはその身を、ぶるりと震わせた。これまでにもヒイロの行動で、何度となく肝を冷やして来たのだろう。



「決まりだな。ヒイロと最も時間を共にしてる男のお墨付きだ。爆弾は、屋上のどこかにある」



 そしてカジノスペースを横断しようとしたラモンたち一行を、ジョージが制する。



「おい!!お前らそのカッコでカジノスペース通るなよ!!手縄付きの男なんざ引っ張り回してたら、客がビビッちまうだろ!!」


「はいはい、分かった分かった。緊急時に細かいなぁ」



 それに文句を返したのは、野間だけであった。


そして一行は、非常用階段を登ってカジノスペースの屋上へと辿り着いた。

カジノはホテルスペースから離れた造りになっており、横に広い敷地面積が取られている。


屋上までの高さは二十階建てのビルに相当し、その天井は先ほど述べた通り吹き抜けである。

建物としては、少々寸胴な造りと言えるかもしれない


 そこで彼らを待ち受けていたものは、ラモンにとって妥当、ジョージにとっては意外なものだった。




「セントッ!?」



そこにはいたのは……いや、あったのは、物言わぬ骸となった副支配人、セントジョーンズの遺体だった。


 セントジョーンズの遺体は、屋上にしつられられたとある場所に横たえらせてあった。

先ほどの写真と同じく、胸部が爆破されて空洞になり、黒焦げになっている。



「セントォォォォ!!!」



ジョージはそれを見て取り乱したが、ラモンはその肩を掴んで落ち着くよう促す。



「死体に近づくな、ジョージ。まだ爆弾が残されてるかもしれない」


「うるせぇ!!セントは俺の同僚だ、テメェらの指図は受けねぇ! !」


「落ち着きや!気ィ吐いてもセントはんは帰ってけぇへんで!」



 二人に諭され、さすがのジョージも冷静さを取り戻す。



「す、すまねぇ……俺としたことがテンパっちまった」



 その動揺を見て、口を開いたのはクロウだった。



「あ、あ、あれは……ひ、ヒイロのち、挑発だ……ばば、爆弾は……こ、ここにあるに、ち、違いない……」


「あぁ、俺もそう思う。手分けして探すぞ」



それを止めたのは、意外にも最も動揺していたジョージだった。



「その必要はねぇよ、ラモン」


「何故だ?」


「あんたまさか、同僚殺されて自棄になってるんと違うやろな?」



野間の懐疑の目を、ジョージは怒鳴るような声で否定する。



「んな訳あるか!爆弾の場所のだいたいの目星がついたんだよ!」



 ジョージは頭を掻いて、セントの死体から目を逸らしつつ言った。



「なんだと?」


「清掃に使うゴンドラの中だ、多分な」


「その根拠は?」



ラモンは確認のため、その情報を精査しようとする。



「セントが死んでるあそこは、ゴンドラを吊るためのクレーンの操縦室だ」


「しかも、普段は屋上に上げてあるはずのゴンドラが、どこにも見当たらねぇ」



 確かによくよく見ると、爆破痕はセントの胸部の他に、背後の機械にも残っている。



「行って確かめる気はねーが、たぶんゴンドラはもう動かねぇだろ。自力でゴンドラの中を確かめてみろってことじゃねぇか?」


「なるほど。ありそうな線だな」



 ジョージの言葉通り、ほどなくしてゴンドラは発見された。ゴンドラを吊るためのクレーンを追えば、その追跡は容易である。

ゴンドラはカジノの北側壁面の中腹に設置され、彼ら三人を待ち構えていた。



「さて、どうするか……」


「クロウに下りて取ってこさせようぜ」


「や、や、止めてくれ……わ、私はこ、こういう役目に、む……向いてない……」


「ケッ、じゃあどうすんだラモンよう?」



ラモンはクロウへ顔を向けると、幾つかの事実確認をする。



「一応聞くが、あんたは爆弾の設置場所について、本当に何も知らないんだな?」


「し……知ってたら、と、とっくにお、教えて、いる……」


「わ、わ……私はか、彼女のやることを、知らない……彼女もわ、私のや、やることを、把握、していない……」



狼狽しつつ伝えるクロウを見て、ラモンは腹を据えたようであった。



「記憶の分断、ってヤツか……仕方ない。野間、ジョージ、ロープを用意してくれ。俺が下りて確認して来よう」


「大丈夫なんです?どんな罠があるか、分かったもんやないですよ?」



野間が心配そうにラモンへ問いかける。



