その二

『人探しは探偵の仕事でも定番メニューみたいなものですからね。後は事情をお伺いした上でということでよろしいでしょうか?』


 構いません、と、彼女は控えめな口調で答え、それから少しづつ、姉と自分の関係について物語り始めた。


 彼女の姉の名前は『みや子』といい、年齢は彼女より五歳上だという。


 みや子は幼い頃から才能にあふれ、歌、ダンス、楽器演奏(特にピアノとオルガン)など、音楽全般に関しては、殆ど独学で習得し、正規な音楽教育はまったく受けていないのに、10歳にも満たぬ頃には、既にプロの音楽家が舌を巻くほどであったという。


 一時は某歌姫の再来などという呼び名をつけられ、テレビ、ラジオ、そしてコンサートなど、あちこちで引く手数多だった。


 彼女の家はそれほど貧しくはなかったにしろ、特に豊かというわけでもなかった。


 10代前半でデヴューを果たし、殆ど学校にも行かずにあちこちと飛び回る。


 勢い、一家の財政は彼女によって支えられることとなった。


 しかし、幼い身で、一人で行動をさせるわけにもゆかない。


 マネージャー代わりが必要となる。


 それを引き受けたのが母親だった。


 母親は芸能界とはまったく無縁ではあったが、才能のある娘の為に必死になった。


 周りに同世代の友人はおらず、大人たちばかり。


 そしてその大人が自分をちやほやしてくれる。


 これで『思い上がるな』といっても、それは無理というものだろう。


 何しろ一家の家計迄、彼女が支えているのだ。


 両親(特に母親)は、姉のわがままを何でも聞いてやった。


 父親は物静かなごく普通の勤め人(某老人介護施設の事務長だったという)で、仕事が忙しく、何時も朝早く出て、夜遅くしか帰ってこない。


 一人残されたのは妹であるゆう子だけだった。


 ゆう子は家で姉の出演しているテレビやラジオを聴きながら、食事の支度から洗濯、掃除、そして勉強などをこなす。


 彼女も音楽の才能や、そして学校の成績も悪くはなかったものの、誰も目を向けてくれるものはいなかった。


 母は兎に角、姉の事で手一杯。


 父は仕事で手一杯。そんな家庭だった。


 たまに一家が揃っても、そこでなされる会話は全て姉が中心。姉には自分が一家を支えているのだという自負があったのだろう。


 そうされるのが当然だと思い込んでいる節があった。


 父は黙って娘に相槌を打っているだけ、


 母は姉の機嫌をとるのに精一杯。


 妹であるゆう子について、顧みられることは殆どなかった。


 姉妹きょうだい仲は決して良いとはいえなかったが、かといって険悪という訳でもなかった。

 みや子は妹の事を馬鹿にしていた訳ではないにせよ、

『自分とは比較の対象にならない』と思っており、事あるごとにそれを口に出したという。

 ただ、ゆう子はそれについて異議を唱えることは一切しなかった。


 姉の才能が図抜けていたのは事実なのだし、自分はどんなに努力しても、姉に追いつける訳はない。そう思っていたという。


 彼女は俺が姉妹の関係について訊ねると、彼女は何故かその点をくどいほど強調して止まなかった。



 

 

 

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