Part.6
「今日も船内のお散歩よ。何か気になることがあったら、遠慮なく言ってね」
ひと回り小型の端末にデータを同期させたスタークは自立走行が可能となり、彼はタニアに連れられて船内を歩き回った。
道すがらに出会った他のクルーたちはどこか表情に乏しく(もちろん口角を上げる者もあったが、彼女から発せられるものとはどこか異質なものに思われた)、時おり浴びせられる冷ややかな言動にタニアは腹を立てたり、悲しんだりと忙しなく表情を変えている。彼女はその度に今がどういった心境であるのかをスタークに語り、彼はそのデータを収集していた。
「ほんと、マッチョな頭をした連中ばっかりよね。少しは歓迎してくれてもいいのに。まるで邪魔者扱い!」
スタークと二人きりになった瞬間を見計らい、タニアは憤ったように声を上げた。「若いからって舐められてんのかな。乗せてもらってる身だから強くは言えないし、嫌われるのにも慣れてるけどさ、…やっぱり傷つくよ」
――マッチョ。
「スターク……。そんな単語は拾わなくていいの。絶対にクルーに向けて言っては駄目よ」彼女は人差し指を立てて左右に振りながら、「もしこれ以上嫌われたら、宇宙食に小型爆弾でも設置しかねないもの」
――機体情報をバックアップから検出……。当機体に対し、甚大な被害を与えるにはエンジン部、及びコックピットに爆発物を設置するのが最も効率的です。
「こらこら、私をテロリストにでもするつもり? あなたはもう少し冗談ってものを学ぶ必要があるわよね。……そりゃ、私が余計なことばかり教え過ぎなんだけど」と小声で呟きながら、機体の内部を歩き回るタニアは円形のガラス窓から船外を眺めた。
「ほら、見てスターク! 綺麗でしょ」
船外には果てしない闇が広がり、その中に浮遊する恒星はひときわ輝きを放っていた。遥か遠く離れた地帯には小惑星の姿も伺え、それらは太陽光を反射してまばゆい光を発している。
「感想は?」
――マッチョな、小惑星。
「あははは! それって冗談? マッチョは使っちゃ駄目ってさっき言ったばかりなのに、ほんと悪い子なんだから」と言うと、彼女は腹を抱えて笑い始めた。その姿を彼女の基準値として登録していたスタークは、正答を述べたものと認識した。
――あれが、目標の惑星か?
「うーん、目的地はもっと先だと思うけど」と答えつつ、瞳から溢れ出た涙を拭った彼女は、「あれは何の惑星かしらねぇ」と呟いた。
――バックアップからデータを検出中……。該当惑星なし。公転速度、推定重力、酸素量、及びその他の気体情報などは一切不明となります。
「そりゃそうだよ。あなたの基盤は私が作ってるんだから。私が知らないことは大体知らないでしょ」と答えたタニアは続けて、「地球人が今まで降り立った惑星なんて、片手で数えられるくらいしかないのよ」と言った。
「この広い世界では、未知の領域の方が圧倒的に多いってわけ」
彼女はガラス面に向かって息を吐くと、吐息で湿った箇所に指先で何かを描き始めた。
「いずれは私たちも移住先の惑星を見つけないとだけど、現在の科学力ではそれを探し出すことが容易ではないの。機体性能の問題や往復燃料の問題、それに人体の環境適応能力でしょ、マッチョな連中の重い腰もそう。もう問題ばっかりよ! 慎重になるのも仕方がないけど、リスクを冒さず大発見をしようなんて考えは、この宇宙では通用しないよね」
――タニアは、勇敢な研究者。
「あっ、今のはお世辞ね! ……何て優しい子なの。この喜びをあなたと共有できる日が、近いうちに来ればいいな」
続けてタニアは大きく深呼吸をすると、「よしっ!」と声を出した。「この研究で未来が変わるかもしれない。頑張らないと」
意気込みながら彼女が窓から離れようとしたところで、外を眺めていたスタークが電子音を発した。
――超長距離望遠機能の実行に成功しました。目視による距離の概算により、惑星の半径は地球とほぼ同程度と推定されます。周囲には人工的な衛生機影も見られます。
「え? それってまさか……」と言ってタニアが再び窓の外を見ようとしたところで、船内に突然衝撃が起こった。
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