第3話:≪フェイクファー=ドク≫




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 ラモンは、トゥーンと死闘を演じたアジトで、一人思案にくれていた。彼の遺体を処理する際、一つの問題が生じたためだ。

鯉衣が死んでしまったため、ラモンの懇意にしている連絡員がいなくなってしまったのである。


 トゥーンの口振りからするに、鯉衣はアジトの場所やラモンの連絡先を、洗いざらい吐かされて殺されたのだろう。

念のため、鯉衣の携帯へ着信を入れてみたが、案の定返事が返ってくることはなかった。

ラモンは組織の人間相手であっても、接触は最低限にしている。そのため、連絡員のつても彼しか持っていなかった。


 通常なら、情報伝達の要である連絡員に問題があった場合は、すぐに組織から代わりが派遣される。

そうしなければ、「迅速な仕事」に差し支えが生じるかもしれないからだ。


 殺し屋における迅速な仕事は、一瞬の躓きが命取りになるパターンが多々ある。

そしてその躓きは、同時に組織にとっても致命的なものとなる可能性があるのだ。


 だが、トップが危篤の現在、末端の殺し屋へ新たに割く人員があるかは甚だ疑問だった。

現に今、組織本部へも連絡してみたものの、けんもほろろな対応しか返されはしなかった。


 それはそうだろう。いかにボス本人の意向とはいえ、本来なら組織内で殺し合いをしているタイミングではないのだ。

ラモンは仕方なく、死体処理班のメンバーへ直接交渉するため、電話をかけ直そうとした。


 そのラモンのスマホが鳴動し、着信を表示した。ラモンには覚えのない番号からであった。

いぶかしむより先に警戒しながら、ラモンは電話を取る。



「誰だ」


『おおー !ラモンはんでっか~?電話取ってくれて助かりましたわ~!』


『どうもどうも~!うち会社の方から派遣された、連絡員の野間ビスコいいます~!』



 電話口からは、やけにかん高い人間の声が聞こえてきた。



『これから鯉衣はんの代わりにご用聞きさせてもらいますんで、贔屓にしたってくださいね~!』


「その前に、なぜ俺の番号を知ってるのか、納得いく説明がなければ電話を切る」


『ちょちょちょ!待って待って!上からの命令であんたの番号教えてもらっただけや!不審がらんといて!』


「具体的に誰から番号を聞いたかを言え」


『幹部のアルフレドさんからや!あんたさっき電話したやろ!?』


「……あぁ、したな」


『せやろ?これから犬の処理に向かうんで、居場所教えてもらってもいいです?』


「組織の二号住居だ。それで分からなければ知ってる奴に聞け」


『はいは~い。したら早く着くよう向かいますんで~』



 そこで、相手方からの通話は切れた。ラモンはしばし思案すると、連絡員の野間を迎え入れる準備を始めた。

それから三十分後、来訪者はラモンの住居へとやってきた。



「ちわーっす、ラモンはーん。さっき電話した連絡員の野間ですー。入りますよー?」



 住居には相変わらず鍵がかかっていなかった。野間は遠慮なく、靴のまま中まで侵入する。



「ラモンはーん?いないんですか~?あれぇ、おかしいな~。二号住居ってこことちゃうんかな」



 そして居間の戸を開けると、部屋の中央にはトゥーンの遺体が安置してある。



「やっぱここやなぁ……どこ行ったんやろラモンはん?」



そしてしばらくの間、野間は室内をじろじろと観察していた。



「そこや!!」



 そして唐突に、野間は居間の片隅を指差した。その先は壁収納になっており、人一人が隠れることも可能なスペースがある。