「手をこまねいて見てる訳にもいかないだろう。お前たちは上で、万が一に備えておいてくれ」


「もし爆発の兆しが見えたら、俺を置いて逃げろ。いいな?」



 それはラモンなりの気遣いだったが、ジョージと野間はそれを頑なに拒絶した。



「知ったこっちゃねぇな。この場の責任は俺にあるんだ、好きにさせてもらうぜ」


「そうですよ!ラモンはんとうちの仲なのに、今さら水くさいこと言わんといてください!」


「……分かった。勝手にしな」



ラモンはそれ以上止めずに、ロープの到着を待った。


 屋上には緊急時のための災害避難用具が設置されている。

その中に、ゴンドラまでギリギリ届く程度の長さのロープがあった。



「ヒイロの姉さん、ロープあるの知っててギリギリの高さにゴンドラ仕込んだっぽいなぁ」


「だろうな。俺が下りて確認しに来るのまで見越しての罠だろう」



 野間がそのロープの長さから、そう推理する。それに関してはラモンも野間と同意見のようであった。

ラモンは転落防止用の柵にてきぱきとロープを結わえつけ、その先端を丸めてゴンドラまで垂らす。

釈迦の送った慈悲の糸のように、ロープは地獄のゴンドラまで続いた。



「じわじわ来る絶妙な高さだな……お前本当に下りれるのか?」


「並みの訓練は積んでない。このくらいなら目をつむってても出来る」


「はぁ~……やっぱ一級の殺し屋はちゃいますなぁ」



そんな雑談を交わしながら、ラモンは屋上からの第一歩を踏み出していた。


 軽口を交わしつつも、ラモンは下りる前から脳内で様々なシミュレーションを試みていた。

爆弾の起動条件は一体何か。スイッチ式、時限式、振動感知式、熱感知式、様々な条件が考えられる。

もしそれを知らずラモンが起動させてしまえば、カジノ爆破の汚名は彼が着ることになる。


 ヒイロの狙いは、そこにあるかもしれないのだ。それを踏まえて、爆弾の処理は慎重に慎重を期さねばならない。

強いビル風が、ラモンのロープを時折ギシギシと揺らす。

流れに逆らわないよう最小限の動きで揺れをかわし、ラモンは軽々とゴンドラまで下りた。



「これか……」



 下りる途中から見えてはいたが、ゴンドラの内部には革製のボストンバッグが置かれていた。目的の爆弾は、その中に入っているに違いない。



「どうやってボストンバッグなんか持ち込んだんだかな……」



 隠すことが可能な爆弾の部品より、バッグの方が遥かに大きく持ち運びが困難だ。

そんな素朴な疑問を後回しに、ラモンはバッグのファスナーに手をかけようとした。

しかし、彼の身に危険が迫っていたのもまた、この時だったのである。


 屋上からは野間とジョージの二人が、軽々とロープを下ってゆくラモンの様子を見守っていた。



「うわ、えげつなー……なんであんなスルスル下りてけるんや」


「恐怖心が麻痺してるとしか思えん……何なんだあいつは……?」



 二人がおっかなびっくりゴンドラを覗いている間、クロウに異変が起きていた。



「うぅっ……」



 クロウは二人の背後で、よろけながらある場所へと向かった。一歩、一歩。二人に動きを悟られないよう、ゆっくりと。

やがて彼は、目的の場所へとたどり着く。それは、セントの死体が放置された、ゴンドラの操縦室だった。


 クロウは、その死体の脇からあるものを取り出す。そしてそれを掴むや、いきなり柵へ向かって走り出していた。



「ヒャッハァーーーーーーーーーーー!!!!!!」



 その時クロウは、既にヒイロへと変貌していた。二人はラモンを心配するあまり、ヒイロへの警戒を完全に怠っていたのだ。



「あっ!?」


「何ィッ!?」



 二人が止める間もなく、ヒイロはラモンの元へと落下していく。ヒイロが手にしたものは、両端に鉤のついたロープだった。

その一端を柵へかけると、ヒイロはロープを掴んだまま自然落下していく。


 彼女は落ちながら、反対の鉤を自身の手にかけられた手錠へと引っ掛けた。

そして落下の速度を、窓ガラスを蹴ることで横向きの推進力へと変えていく。



「……!」


「よぉう、色男ォ!!アタシもご一緒させてくれないかい!?」



そしてヒイロは、ラモンの立つゴンドラの上へと下り立ったのである。


 ボストンバッグを挟んで、二人は対峙する。燃え盛る炎のようなヒイロとは対照的に、ラモンはいつものように冷静そのものだ。

ロープワークのみで高層建造物の壁面を下る危険な技を、ヒイロは平然とやってのけた。

ここが地上何階かを考えれば、正気の沙汰でないことはハッキリしている。


 クロウになかった大胆さと身体能力を、ヒイロはまざまざと見せつけているようだった。

ヒイロはラモンが反応するより早く、ボストンバッグを踏みつけにしようとした。



「おいおい。自分で用意したもんを手荒に扱うな」



 ラモンは足払いで彼女の足を払うと、バッグをまたいで高速の突きを見舞おうとした。

しかし次の瞬間には、彼女は後ろへ飛び退き、ロープを頼りにゴンドラの外へと逃げてしまっていた。



「よくもまぁ、手首から先を封じられてそこまで動けるもんだ」


「だろう!?ビビクソのクロウには出来ない芸当さぁ!!」



 振り子の要領でロープを振り、ヒイロは返す刀でラモンへ飛び蹴りを浴びせようとした。

ラモンはその蹴りを避けて、ヒイロの顎へカウンターの掌底を決めようとする。




「甘ェーーーーーッ!!!」



 しかしヒイロは、手首を支点として宙返りすることでその掌打をかわす。

ロープで支えられた彼女の体は、常態では不可能な三次元的な動きを可能としていた。

そしてラモンの背後に回ったヒイロは、振り子を最大限に振り切ってラモンへ襲いかかった。

それは完全な背後からの奇襲であり、いかなラモンも反応し得ないように見えた。



「ラモンはん!!」



 屋上からそれを見ていた野間は、ラモンの危機に思わず声を上げる。そして、ヒイロの使うロープを柵から外そうとした。



「甘いのはお前だ、ヒイロ」



 野間がそれを思い止まったのは、ラモンに全く焦りの気配が見えなかったからであった。

背後の死角から襲ったヒイロの顔面に、固い何かがぶつかる。

完全に死角を突いたと思っていたヒイロには、予想外の攻撃だった。



「がぁっ……!?」



 それは、ラモンの右足だった。ラモンは右足を垂直に振り上げると、背後から襲ったヒイロを肩越しに蹴ったのである。

尋常でない柔軟性と脚力、そして安定した重心を持たなければ、不可能な技であった。

カウンター気味に入ったラモンの爪先は、ヒイロの意識を脳外へ弾き飛ばす。



「おっと」



ラモンは彼女が落ちないよう、ロープを引いてゴンドラの内側へと引き込んだ。



「ラモンはーん!大丈夫でっかー!」


「すまねぇー!気が緩んじまったー!」



野間とジョージの二人が、ゴンドラを見下ろしながら謝罪する。



「大丈夫だ。クロウを引っ張り上げてくれ、俺もすぐに上がる」



 二人がクロウに繋がった縄を引っ張っている間に、ラモンはボストンバッグを腕に引っ掛け、ロープを伝って器用に屋上まで生還した。

そして三人でクロウの吊るされたロープを引き上げると、意識を喪失した彼を屋上の床へ寝かせた。



「とんでもねぇ無茶しやがんな、こいつは……」


「せやなぁ……ほんで、爆弾は?」


「ここにある」



 ラモンはバッグを開けて、その中身を白日のもとに晒す。素人目に構造は分からないが、複雑な機械と配線の繋がった箱が、そこには入っていた。



「問題は、この爆弾をどうするかだな……本当ならクロウに解除させるはずだったが、気絶しちまってるんじゃな」


「二、三発しばいたら起きねぇかコイツ?」



ジョージが物騒なことを言ってのける。



「それより、爆弾をどこかに捨てた方が早そうだな。野間、車を回してきてくれ」


「はいな!どこに捨てに行きます?」


東蕪湾ひがしかぶらわんの第三埠頭でいいだろう。やや遠いが、あそこならまず人目につくことはない」


「ほな、うちも手伝います!」



野間が名乗りを上げると同時に、ジョージも一歩前へ踏み出した。



「俺も行くぜ。最後まで見届ける責任はありそうだからな」



しかしラモンは、それをきっぱりと突っぱねた。



「気持ちは分かるが、ここ以外にも爆弾が残されてる可能性が捨てきれない。お前たちはここへ残って、残された爆弾がないか探してくれ」


「チッ……分かったよ。最後までオメーにいいとこ取りされちまったな」



ジョージは舌打ちすると、仕方なくそれを了承した。



「それと、クロウは俺と一緒に車に乗せていく。そのつもりでいてくれ」


「えぇぇっ!?なんでですの!?」



