第12話 回想 その3 Dreamer’s die!!

普通のはずだった。何もかも、全てが。

朝ごはんだって食べてきたし、いつも通りの時間に起きて、家を出た。昨日とさして変わらない毎日になる……はずだったのに。


「なんだよ……これ」


二日続けてこんなに気持ちがローになったのは初めてかもしれない。しかし初めてにはあまりにも酷で、刺激的な光景だった。


黒板に黄色で書かれた大きな四文字である。


『神名優』


僕の親がつけてくれたいい名前だと思う。わりと気に入っているのは確かである。


黒板にはその名前が書いてあったけれど、しかしいつもと違うのは神名の神の字に大きなバツが付いている。


そしてその上には、まるで高らかに僕を嘲るかのようにその文字は踊っていた。


『キモ名優』


この四文字。それが僕についた新たな名前らしい。


×××


「なんだよ、これ」


二回目の嘆き。何も声に出せず、ただ棒立ちする。


「おはよう!キモ名‼︎」


そう、声が聞こえる。その声は確かに淡河の声である。


「あわ…かわ……」

「呆然としてんじゃんキモ名。なんか悪いことでもあったの?」


そういうとクラスのみんなが笑い出す。昨日僕と親しげに話していた子だって、そうでない子だって、誰しもが僕に口角の吊り上がった顔を見せる。


「なんで……こんなこと」

「なんでって…………逆になんで?何がなんで?自分過信して調子のって告白なんて、キモすぎんだろ!」


そう言って淡河は嘲った。

昨日までのような、爽やかでイケてる笑顔なんかじゃなく、醜く吊り上がった口。


少し考える。

もしかして全てこいつが仕組んだのではと。信じたくはないけれど、否定できなかった。


考えればそうだ。僕に告白させようとしてたのはこいつだ。つまり僕がフラれることがわかってて進めたのだ。きっと夜川さんもわざとあんなフリ方をしたんだろう。そしてこんなことを。


前線で僕を虐げる淡河だが、一方の夜川さんはいつものグループでヒソヒソ話し合っている。そう、いつものメンバー。いつメンてやつだが、その事実が僕の首をさらに締め上げた。


そう、当然のように蓮架もその中に混ざっていた。時々僕に目を向けてくる蓮架。


……なあ蓮架。お前は僕の味方なんじゃないのかよ。昨日そう言ってくれたじゃないか。

もう何が本当で本物なのかわからない。


………………。


なるほどそうか、違う。違うよ。全然違うッ!

本物なんてない。本当なんて元からないんだ!

そうか。そうなのか。こんな簡単なことに僕はなんで気づかなかったんだ⁈


なんだよ僕。こんな偽物の本物に僕は三年間も抱きとめていたのか?

気持ち悪い。気持ち悪すぎるよ!僕!

本当にキモ名じゃないか‼︎

ずっとずっと自意識過剰だったんだ、僕は!自分はクラスの中心人物だと思って、僕を軸にして世界は回ってるなんて錯覚して、三年間も同じ日々を……‼︎


「……ふふ…………。あはははははは‼︎アハハ…ハハッ…フハHAHAHAHAHAHAHA‼︎」


そうだ。確かにそうだ‼︎


「お前らの言う通りだな…………僕はずっと自意識過剰で気持ち悪い…………キモ名じゃないか‼︎」


僕は席に着く。

ああ、全部気持ち悪い。今まで積み重ねたこと全てに吐き気を覚える。


全部偽物だった。そういうことだ。毎朝会話に入るときにつくってくれる居場所も、話の対応も、全部が社交辞令にせものって訳か。


結局僕はずっと、自分に酔って、踊らされてたんだ。


僕の夢は死んだんだ。









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