「フッフッフ。そこに隠れとるんやろ、ラモンはん。うちにはお見通しやで?」


「初対面のうちを警戒してのことやろうけど、案外気が小さいんやなぁ」



 野間は得意気な顔でラモンが出てくるのを待っていたが、彼はそこにいなかった。ラモンは至極冷静に姿を現し、音もなく野間の背後を取る。



「動くな」


「ひぎゃあっ!?」



 喉元にナイフを突きつけると、ラモンは熱のない声で、冷酷に言い放った。



「連絡員の野間、本人で間違いないな?」


「は、はいぃ!!」


「遺体の片付けはあんたに任せる。なるべく早く済ませるんだ」



ナイフの先端は、今にも刺さりそうなほどの凹みを喉の皮膚へ作っていた。



「俺に害意はないが、仕事以外の動きを見せたらその限りじゃないと覚えておけ」


「あ、あんたどこにおったん……?」



 とめどない冷や汗と共に、野間はラモンへ質問を試みる。



「シャワールームだ。あんたの動向を見るつもりだったが、勝手に勘違いしたようだから出てきた」


「そっちやったか~~~!!収納と悩んだんやけどなぁ~~~!!」


「まぁ、あんたに敵対意識がないのは分かった。あとは自分の仕事だけ正確にこなせ」



そこまで言って、ラモンはふと何かに気づいたかのような表情を見せた。



「……あんた、女か?」



喉に添えられた手が喉仏に触れ、その隆起の少なさでラモンは察したようである。



「そ、そうや!けど別に、女やから手心加えてくれなんて命乞いはせぇへんで!」


「女の連絡員は珍しいな……まぁ、仕事さえ正確にこなせば性別は問わない」


「……うち、そんな信用ないですかぁ?」


「初対面の人間は基本的に、誰だろうと信用してない。前に俺を囲んで殺そうとした連絡員もいたんでな」



そこまで話してようやく、ラモンはナイフを下ろした。



「はぁ……助かった。迂闊に仕事も出来へんわホント」


「黙って働いてれば、俺から何かすることはない。命が惜しいなら、ビジネスライクな関係は崩さないことだな」



 ラモンはひらひらと手を泳がせ、自分から手を出さないことをアピールする。要するにこれは、初対面の相手へのラモンの威嚇だったという訳だ。

野間は素早くラモンから離れると、すでに冷たくなりかけているトゥーンの死体へ手をかけた。



「ところで、トゥーンはんの処理方法に指定はありまっか?」


「ない。埋めるも焼くも沈めるも、だ」


「了解。ほな持ってきますねー」



 野間は携行していた死体袋に、手際よく遺体を詰める。それはおよそ人の死を扱っているのは思えないほどの軽快さだった。

ラモンはそれを最後まで見届けることなく、居間の扉を開ける。



「あら、ラモンはんどこ行きますのん?」


「しばらくここを空けて潜伏する。仕事の後なんでな」


「さいですか~。ならこれ渡しときますね~」



 野間は数メートル先のラモンの背中へ向けて、懐から取り出した紙を綺麗な軌道で投げて寄越した。

ラモンはそれを、まるで背中に眼でもついているかのように後ろ向きのままキャッチする。それは名刺大の大きさの、野間の連絡先を記した紙片であった。



「鯉衣はんの代わり務めますさかい、これからもよろしゅう」


「あんたが信用に足る人間ならな」



 ラモンは紙にざっと眼を通すと無造作にポケットへしまい、表へ通じる戸口を開いた。

日はまだ高く、そこで殺しが行われたことなど、露知らぬ事実であるかのような陽気であった。




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 ラモンが新たに身を隠したのは、組織所有の雑居ビル群のうちのひとつだった。

