その十
『これからどうなさるおつもりですか?』
再び丁寧に挨拶をして、出て行こうとするゆう子に、俺は声を掛けた。
彼女の背中が
『どんなに憎まれても、嫌われても、姉であることには違いありません。だから今後は私が出来る限りの事はするつもりです』
振り向きもせずに彼女はそう答えた。
話はこれで終わりだ。
何だと?
(それじゃあまりにも尻切れトンボじゃないか。ちゃんとケリをつけたところまで話せ)
だって?
面倒くさいなあ。
俺はみや子の居所を探った。
そうして居所を探し、彼女に報告した。
俺の仕事はそれで終わりだよ。
それでもまだ納得がいかないって?
仕方ない。
あれから一か月・・・・そう、二月も半ばになりかけた頃だ。
俺はさほど金にはならなかったが、厄介で細かい仕事を二つ三つ片付けて、くたくたになって『ネグラ』のベッドの上でひっくり返っていた。
疲れていてもやるだけのことはやる。
報告書と格闘し、風呂に入り、パンを
そして何時の間にか眠っていた。
目を覚ましたのは金曜日の午前二時、深夜のニュース番組の音で目を覚ました。
どうやらテレビを点けっぱなしのまま眠っていたらしい。
お世辞にも美人とは言えない女性キャスターが、無感動な声で、
”東京の精神科病院で傷害事件があった”と伝えていた。
それによると、”東京都の某区内の精神科専門の秋山病院で昨日の午後三時半、女性の入院患者のAさんが、面会に訪れた実の妹で演歌歌手の藤堂ゆう子さん四十八歳をいきなり殴りつけ、全治十日間の怪我を負わせた。ゆう子さんの命に別状はないが・・・・・”
そこまで聴き、俺はテレビのスイッチを切ると、再び寝床に潜り込んだ。
(憎しみは海よりも深しってのはウソじゃなかったんだな)
そう思い、俺は目を閉じる。
終り
*)この物語はフィクションです。
登場人物、出来事その他は全て作者の想像の産物であります。
何が二人に起こったか? 冷門 風之助 @yamato2673nippon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます