第11話 回想 その2

「………………」


僕は唖然としていた。


何が起きたのか、もとい何が起こったのか。

まるで記憶が抜け落ちてしまったかのように虚しく、しかし何も覚えていない。


いや、違う。


何も頭に入っていない。夜川さんの言ったことは何一つ頭に入っていなかった。


一つわかるのは、僕は傷ついていた。何故かはまったくもってわからないけど、しかし僕は確実に、忠実に、着実に、キズモノだ。


呆然としたまま、何も考えずに昇降口に向かう。


早く帰りたかった。ただ、そう思っていた。


×××


学校から家まではわりと近い。

徒歩十五分ほどの道のりである。

自分の何がいけなかったのか。何が悪かったのか。

想像さえできない。


淡河だってきっと成功するって言ってたのに。

やはり本人のことなんてわからないんだ。誰かからの又聞きなんて信憑性は薄い。


そうだ。きっとそうだ。迂闊に淡河の話をまんま受け止めたから、フラれたんだ。

そりゃそうだ、いきなり告白されたら誰だって気持ち悪い。


「や、ゆうちゃん!」


心地よい足音とともにやってきたのは蓮架である。彼女は僕にそう声をかけると、僕の背中を叩いた。


「痛いよはーちゃん……」


ジンジンと痛みに痺れる背中。


「今日は帰るの早いんだね!バスケ部どうしたの?」

「早く帰りたかったからサボってきた」


そう、僕は男子バスケ部に入っている。小学校の頃から蓮架とやっていたので、それを無駄にしないためにもそうしている。


「ダメじゃんそんなのー」


そう言って蓮架は笑った。いやこっちにもこっちの事情がですね……。


「…………どうしたの?なんだか浮かない顔だけど」

「はーちゃんにサボったことがバレて落ち込んでんの」


すると蓮架はこちらの顔を覗きこむように顔を向ける。真っ直ぐで、純粋な、澄んだ瞳だった。



「…………本当にそうなの?」


………………。


「……ハハッ、やっぱりはーちゃんには敵わないや」

「十年の付き合いなめんな。さあ、このはーちゃんに相談してみなさい!」

「んーと」


僕は先程起きた出来事を洗いざらい話した。

夜川さんのことが好きだったこと。

今日告白したこと。

散々どころか惨めに終わったこと。

詳細に至るまで、しっかりと話した。


蓮架は最初は驚いたような顔だったがだんだん真剣な顔になっていった。


「へー、そんなことが私の知らぬ間に…」

「…………」


蓮架はしばらく考え込むように腕を抱えた。


「んー、多分気持ちの問題だし、湊ちゃんについてはどうしようもないんじゃないかな。謝るような柔らかい子じゃないし」

「そうだよなー」


知ってた。


「けどゆうちゃんはいつも通り過ごせばいいんじゃないかな。これからもしっかりアタックすればいつか振り向いてくれるよ!」


そう言って蓮架はシュッシュっとジャブを放った。アタックのジェスチャーのつもりらしい。


「大丈夫!私はゆうちゃんの味方だから!これからも何かあったら相談してね!」


そしてグーサイン。


「おう!」


蓮架はいいやつだと心から思った。

そして駄弁りながら歩みを進める。蓮架と下らなくどうでもいい話で盛り上がったりした。


心なしか今日の家路は短いような気がした。



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