蕪新町には、組織の所有物件である廃ビルが幾つか点在している。表沙汰に出来ない取引や、遺体の隠蔽などに使用されるのだ。


 そのビルの中に、廃墟であるにも関わらず、組織が電気水道を通しているビルがひとつだけある。それは、ラモンの隠れ家としてボスが提供したものだった。

アパートと高級住宅、それにこの廃ビルをローテーションして、ラモンは世間から身を潜めているのである。


 本来ここは居住目的でないため生活環境は整っていないが、それを気にするラモンではない。

打ちっぱなしのコンクリートに身を横たえ、体を軋ませながら眠りにつく。


 電気は連絡用のスマホの充電にしか使わないし、トレーニングをしなければシャワーを浴びる必要もない。

それを慣れたものとこなせる程度には、そこでの生活はラモンの身に染み付いたものとなっていた。


 ラモンは廃ビルへやって来ると、銃とナイフを置いて軽く体を動かした後に、そこで一夜を過ごした。

そして翌朝、日が登るのを待ってラモンはビルを後にする。潜伏場所にここを選んだのには、もうひとつ理由があった。


 ラモンの隠れ家のビルから僅か徒歩十分ほどの距離に、もうひとつ別の雑居ビルがある。

鉄条網で囲まれ、一見すると立ち入り禁止区域にしか見えないが、ラモンは柵を乗り越えて堂々と不法侵入する。


 正面の入り口には南京錠がかかっており、裏口へ回ると鍵のついていない扉が、壊れて半開きになっている。

ラモンはそのどちらも無視し、非常用の出入口からビルの中へと入っていった。


 ラモンの靴の音だけが、建物の中に響き渡る。内部は窓が塞がれており、歩く者へ絶えず陰気で湿っぽい印象を投げ掛けてくるようだ。

その屋内が、突然まばゆい光で照らされた。強烈な光は、死んでいると思われていた室内灯から放たれていた。

市販されている物より、遥かに光量が大きい。そしてビル内に、とてつもないボリュームの音声が流される。



『いらっしゃ~い!!ようこそラモン兄!!』


「悪趣味は変わらずだな、ドクよ」



 ラモンは、天井に据え付けられたスピーカーを睨みながらぼやいた。



『悪趣味?何のことか分かんないなぁ~。それより、俺の組んだカウントアプリ使ってくれてる?』


「あぁ、重宝してる」


『そりゃ良かった!ラモン兄のためになってるなら、作った甲斐があったよ~』



 ドクと呼ばれた声の主は、そのラモンの声が聞こえているかのような応対を見せた。スピーカーと共に、集音マイクが据え付けられているのだろう。



『それで、今日は何の用?』


「『ロマネスクの恩赦』だ。なぜ殺し屋でもないお前が、ロマネスクの恩赦に参加する?」


『アハハッ、なんだそんなことかぁ。別に上からは、特に止められもしなかったからね』



 スピーカーの向こうから、あどけない笑い声がする。子供のようでいて、子供のものではあり得ない、作り物のような不思議な笑い声だった。



『俺はね、組織から離れて自由になりたいだけなんだよ。ラモン兄』


『俺には外へ出る権利がある。何故なら俺は、こんなにも才に溢れてるんだから!』


『俺の才能は、こんなちゃちな組織で燻らせるには勿体ないと思わない?』



 ドクの芝居がかったセリフに、ラモンは相変わらずの冷たい表情を見せる。



「考えが甘いな、世間知らずにも程がある。これは忠告だ、今すぐに恩赦から手を引け」


『組織にもたれっぱなしのラモン兄が言っても、説得力はないよ。それに、一度名乗りを上げたら後に引けないのくらい、知ってるだろ?』


「それでもだ。どんな詫びを取らされようが、謝罪を入れてなかったことにしてもらえ。でないと、すぐに取り返しのつかないことになるぞ」


『死ぬのなんて、今さら怖くないよ。それともその忠告は、俺があんたと同じミックスチャイルドだからしてくれてるの?』


「……!」



ラモンはその言葉に一瞬だけ顔をしかめると、すぐに元の無表情に戻った。


 ミックスチャイルド。それは本土人(アメリカ人)と日本人の混血児のことを指す。

その呼び名の由来は、かつてアメリカが日本に敷いていた政策、ミックスチルドレン政策に由来している。


 戦後アメリカは、日本人とアメリカ人の混血児を増やし、日本への支配力を強めようと画策したことがあった。

そのための民族浄化政策のひとつが、ミックスチルドレン政策である。


 禁酒法と並んで世紀の悪法と呼ばれたそれは、現在では廃止され施行されていない。しかしその被害者は今でも増え続け、世界中で様々な議論を呼んでいる。

この政策のため、日本には混血児の孤児が多数溢れることとなった。ラモンもドクも、その孤児のうちから組織に拾われた者たちである。


 ラモンはカメラへ向けて視線を投げかけると、注意深く警告するような声で語る。



「他の殺し屋に惨たらしく殺されるくらいなら、俺がお前に引導を渡してやるってだけだ。それが俺の出来る、最大限の譲歩だ」


『だったら、俺のいる階まで来て俺を殺してご覧よ。ラモン兄には、無理だと思うけどねぇ~♪』



 そしてライトは、部屋の奥に続く扉を煌々と照らし出した。



『さぁ、おいでよラモン兄。地獄はどこにあるのか、よぉく教えてあげる』


「……」



 ラモンはその大仰なセリフに応じず、黙って奥の扉へと歩いて行った。

扉の先には階段があり、ラモンは階上へと足を運ぶ。強い光も、階段の最奥までは照らし出すことが叶わない。