野間が驚愕の声を上げる。



「ドライブにしちゃシケたパートナーだな、おい」



ジョージも呆れたような様子で、その提案に毒を吐く。



「なんでも何も、こいつがヒイロになったらお前らじゃ対処出来ないだろ」


「それに、道中で気絶から目覚めたら、その場で解体処理させることも出来る」



 ラモンはさも当然であるという風に語ると、クロウを担ぎ上げて長い階段を下りようとした。



「待てよ。俺がそいつを持って下りるから、あんたは車まで先に行っとけ」



ジョージがラモンを引き止め、その重荷を肩代わりしようとする。



「構わん。別に俺一人で問題なく運べる」


「客に見られたらどうすんだ。いいから俺に貸せ」



 ジョージは半ば無理やりラモンからクロウを奪うと、クロウの足をやや引きずるようにして運び始めた。



「おっと……貧相なナリして案外重てぇな、コイツ……」


「自分から言うたんやから落とすんやないで!」


「わぁーってるわ、アホ!!」



 そして四人は、カジノの裏手に横付けされたバンの前までやってきた。

野間が事前にそこまで車を運転し、ジョージは肩で息をしながらクロウを運んでいた。



「へはっ……へはっ……運動不足の体にゃ堪えるぜ……」


「そんなしんどそうにするなら、最初から止めとけば良かったんちゃう?」


「うるへーわ!!」



 野間の軽口はジョージを心配してのものだったが、ジョージ本人には皮肉のようにしか聞こえない。

ラモンはそれを横目に、バンの助手席の扉を開いた。



「クロウは助手席に乗せてくれ。その方がもしもの時に動きやすい」


「爆弾は?」


「俺が持って運転する。振動を与えたら爆発する可能性があるからな」


「はいなー」



 ラモンは運転席に座ると、自身の膝の上へボストンバッグを置く。

膝の上がごたつき運転しづらそうではあるが、それもやむを得まい。



「よいしょ、っと……クロウはんも積みましたで!」


「よし。それじゃ、行ってくる」


「おい、ラモン!!」


「なんだ?」



出発する直前、ジョージがラモンを引き止めた。



「恩を売られたなんざ思っちゃいないが、結果的にお前はこのカジノを救って見せた」


「この借りは必ず返す。テメェの力の及ばないことがあれば、俺を頼れ。いいな!!」



ラモンはそれに、短い言葉だけで応じた。



「……あぁ、そうさせてもらう」


「なんや、めっちゃツンデレやなあんた」


「ケッ、やかましい。俺らはとっとと後処理済ますぞ!」



 そうしてラモンとクロウを乗せた車は、カジノホテルを後にしたのであった。



────

  ─────

     ─────



 道中にこれといって特筆すべき危険はなかった。万一にも警察には見つかりたくないため、目立たない道を選んで走る程度である。


 さながら、本当のドライブのように穏やかな時間が過ぎ去ってゆく。

その時の流れの中にあって、ラモンはまだ事の済んでいないことを理解していた。

やがてラモンは、車の振動によってクロウが覚醒しつつあるのに気がついた。



「う……うぅ……こ、ここは……?」



クロウが重い瞼を開くと、すかさずラモンが無味乾燥な声を上げた。



「動くな」


「ヒッ……!?」



 しゃっくりのような奇声を上げ、クロウが凍りついた。

それもそのはずである。ラモンは対向車線から見えないよう、クロウの脇腹にナイフを向けていたのだ。



「ら、ら、ラモン……な、何をする……ナイフをど、どけてくれ……」


「もうとぼける必要はない。全てのネタは割れてるんだ」


「……!?」


「ここには俺とあんたしかいない。ゆっくり話をしようじゃないか」



 そうしてラモンは横向きのナイフを、クロウの体の上で器用に一閃させた。

クロウの着ていたコートと薄手のシャツがはらりと落ち、その下から奇妙な構造の機械が覗く。

どこかで見た覚えのあるそれを、ラモンは横目でちらりと確認する。



「それはドクの奴が人飼いに使ってたのと同じ、生体感知型爆弾だな?」


「バッグの爆弾はフェイクで、そっちが本命の爆弾だったわけだ」



生体感知型爆弾。それは宿主の心音とリンクし、脈拍の停止と共に爆発するタイプの爆弾である。



「ドクが作るには尖り過ぎてると思ってたが、あんたがこいつの産みの親だったんだな」


