その七

 フロアに出ると、再び俺を先に下ろし、再び白衣のポケットから、チェーン付きの鍵を取り出すと、エレベーターのドアが閉まると同時に、外の操作パネルの一番下の鍵穴に鍵を差し込んで半分回す。


 それを確認してから、


『こちらです。どうぞ』と、院長は先に立って歩き出し、分厚いガラスの扉に近づくと、まずドアの脇についているインターフォンのボタンを押した。


(はい?)


 スピーカーの向こうから声が返ってくる。


『秋山です。入りますよ?』


(どうぞ)


 その声を確認した院長は、再び鍵を取り出してドアノブに差す。


 ドアは随分重いものらしい。


 ノブを回し、内側に押すとき、少し力を入れないと動かなかった。


 先に俺を入れると、再び後ろを振り返った院長は、また鍵を取り出してドアノブに鍵をかける。


 驚いたのはそれだけじゃない。


 俺の前に、また分厚いガラスのドアがあったのだ。

 

 だが、このドアには鍵はいらないらしい。


 ノブの真ん中にあるボタンを押すと、ブザーの後に、かちりと何かが外れるような音がして、重いドアが内側に向かって開いた。


 そこでようやく俺達は中に入れた。


 俺達が入ったところはかなり広い場所で、五人掛けほどのテーブルが12~3ほど並べられてあり、窓から降り注ぐ外光(勿論窓は開かない。これもガラスだった。)で、陽射しが一杯だった。


 後で聞いたところによると、ここは食堂兼リビングのような場所で、入院患者達は大半の時間をここで過ごすのだという。


 ドアの右側にドアが二つ並んでおり、その向こうに、


『ナースステーション』とプレートの出た部屋があった。


 俺達を出迎えてくれたのは、眼鏡をかけた、女性にしては背の高いナース服を着た中年の女性と、もう一人は肩幅の広い、いかつい顔をしたナース服姿の男性だった。


 秋山院長が俺の事を紹介してくれるより先に、俺は自分から認可証ライセンスとバッジを示し、訪問の目的を明らかにした。


 二人は俺が探偵だと名乗ると、胡散臭そうな顔をしていたが、秋山院長が、

『いいんだよ。私が許可したんだから』というと、やっと『そうですか』といい、

『でも、誠に申し訳ないのですが、”お荷物”だけはこちらで預からせて頂きます』

 ときた。


 向こうの言う”お荷物”が何を意味しているかは、直ぐに理解出来た。


 要するに『物騒なもの』を持っていないかどうかを確かめたいんだろう。


 探偵なんだから飛び道具くらい持っているかもしれないと判断をしたんだろうが、おあいにく様、俺だってこの手の病院を訪ねてくるのに、何もわざわざそんなものをぶら下げてくる訳がない。


 念のため、ということで、俺はナースステーションの隣の部屋に入れられ、そこでチェックを受けた。


『好きなように調べて貰って結構ですよ』


 俺が少し皮肉交じりにそう言うと、


『いや、こちらからボディチェックをするわけには行きません』だとさ。


 俺は上着を捲り、ひと回りし、ズボンの裾をたくし上げた。


 手荷物は何も持ってきちゃいない。


 マッチョマンの男性看護師は、俺の行動を、大きく目を見開いて確認していたが、


『結構です。ご協力感謝します』


 そういうと、すみませんでしたとばかりに、軽く頭を下げた。


 男性看護師君が開けてくれたドアを出ようとしたその時、俺は甲高い叫び声に迎えられた。


 ナースステーションのドアが同時に開き、三人の看護師が慌てたような顔つきで飛び出してきた。


俺は同時に早足で歩きだした秋山院長の後へ続く。




 




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