『けどさぁ、よく俺が恩赦の参加者だって分かったよね。俺の関与を察知されないうちに二、三人殺っておくつもりだったんだけど』



 スピーカー越しの雑談は、ドクが一方的に話しかけることで成立している。ラモンはそれに、特段集中力を乱された様子もない。



「参加者の証明写真、二枚目がお前の殺った被害者だろう。あれくらいなら、俺でなくとも特定できる」


『チェッ、なぁんだ。バレバレだったのか』



 恩赦への参加表明写真、その二枚目に位置する写真は、「死因の特定出来ない写真」である。

絶命した被害者の女性にはこれといった外傷もなく、着衣の乱れもない。


 ただ血の気の失せた顔と、精気を発することのなくなった体が写されていただけであった。

それは先にも言った通り、自身の殺しへの関与を喧伝せねばならない恩赦の特性上、有り得ない写真である。



「お前のことだ。『殺しの痕跡を残さないのが自分の関与した証拠』とでも言いたかったんだろ」


「自分なら、他のどんな殺し屋より上手く人を殺せるって風にな」



 ラモンは両手をポケットへ突っ込み、そこにいないドクを探しているかのように空中を仰いだ。



『よく分かってんじゃん、ラモン兄。殺しは所詮作業だよ。もっと効率を上げて、機械的に進めるべきなんだ』


「お前と殺しの議論をするつもりはさらさらない」


『フフフ……さぁラモン兄、第一の試練の登場だよ!上手いこと切り抜けてごらんよ!』



 階段を登りきった先には、再び光に照らされた廊下があった。しかしその先に待ち受けていた物は、さすがのラモンでも想像し得なかった物だった。



「……なんだ、これは?」


『お掃除ロボットのルンボくんで~~~す!!パクりだなんてお寒いこと、言わないでおいてよね?』



 ラモンの視界に移ったもの。それは、廊下の両端にズラリと並んだ、どこかで見覚えのある円筒形の機械だった。



「……これはルンバか?」


『ガワは確かにルンバの流用だけど、中身は全くの別物だよ。ラモン兄が対処を間違えれば、すぐにでも襲い掛かってくる』


「対処、ねぇ……」


『それを渡りきって、見事三階まで来られればラモン兄の勝ちだよ!』


「くだらないな。殺しは作業じゃなかったのか?」


『作業と同時に娯楽でもなきゃ、やってられないでしょ?さぁ、ラモン兄の技、よぉく見せてよ!』



 ラモンは摺り足になり、両端に掃除ロボットのいる廊下を、ジリジリと歩いた。

廊下は60m程で、およそ1mごとに間隔を開けてロボが置いてある。


 ルンバの形をしたロボは、よくよく聞けば微かな機械音を鳴らしていた。

その背には、銃口とおぼしきパーツが取り付けてある。それを見て、ラモンはポケットから銃を取り出していた。


 予備の弾丸も、十分に用意してある。仮にここでロボを全て撃ち壊しても、弾は余剰するだろう。

だがラモンは、ロボの銃口を見ながらも、安易にそれを撃つことをしなかった。それはひとつには、ドクの性格を十二分に把握しているためだった。


 見ての通り、彼はロボットの製作を得意とする異能のマフィアであった。

元は組織に拾われ、暗い仕事を任されるはずだったが、そちらの方面では全く芽が出なかった。

本来なら役に立たない孤児は、その時点で始末される運命である。


 だが運の良いことに、彼は意外な才能を発揮し、それをボスへ見出だされる。それが、機械工学である。

拳銃の仕組みを解体せずに理解して、自動小銃の設計図を書いたのが齢十歳の時だった。


 落書きと見紛うその設計図の価値を、ボスであるロマネスクだけが見抜くことが出来た。

ボスはその才能を組織のために使うことを条件に、孤児の彼をMITへ進学させることにした。


 書類を操作し飛び級の資格を取らせ、その間の費用は全て組織が持つという異例の待遇である。

今では新しい暗殺兵器の開発に携わり、殺し屋どもに重用されている。


 また最近では、一般に流通するものより遥かに高度な、暗殺用人型ロボットを製作しているとの噂もある。

それにあやかってついた二つ名が、≪贋作博士フェイクファー=ドク≫であった。


 何よりラモンが警戒しているのは、ドクの思いもかけない意表だった。昔から彼は、こちらが思いもしないことをしでかすのが得意だったからだ。


 好かない殺し屋へわざと暴発する銃を渡した、遠隔操作の爆弾を設置する前に爆破した等と、噂を拾い上げればきりがない。

証拠こそなかったが、恐らくそれは事実であろうとラモンは踏んでいた。


 ドクが手をかけたのは、彼が組織に入るに当たり厳しく指導した相手ばかりだったからだ。

ラモンにはそれが、ドクの復讐心からというよりは、臆病なまでの防衛本能から来ているように思えた。

確実に殺そうとするのは、彼の場合報復を恐れる心の裏返しなのだ。恩赦の写真の標的を無害な女にしたことにも、その性根が現れていると言える。


 そして今、この場所でラモンが取るべき最も合理的な方法は、「撃たれる前に撃つこと」である。臆病なドクがそれを想定していないことなど、有り得るだろうか?

わざと銃口を露出したロボを用意し、ラモンの敵がい心を煽っているようにも見える。


 それ故、ラモンは先手を取って撃つことをせず、ロボットの反応のみを窺っているのである。

事実、ラモンが進むに任せて、ロボは動きをほとんど見せなかった。

機械音だけを唸らせ、ラモンを左右から見送っている。そして10m前後進んだところで、ラモンは確信した。



(こちらから手を出さない限り、こいつらは動かない……)