「い、い、いつから……こ、この爆弾に、き、気づいて、た……?」



クロウはこれまでにも増して、動揺の色を濃く浮かべている。



「服の様子とあんたの素振りからして、何か隠し持ってるのは最初から気づいてた」


「しかしまさか、自分に爆弾を仕掛けるなんて真似をするとは思わなかったよ」



 ラモンはナイフをしまうと、両手を車のハンドルの上へと置いた。

それを見て、クロウはラモンに害意のないことを悟り、内心で安堵する。



「……す、す、すまなかった……こ、これも、全て……ひ、ヒイロの……し、した、ことで……」


「お、お、俺は、寝てる間に……ば、爆弾を、仕掛けられた、だけなんだ……!!」



しかしラモンは、クロウのセリフを最後まで聞かなかった。



「なぁ、クロウ。さっき俺は全てのネタは割れてると言ったよな?あんたの本心は、もう透けてるんだ」


「えっ……」


「ロマネスクの恩赦に名乗りを挙げたのは、ヒイロじゃなくあんただ。爆破騒動の首謀者は、あんたを置いて他にいないんだよ」


「なっ……!!」



クロウの目が、驚愕に見開かれた。



「な、な、な、何故っ、そんなことを言う……わ、わ、私は、被害者だ!!」



 気弱なクロウにしては珍しく、ラモンへ向かって食って掛かる。

ラモンはそれを軽くいなすと、前方の遠くの方へ視線を投げた。



「ここから先は、俺の勘が混じったただの推測だが……クロウ。ヒイロの奴は、爆弾を作ることができないんじゃないか?」


「……!!」



 クロウの表情が、あからさまに狼狽したものとなった。



「やっぱりな。そうじゃないかと踏んでいたよ」


「なっ……なぜそんな、し、知った、ような口を、き、聞けるんだっ……!!」



あくまでも強気に言い張るクロウを、諭すようにラモンは口を告ぐ。



「『記憶の分断』だよ、クロウ。多重人格者は、その人格ごとに担当する記憶に違いがある」


「やることと出来ること、覚えていることにそれぞれ差異が生まれるんだ」



 ラモンの述べた記憶の分断は、多重人格の生まれる経緯に依るものである。

多重人格とは、過度のストレスやトラウマから、精神の負担を軽減するために起こる。


そのために脳が取る行動こそが、負の記憶を有する別人格を作り上げ、主たる人格を保護することなのだ。

クロウがヒイロの行動を把握していなかったのと同じように、ヒイロもクロウの記憶を共有できないのである。



「あんたが多重人格を発した理由は、十中八九人殺しのストレスからだ」


「気弱なあんたは、自分の爆弾で人が死んでいくという事実に耐えられなかった」


「そしてここが重要なんだが、それと同時にあんたは『爆弾作りを捨てることも出来なかった』」


「何故ならあんたは、自分には爆弾を作るしか能がないと思っているからだ」



クロウの顔が、怯えてひきつった。それはラモンの指摘が、正鵠を射ていたことを示していた。



「自分にはそれしか出来ることがないが、かといって爆弾が人を殺す事実は認めたくない」


「その二つを矛盾なく同居させるには、爆弾は作ったが使うのは自分じゃないという言い訳が必要だ」


「そのために、爆弾魔ヒイロが爆弾を作れるようにする訳にはいかない。そうなったら、あんたのアイデンティティが喪失しちまう」


「そして、爆弾という最大の武器を作れないヒイロに、爆破テロを主導することは出来ないんだ」



 仮に他者へ爆弾の製造を発注したとしても、恩赦の期限内に爆弾が届くとは限らない。

それに加え、自分の納得いく仕上がりであるかは、実物が届くまで確認しようがない。

それを不確定要素とするよりは、自分で爆弾を作る方が確実である、というのは合理的な判断と言えた。


 クロウは、酸欠の鯉のように口をぱくぱくと開閉している。

言いたいことはあるが、言葉が上手く続かないようである。

その姿を無視して、ラモンはさらに言葉で理を詰めていった。



「ヒイロがこの事件の主犯格だとしたら、バッグの爆弾で確実に俺を仕留めるよう仕向けていたはずだ」


「万が一ヒイロが事を主導してたなら、奴はカジノごとき壊すのを恐れないからな」



 ラモンは、膝に置かれたボストンバッグをちらりと見ながら言った。

対してクロウは、どこを見るでもなく手をもじもじと擦り合わせている。

その手に噛まされていた手錠と縄は、屋上から引き上げた際にすでに取り払われていた。



「だがあんたが主犯なら、まず間違いなく組織との衝突を恐れてカジノへ手は出さない」


「そしてそれなら、服の下へ隠し持ったそれは、本当の切り札のはずだ」


「そこへ来てヒイロは、わざわざ爆弾の爆発を待たずに俺へ格闘戦を仕掛けた」



クロウが、いよいよ追い詰められた表情となってゆく。ラモンは素知らぬ顔で、クロウへ一方的な話を続ける。



「その時に、ドクのところで見た心拍と連動してる爆弾のことを思い出した」


「俺が反射的にヒイロを殺せば、その瞬間に本命の爆弾がズドン、って腹だったんだろう」


「その時点でようやく、バッグの爆弾は偽物だと確信出来たってことだ」



 クロウは、何も言わなかった。ラモンの言葉にただ両の手を固く結び、口を閉ざすばかりである。

ラモンは数拍置いて、沈黙を貫くクロウに質問した。



「なぜ、自分に爆弾を仕掛けるような真似をした?」


「俺を殺したいだけなら、他に方法なんていくらでもあっただろう」


「あんたの病的なまでの臆病さからしても、そこだけが不可解だ」



 ラモンは、クロウの返答を辛抱強く待った。もとより車内という密室、白状する他ないのは火を見るより明らかである。

それでもなお五分はたっぷり沈黙してから、ようやくクロウは重たい口を開いた。



「……だ、だ、ダイヤモンド、だ」


「……何?」


「ダイヤ、モンド=トゥーン、に、じょ、助言を、こ、請うた、んだ……」


「なんだと?」



 クロウは、喉のつかえを吐き出すように、どもりながらも答えた。



「あ、あ、あの人は、弱い男には、み、見向きもし、しない……」


「その代わり、じ、自分よりつ、強い者に、い、挑もうとする弱者には、助言を、くれたり、す、するんだ……」


「わ、わ、私は、彼のめ、眼鏡に、かな、かなわな、かったが……ひ、ヒイロが、彼に、話を、き、聞けた……」



 クロウが言うには、トゥーンはこんなことを述べていたという。



『お前ごときがフォークロア=ラモンを殺したい?』


『なら、相討ちより他に方法はねぇなぁ』


『お前の作れる個人殺傷能力の一番高い爆弾を持って、奴もろとも自爆しろよ』


『組織のカジノでも的にすりゃ、奴も応じざるを得ないんじゃねぇか?』


『ま、お前が挑む前に俺がラモンをぶち殺してるだろうがな』



ラモンはそれを聞いて、浅いため息をついた。そのため息にすら、クロウはびくりと体を震わせる。



「トゥーンの野郎、死んでからも人に迷惑かけやがる。この世界は本当に、誰と誰が繋がってるか分からんもんだな」



 そう答えたラモンへ、クロウは独白のような台詞を続けた。



「トゥーンからの、て、て、提案をふ、踏まえて……策は、私が、ね、練った……」


「あ、あんたの、そ、想像、通り……ひ、ヒイロはきょ、協力者ではあるが……しゅ、首謀者じゃ、な、ない」


「ひ、ヒイロは、私の案に……は、反対も、さ、賛成も、しない……」


「か、か、彼女は、いつも……私に、ただよ、寄り添うだ、だけなんだ……」


「か、彼女は、私の厄介者で……私の、しゅ、守護、天使で……そ、そして、私の、え、英雄、だったんだ……」



ラモンは、車道の中央を見つめながら、ヒイロの名をそらんじた。



「ヒイロ。英雄……ヒーロー、か。皮肉な名前もあったもんだな」


「あんたは自分の意思を通す強さを持たず、ヒイロはあんたの意思に沿うしか出来ないわけだ」



 ラモンは最終的に、クロウの二重人格の構造をそう結論づけた。



「わ、私のは、話せることは……す、全て、話した……」


「わ、私を……こ、こ、殺すなら……殺せば、いいだろう……」



 クロウは怯えながらも、ラモンを斜に見ながら強がった。それはどちらかと言うと、開き直りやヤケクソに近い感情からだった。



「そうしたいところなんだがな……少し、俺の昔話にも付き合ってもらおうか」



 珍しく己を語ろうとするラモンに、クロウは怪訝な表情になる。そんなクロウを尻目に、ラモンは誰に聞かせるでもなく、ぽつりぽつりと、一人言を呟く。



「俺がまだ十代だったころ、とある指令で敵に追われて、追い詰められたことがあった」


「銃弾も尽き、ナイフも折れたその時、懐にパインが一個残ってなけりゃ、俺は今頃生きてはいなかったろうな」



パインとは、手榴弾の隠語である。



「結局、手元に唯一残ったそのパインが、俺を絶体絶命の窮地から救ってくれた」


「そのパインは、組織の爆発物製造班の作ったものだった」


「パインには、製造者が分かるように刻印が入れられていた。まぁ、そういうことだ」



クロウはぽかんとしてその話を聞いていたが、突如何かの線が繋がったかのようにハッとして、ラモンの横顔を見つめた。



「これはただの独り言だがな。あんたとは、殺しあいたくなかったよ」



クロウの顔に、驚きの表情が張り付いた。



「第三埠頭からは、中国へ密航できる船が何便か出てる。運が良ければ、そのうちのどれかに乗れるかもな」


「わ……私を、に、逃がす、のか……?」


「殺さないってだけだ、手引きも手続きもしない。あとはあんたの行動次第で、道はどうとでも開ける」



それでも納得しかねるという顔のクロウへ、ラモンは無表情のまま伝えた。



「俺は殺ると決めた相手は絶対に殺す。そして殺さないと決めた人間は絶対手にかけない」


「今回は組織の指令外の殺しで、俺の流儀に沿っても何も問題ない。ただそれだけだ」



 クロウは、座席の背もたれに深く腰をついた。



「……そう、か……」



その眼は極限まで細められ、眠りそうにも、なにかを熟考しているようにも見える。


 その横顔に、ラモンが何か言葉をかけようとした瞬間、運転席のラモンの顎へ向けて、鋭い右拳が突きつけられた。

ラモンはそれを予測していたかのように、左手で受け止めて片手運転する。



「どういうつもりだ、クロウ……いや、ヒイロ!」


「ククッ……バレちまったか……」



その瞳に凶悪な光を宿して、クロウが……いや、ヒイロが顔を上げた。



「これでおしまいなんざ、どう考えてもつまらないだろう!?」


「アタシがもう一波乱、起こしてやろうじゃないか!!」



 そしてヒイロは自らの体を、反対の手で突こうとした。狙いはもちろん、その胸につけられた爆弾である。

派手に衝撃を与えれば、それに乗じて爆弾が誤爆する可能性は極めて高い。

ラモンはそれを封じるため、ヒイロの右拳を握りこんだまま、彼女の顔に拳を当てた。



「チッ……!!邪魔するんじゃないよォ!!」



一旦は怯んだものの、ヒイロはなおも執拗に、左手で胸の爆弾を殴りつけようとする。

ラモンは後方から車が来ていないのを確認すると、ヒイロの手を掴んだまま、あらん限りの力で思い切り急ブレーキを踏んだ。



「ぬぉっ……!!」



 ヒイロの体が前へつんのめり、自然と左手が胸から離れていく。

そして姿勢を崩したと見るや、ラモンは一気に車を加速させる。


前と後ろに体を振られ、ヒイロは尻が浮くほどの加速度を体に受ける。

そのショックで爆弾が爆発しないよう、ラモンは握りこんだ右拳で絶妙なバランスを取っていた。



「ナメやがって……それならこいつはどうだい!?」



 ヒイロはラモンが拳を離さないと知ると、今度はラモンの視界を塞ぐべく、運転席へ体を乗り出そうとした。

しかし、身を乗り出そうとした彼女の足が、突然凝り固まったように動かなくなる。



「これは……何のつもりだい、クロウ!!アタシの足を離しな!!」



 どうやら彼女が動かないよう、クロウが体を押さえ込んでいるようだ。



「……もう、いいんだ、ヒイロ」



 ヒイロの人格は、突如としてクロウの人格へと戻った。その拳から力が抜けたのを見て、ラモンはようやくクロウの右拳を手から放った。



「ラモンも、すまなかった。だが、もういい」



その声は極めて落ち着いており、先ほどまでの乞音は鳴りを潜めている。



「もういいってのは、どういうことだ」


「こういうことだよ、ラモン」



クロウは助手席のドアを開けると、ドアから足を半分出そうとした。



「よせ!死ぬつもりか!」


「あぁ。その通りだよ、ラモン」



クロウはジリジリと、体をドアの隙間へねじ込んでいった。


 ヒイロとの小競り合いのせいで、車の時速は現在80㎞を越えている。このまま地面に落ちれば、ただで済まないのは明白だ。

ラモンはスピードを落とそうと、ブレーキへ足をかけた。



「速度を落とすな!車を停めれば、今ここで爆弾を爆破するぞ!」



しかし、そうはさせまいとクロウは、自身の胸の上に拳をかざす。



