その三
昔から『十で神童 十五で才人 二十歳過ぎたらただの人』という通言が存在するように、みや子の才能も、歳が経つにつれ、伸びしろが無くなって来た。
彼女はただ単に自分の才能と、あどけなさ(勿論見かけのものである)と、可憐さ(やはり見かけだけのものだ)だけでは、厳しい芸能界で生き延びて行くのは難しい。
十五、十六と、年齢を重ねるにつれ、みや子は次第に同世代、いや、後からデヴューした後輩のライバルたちに
テレビからもお呼びがかからなくなる。
マネージャーであった彼女の母親が、割としっかりした性格だったので、稼いだ分は遺しておいてくれたものの、それだって限りがある。
更に悪いことに、それまで世間並みな『女の子』としての生き方には目もくれなかった反動だったのだろう。
そうして遺しておいてくれた金も、浪費によって
『遺しておいた・・・・、とおっしゃいましたが、ご両親は?』
『母は3年前に、父は昨年』
ゆう子はそれ以上何も言わなかった。なるほど、俺は心の中で頷いた。
姉のみや子の居場所は、もう芸能界には残っていなかった。
元事務所にいた男性と結婚をし、二人で組んで新しい事務所を開いたが、当然仕事などどこにもない。
地方の健康ランドやら、温泉町のキャバレーやらで、細々と商売をしていたが、その後行方知れずになったという。
『で、何故今になって行方を捜して欲しいと?』
『私も今まで独身で来ました。当然子供もいません。身内と言えば姉しかいないのです。その行方を知りたいと思っても、不思議はないでしょう?』
俺はコーヒーを啜り、デスクのファイルケースから契約書を出して、彼女の前に置く。
『分かりました。お引き受けしましょう。
ギャラは規定通り、基本料金一日六万円と必要経費。仮に拳銃がいるような事態が発生した場合、危険手当として一日四万円の割増し分を頂きます。
詳しくは契約書をお読みになって下さい。それで納得されたら、サインをお願いします。そうしたらすぐにでも仕事にかかりますので、よろしいですか?』
彼女は傍らのハンドバッグを開け、ペンを取り出すと、几帳面に二度も繰り返して契約書を読み、それから几帳面な文字で、最後の頁にサインをして寄越した。
俺はそれをもう一度確認してから、
『結構です』
といい、シナモンスティックを取り出して口に咥える。
『さて・・・・それではお姉さんの事ですが、もう少し詳しくお話を聞かせて頂けませんか?』
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