 ラモンの方向を音で感知してはいるものの、そこから弾が発射されることはない。恐らく、その銃口に怯んで弾丸を放てばアウトだったのだろう。

しかし、まだ油断は出来ない。ラモンは最大限の注意を払い、歩みを進めた。

そして、次の扉までの距離が残り30mを切った時であった。



「……!!」



 突然、ロボが唸りを上げて襲い掛かったのである。

廊下の両端から、突如として駆動音が鳴り渡り、円筒形の殺人機はラモンの上半身へ射出口を向ける。

数十台のロボが一斉に向きを変える様子は、圧巻の一言である。


 ラモンは突然の銃口から逃れるために、拳銃を使いながら走り出していた。


扉まで、残り30m。


 直前まで無反応だったロボはそのまま動かず、ラモンより前のロボだけが動いている。

そのためラモンは後方を見ずに、前方のロボだけを撃っては壊していった。

壊れた残骸はさらに前へ蹴り飛ばし、掃除ロボットの進行を妨害する。


扉まで、残り20m。


 走りながら銃を装填しなおすのは困難だったが、ラモンはそれをやってのけた。

ラモンの速射は、ロボの銃口を寄せ付けなかった。弾が発射されるより早く、ラモンはロボを打ち壊す。


扉まで、残り10m。


 自身へ迫る銃口のうちから近いものを的確に選び、ラモンは撃ち落としていった。ラモンの足は、ロボの足並みより断然早かった。

立ち塞がるロボを薙ぎ倒しながらラモンは走破し、無事扉へとたどり着いたのである。



『アハハハッ!!やったねラモン兄、さすがじゃん!!』



 スピーカー越しに、パチパチとドクの拍手の音が聞こえてくる。ロボは素体となった掃除ロボと同様に、段差は乗り越えられないらしい。

階段の上から見下ろしている限り、銃の射角も合わず安全なようだ。



『ラモン兄のお察しの通り、このロボットは銃を撃てば圧力感知で撃ち返してくる仕様だったんだ』


『ただし、廊下の半分のロボットまではね?』


『後半は普通にセンサー感知のロボだったから、壊しながら逃げるの大変だったでしょ?』



ケラケラと笑いこけながら、ドクはラモンを労った。



「臆病者のお前らしい、薄汚ぇ罠だな」


『でも、銃の発射タイミングにラグを作ってたの、ラモン兄気づいてたよね?そゆとこ気づくのマメだよね~~~』


「お前に誉められても、何しようもないな」


『アヒャヒャッ、そりゃそうだ!』



ドクはマイク越しにはしゃぐと、子供がふざけるようにおどけながら話した。



『てなわけで、今回のテーマはズバリ「選択」でーす!』


『どんな判断を下せば間違いないか、敵を殺すのか殺さないのか、どこまでが罠でどこまでが道なのか?』


『ラモン兄にはギリギリの瀬戸際まで考えてもらうよ~ん!!』



ラモンはそれを聞いて、呆れたようなため息をついた。



「お前のつまらんゲームには付き合いきれんな」


『そんなこと言わないでよぉ!ラモン兄はここに入ってきた時から、ずーっと試されてたんだから』


「知ってるよ。『入り口の三択』だろ?」


『ウフフ、そうそう!やっぱり気づいてたんだ!嬉しいなぁ!』



ドクはスピーカーの向こうで、一人喝采を上げていた。



『ここへ入る前、正面玄関と裏口と非常口の三つの入り口があったでしょ?』


『正面は鍵がかかってて、裏口は壊れて半開き、そのどちらも不正解。正解の入り口は非常口だけだったのさ!』


『間違った入り口から入ったら、電流で黒焦げだったよ~!』


『罠を張る人間からしたら、罠に気づかれず死なれるのってホント虚しいんだよねぇ』



 ラモンはそれを聞き流しつつ、階上へと足を向ける。



「お前ごときの下らん罠で、俺を殺せると自惚れるな」


『ウフフ、どうかな~?その調子で、もっと俺を楽しませてよね!』



 ラモンはその挑発的な物言いを無視して、三階への階段を登った。扉を開けた先には、奇妙な人物たちがたむろしていた。



「ゴ……ゴオォォ……」



 呻き声のようなくぐもった声を上げて、屈強な男たちが十名ほどで廊下を塞いでいる。

その顔には、一様に無表情な能面のような仮面が取り付けられていた。



『さぁ、第二の試練だよ!道を塞ぐその男たちを、ラモン兄はどうやってどかす?』



 ドクは嬉々として、ラモンを試す行いを止めようとしなかった。ラモンはその問いに応じず、黙って戦闘の構えを取る。