「ラモン、頼む……どうかこのまま、私を死なせてくれないか……」



それは悲痛な、クロウの嘆願だった。



「なぜそんな死に方を選ぶ。あんたはまだ、生きることだって出来るだろう」



説得とはまた違う、クロウを理解しようとする声でラモンは尋ねる。



「いいや、出来はしないさ。この爆弾は、外すのに外科的な手術を必要とする」


「他所へ渡ったところで、爆弾の機構を十分に理解した医師以外に、外すことは出来ない。全ては手遅れなんだ」



クロウは自嘲気味に笑うと、初めてラモンを正面から真っ直ぐに見つめた。



「幼い頃から蔑まれ、疎まれ、嫌われて生きてきた。私にはあんたのような殺しの才覚も、ドクのような工学の才能もありはしなかった」


「そんな私が存在を証明するには、組織に言われるままに爆弾を作るしか方法はなかった」


「自己嫌悪で身が潰れそうな毎日の中、ヒイロのお陰でかろうじて生きてこれただけだったんだ」



 ラモンは、それに何も言わない。クロウの隙を見て、車を停車させるつもりでいるのだ。



「私がロマネスクの恩赦に挑んだのは、一度だけでいいから、自分の声で吠えたかっただけなんだよ……」


「飼い犬にもなれなかった老いた犬が、せめて一噛みでもといきがって見せた。これはそういう話なんだ」


「だが、もういい、もう充分だ」


「フォークロア=ラモンという偉大な殺し屋の命を救ったのなら、私の人生も悪いものではなかったよ」


「ここいらで、幕を引かせてはくれないか……?」



ラモンはそれに一言だけ、ぽつりと漏らす。



「……バカだぜ、あんた。そんな形で終わって、満足だなんて」


「フフ……あんたには最後まで、迷惑をかけたな。礼も出来ないのが心残りだよ」



 クロウは、両手を車のフレームにかけた。今両手を離せば、体はもう車の外へ放り出されてしまう。



「……ざけ……ッ!!ざけんなァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」



 それを中断させたのは、人格の支配権を奪ったヒイロだった。

ヒイロは体を思い切り捻ると、助手席へ再び戻ろうと踏ん張った。



「そんな!!そんな死に方、許してたまるか!!」


「自分と引き換えにこいつを殺すならまだいい!!だが一人で死ぬのは犬死にだ!!」


「爆弾ならアタシが何とかする!!ラモンだって殺して生き延びさせる!!」


「死ぬな!!死ぬんじゃねぇぞクロウ!!お前は、アタシの、全てなんだッ!!」



 ヒイロの絶叫は、クロウに意識を取り戻されたことで中断する。

それはまるで、壮大に誇張された一人芝居を見ているかのようだった。



「……ありがとう、ヒイロ。最後まで、共に逝こう」



 その時、ラモンは車体を右に大きく振りながら、車を急停止させた。

車を右へスライドさせたことにより、慣性が働いてクロウの体は車内へ滑り込むはずだった。


しかし、それを見越していたクロウは、足で車の床を強く蹴って踏ん張り、慣性を相殺した。

その指が車体のフレームから離れる様子が、まるでスローモーションのようにラモンの網膜へ焼きついた。






「ふざけるなァッ!!!だとしたらアタシは……アタシは……!!!」



「アタシは何のために生まれてきたんだァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」





 落下する間際、ラモンはヒイロのものとおぼしき声を聞いた。そしてクロウの体はアスファルトへ叩きつけられ、轟音を上げて爆散する。

ラモンはそれを、停車した車の中から、黙って見つめていた。



────

  ─────

     ─────




 その後、クロウの爆発遺体は、野間の手によって迅速に回収された。

彼の亡くなった道路には、クロウの血液が寄り添うように流れていた。

爆破の勢いで飛び散った血液は、まるで人の形をしているように見えたという。



≪双頭の烏(ダブルフェイス=クロウ)≫。


≪双頭の不死鳥(ダブルフェイス=ヒイロ)≫。



 その末期に笑みの浮かぶはずもなく、黒く燃え尽きた骸と緋色の血が、番いのごとく路傍に遺されたのみであった。




≪続く≫






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