 しかしラモンはその男たちに、言い様のない違和感を覚えた。男たちは道を塞ぐだけで、一向にラモンへ向かってこないのだ。

言い知れぬ不穏さを感じたラモンは、そのうちの一人を捕まえて、無理やり仮面を引き剥がした。



「ンガッ……」



 その仮面の下の顔は、眼と口を無惨にも縫い止められていた。表情は哀れにも怯えきり、小さく震えている。



「『人飼い』か……お前、ついに外道に落ちきったかよ」



 人飼い、すなわち奴隷のことである。逃げることのないよう眼と口を塞がれ、生殺与奪を奪われたのだろう。

道を外した一般人をヤクザが飼うことは、現在でもない話ではない。


 その一般人の末路が、いいものであるはずないのも想像に難くないだろう。しかし、生きたまま眼口を縫われるのは、やはり残酷な仕打ちである。


 ラモンは続けて、男の着ている服をナイフで破いた。その下には、一目でろくな目的ではないと分かるような機械が取り付けられていた。



「こいつぁ……爆弾か」


『そうだよ~。ある人との共同開発でね!脈拍と連動させて、心臓が止まると爆発する爆弾なんだ!』


『ちなみに、ちょっとした衝撃でも爆発しちゃうかもしんないから気をつけてね?』



 ドクの言葉が終わると、男たちはスクラムを組んでラモンの行き先を阻んだ。恐らく最初からそうするよう、ドクから指示されていたのだろう。

確かに道を阻むだけなら、眼が見えている必要はない。



『さて、どうする?ラモン兄の格闘技術でも、爆弾にショックを与えずに通るのは難しいよね?』


「……」



 ラモンは、男たちのスクラムを見つめながら、しばし考えていた。

爆弾は、男たちの胸部に取り付けられている。胴体に派手な振動を与える攻撃は出来ないということだ。

それどころか、気絶させて倒れたショックでも爆発するかもしれない。


 胴に攻撃を当てず、倒れもさせられない。そのミッションは、どう考えても不可能な物であるとしか思えなかった。



「普通の奴なら、な」



 ラモンは拳をコキリと鳴らし、男たちの群れへと近づいた。そして、最初に仮面を剥いだ男の前へ立つ。

男はラモンがそこにいることに、まるで気がついていないようだった。


 それは目が見えていないという以上に、ラモンが気配を完全に絶っているからのように思われた。

そして次の瞬間、ラモンの掌底が男の顎へ食い込み、その顔面を真上へと跳ね上げていた。


 直ちに男の意識は失われ、前へつんのめって倒れそうになる。ラモンはそれを片手で支え、足を刈るようにして後ろから男の両膝を押した。

力が抜けて折れた膝に体重がかかり、男は綺麗な正座のポーズで気絶した。


 ラモンは間髪入れず、隣にいた男に躍りかかった。伸び上がるような美しい掌底は、頑丈な男の顎を砕く。

そうして横倒しに倒れそうになった男をラモンが引っ張り、床へゆっくりと下ろした。


 男たちは周囲で何が起こっているのか確認も出来ずにいた。自分たちの間を縫うようにして、何者かが意識を刈り取って行くのを感じるのみである。

やたらめったらに振り回される腕を掻い潜り、ラモンは次々と男たちの顎を弾いていく。


 そして、尻餅をつきそうになった子供をあやすように、優しく床へ下ろしていった。

まるで力の差を覚え込ませるように、ラモンは丁寧に男たちを下していく。数の利以上の、大人と赤子ほどの力量差が、そこにはあった。


 そして数分後、そこは腹を上にして気絶した男たちの姿で溢れかえっていた。うつぶせにすれば、爆弾に刺激を与えるかもしれない。

全てはそう考えたラモンが、彼らをコントロールして寝かしつけた故の姿勢だった。



『やっぱラモン兄って、化け物だね……』



 さすがのドクも、そう答えるしかなかったようだ。



「俺からすれば、人間爆弾なんてバカな真似するお前の方が化け物だよ」


「端から遠隔爆破出来るようにしておけば、ムダな手間はかからなかったろうにな」



 ドクはその言葉を鼻で笑ってみせる。



『殺すためだけじゃゲームにならないでしょ?逃げる敵を追い詰めてこその遊びじゃない!』


『それに、ラモン兄なら遠くから爆発させても避ける気がしたからさ』



 ラモンはそれを無視し、四階への階段を登る。爆弾を避けれたのかについては、敢えて何も応えなかった。




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 その後もラモンは、驚異的な洞察力と対応力を見せ続けた。


 四階には、赤外線感知のトラップが仕込まれていた。少しでも体が赤外線に触れれば、四方からガトリングが火を吹くよう設置されている。

しかしもちろん、赤外線が肉眼で見えるはずがない。ラモンは赤外線の射出口のみを見て光の向きと高さを判断、これを無事突破した。


 五階の廊下は地雷原の園だった。一歩でも間違えれば、地雷はラモンの体を跡形もなく消し飛ばすだろう。

ドクはそれにすらも、回避の手段を用意していると宣言する。その地雷の配置の法則をラモンは看破し、難なく突破して見せた。


 その地雷原の奥の一室。そこが、ドクのいる部屋だった。


 ラモンは、錆びた重い扉を軋ませながら開けた。室内は、二十坪ほどの広さがあるように見えた。

床にはゴミの詰まった袋が無数に置かれ、机には何かしらの設計図のようなものが散乱していた。


 右手側には固そうなベッドがあり、奥にはトイレのマークが着いた扉まである。生活の全てをここで済ましているようだった。

部屋の一番奥にはモニターが幾つも据えられ、そのモニターの前の椅子に、ドクは座してラモンを待っていた。



「やぁ、ラモン兄。よくここまで辿り着いたねぇ」



 恐らく、ここでラモンの動向を逐一監視していたのだろう。ドクは椅子ごとこちらを振り返り、ニヤついた笑みを浮かべている。

ラモンはそれに返答せず、即座に銃を抜いてドクへと向けた。



「おっと、ストップストップ!せっかちだなぁラモン兄は」



 ドクはセリフのわりに格段焦った様子もなく、ラモンと対峙している。



「悪いが、ここまで来てお前を見逃すつもりはない」



 ラモンは冷酷に言い放つと、ドクがどう動いても対応できるよう、ジリジリと距離を詰めた。

しかし、それを聞いてドクが発した言葉は、ラモンの予想外のものだった。



「ラモン兄ってやっぱ、優しいよねぇ」


「……なんだと?」



 ラモンは眉をしかめたが、ドクはそれを見て一層ニヤニヤしている。



「昔の弟分が哀れだから殺してやろうなんて、普通の殺し屋は考えないよ?こんな労力までかけて、さ」


「そいつは、皮肉で言ってるのか?」


「いいや、本心だよ。俺なんかラモン兄にしてみれば、取るに足らないガキだろうにね」



 言って、ドクはゆっくりと両手を挙げた。



「さぁ、最後の試練だよ、ラモン兄。最後の選択は、『無抵抗の俺を殺すか殺さないか』、だ」


「……!」



 二人の間に流れる時間が、ゆっくりと粘っこいものになった気がした。



「抵抗しなければ、俺が躊躇を見せると思うか?」



 ラモンの銃口は、ドクの眉間から一時たりとも離れない。



「いいや、ラモン兄なら一切の躊躇なく撃つだろうね」



 そう言う割に、ドクの表情からは怯えが見受けられなかった。それは、死を覚悟してのことなのか、それとも何らかの罠を前提としたものなのか。



「下らんな。撃つぜ」



 宣言して、ラモンが引き金を絞ろうとした、その時だった。



「ンッフ、ウフフフ……やっぱラモン兄は優しいねぇ。こんな時間稼ぎの会話にも、分かってて付き合ってくれるんだから」



 瞬間、ドクの口腔から鋭い空気音が聞こえたのを、ラモンは聞き逃さなかった。


その時、ラモンは目撃した。ドクの口から、常人では目に見えないほど小さな何かが、飛び出したことを。


 ラモンはそれを察知した瞬間、発射された何かから体を逃がすために横っ飛びに跳んでいた。

そして反撃のため、自らも銃を構えて撃つ。


正面のドクへ向けて、ではなく。ラモンから見て、向かって左側の部屋の壁へ向けて、であった。


 二発分の硝煙が上がり、続けてラモンは目の前のドクへ向けて、動きながらあらんかぎりの銃弾を浴びせた。

そして円を描きながら近づいていくと、チャックを緩めていたジャージの上を脱ぎ、薄く開いた口へ覆い被せて縛り上げた。



「チェック・メイトだ。そうだろう、ドク?」



 ラモンは目の前の物体へでなく、銃弾を放った壁へ声をかける。



『なん、で……?』



その壁の一部が崩れ、中から何かが倒れ出てくる。



「がっ、あっ……!」



それは、腹部に二発の銃弾を受けた、『本物のドク』だったのである。




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 ラモンは、倒れたドクへと歩み寄った。ドクは息を荒くし、驚愕の表情を浮かべている。



「なんで……いつから偽物だって見破ってたの……?」


「この部屋に入ってすぐだ。俺と殺りあいたいなら、視線の消し方くらい学んでから来るんだったな」


「なぁんだ……全部バレバレだったのか……」


「フェイクファー=ドクの異名を持つお前が、最後の最後にロボを使わんはずがないだろう」



 偽物のドクは、稼働部を無理やり止められ煙を上げてショートしていた。

ドクの気質やこれまでの傾向を省みて、何らかの擬態をしてくるだろうことは予想出来たことだった。

しかし、まさか丸のままロボットと入れ替わっているとは、ラモンも予測していなかった。


 左から見られている視線に気づかなければ、ラモンもそれがロボだとは確信出来なかっただろう。

それほどまでにそのロボットは、ドクと生き写しの精巧な姿形を持っていた。



「ついでに、死亡痕のない恩赦の死体の種明かしもしてやろうか」


「えっ……?」


「医療用のポリマー繊維を使った、極細の針だろう」


「……」


「図星か。分かりやすい奴だ」



 ラモンは語りながら、自身が立っていた場所の背後の壁と歩いていった。傍目には分からないが、光に透かしてよく眼を凝らすと、キラキラと光るものが見える。

ラモンが手をかざすと、そこには目に見えないほど細かな針が、三本突き立っていた。



「やはりか。これを胴や頭に受ければ、見た目に変わりなくても内臓はズタズタだろうな」


「いつから、気づいて……」



ラモンは無感情に、淡々と説明する。



「痕跡の残らない殺し方なら、毒や菌がメジャーなところだ。だが臆病なお前が、自分に害のおよぶかもしれないそれらを使いこなせるとは思えん」


「と考えたら、残るのは傷痕が残らないほどの極小の針か弾だろうと踏んだ」


「手術用のポリマーなら、時間経過で血液に溶けて消える。それに医療用具の闇卸しなら、うちの組織もやってることだからな」



 ラモンの解説に、ドクは乾いた笑いで応じた。



「はは、すげぇや……専門家でもないのにそこまで分かるの……?」


「こちとら、殺しの専門家だ。その程度のことに気づかずにやっていけるか」



 そしてラモンはドクの横に座り、その傷痕をまじまじと観察する。



「壁越しじゃさすがに、急所をズドンって訳にはいかなかったか。お前が望むなら、痛みを長引かせずに殺してやってもいいが、どうする?」


「ハ、ハハ……まったく、ラモン兄には敵わないや……いいよ、このままで……死ぬまでに話もしたかったしね……」



 そしてドクは、床へごろりと大の字に転がった。



「遺言なら聞いてやる。なんだ?」


「そんな大層なもんじゃないけど……外の世界を知りたがるのって、甘かったのかなって……」


「さぁな。ただ俺なら、組織に喧嘩売るような真似には絶対賛同しなかった」


「……そっか」


「お前ほどの才能があれば、他にどんなアプローチも出来ただろうにな」



 ラモンは粛々と、ここへ着いた時に述べたのと同じようなことを言った。



「へへ……そっかぁ……俺、やり方間違っちゃったのか……」


「でもさぁ……俺、ラモン兄みたいなスマートなやり方したかったんだよね……」


「誰にも媚びない……一匹狼みたいな、カッコいいやり方でさ……」


「まさか本人が……出てくるとは、思わなかったけど……」



 息も絶え絶えながら、ドクは存外にしっかりした口調で話した。

 


「成り行きでな。仕方なく、だ」


「あーあ……そりゃツイてないや……」



 そしてドクは半眼になり、声をか細くし始めた。



「あー……もう意識が薄れて来た……こんだけ血が出てんだから当たり前かぁ……」


「そうだな。お前はもうじき、死ぬだろう」


「うん……それじゃ、正しい選択を続けたラモン兄へ……とっておきの、俺しかしらない情報をあげるよ……」


「なに?」



 ラモンはそこで初めて怪訝な表情を見せる。



「俺、一ヶ月くらい前に……ボスの直令でロボットを一機作ったんだ……それが変な命令でさ……ボスの顔を型どったロボを作れって……」


「なんだと?」


「その時は分からなかったけど……そのロボ、恩赦に関係してるんじゃないかな……なんとなく、そんな気がするんだ……」


「……分かった。忘れずに記憶しておく」



 ゆっくりと、しかし確実に、ドクの最後の時が近づいていた。



「……もう、終わりかぁ……楽しい時間は……あっという間、だね……ラモン兄……」


「あぁ、ドク。最後の遊びは楽しかったか?」


「もちろん……最後に遊ぶのがラモン兄で……良かったよ……」


「そうか」


「うん……」



 そのドクの瞳から、大粒の涙がじわりと滲み、こぼれて落ちた。



「…………ごめん、ラモン兄」


「俺……俺やっぱり、まだ死にたくないよぉ……」


「……ウッ……ウェェェン……ウェェェ……」



そして、しばしの慟哭の後、ドクの手は力無く床へと伏せられた。



「……」



ラモンは涙に濡れたその瞼を、ずいぶんと優しい手つきで、閉じさせてやっていた。



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『はいなー、こちら野間ですー。何のご用でっかー?』


「俺だ、犬の処理を頼む。場所は雑居ビル三号だ」


『はいはいー。すぐ向かいますー』


「それと、今回は処理に指定を頼みたい」


『ええですよー。どうします?』


「埋めで頼む。可能なら誰にも掘り起こされない場所がいい」


『構わんですけど、そうなると手間賃余計にかかりますよ~?』


「いいんだ、そうしてくれ」


『はーい。それじゃそのようにー』


「……」



 ドクの死体処理にあたり、死体の損壊の少ない埋めを選んだのは、ラモンの優しさ故だったのか。それは、選んだ本人にしか分からないことであった。




≪続く≫

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