第8話 

電車での一悶着があってからは特筆するようなこともなく、一日が過ぎていった。


やはり何もない方が時間の進みが早いのは確かなのようだ。


学校で一番長い休み時間、昼休み。

リア充が校内や教室を闊歩する憂鬱な時間である。ましてや友達もいない……もとい、つくれていないこの僕からすればその憂鬱さはそこを知れぬものがある。


いつもなら心地よい賑やかさも、教室ではリア充たちがリアルに充実している様子も見えてしまい鬱陶しい。

いや、べつに僕はリア充爆発しろとか思ってないし、むしろそう言ってるやつ時代遅れまである(個人的に見解です)。


かといって話しかけられたいわけでもないので耳にイヤホンをぶっ刺して、小説でも読みながら話しかけないでオーラでも出してみる。


これでうるささを忘れられる…………かと思いきやイヤホンをも凌駕するうるささ、もとい賑やかさが廊下からしてきた。

さてはお前、ニュータイプだな…?


小説から一瞬廊下に目をくべると、そこには生徒会長がいた。


極力関わりたくないのでしっかりと目を逸らし、小説に集中する。


そういや編笠先輩におすすめされた順列都市だか瞬殺都市だかも読まないとな、と一瞬そんなことが頭をよぎったがしっかり耳から出ていってくれた。


するとタッタッタッと小刻みなリズムが聞こえてくる。蓮架だろうか、と思ったが非リアに用なんてないだろうと思い顔はあげなかった。


購買にでも行くのか、友達んとこにでも行くんだろうか。


耳から流れる音楽が心地よい。最近の曲はあまり知らないけれど、音楽はいいものだと思う。とくに昔の洋楽が僕は好きだけど。


すると途端に片耳から何かが抜けた感触がする。見ると蓮架が隣の席に座って僕のイヤホンをつけていた。

茶髪をかき分けて耳にはしっかりイヤホンがハマっている。


「…………何」

「いや、何聴いてんのかなーって思ってさ。結構シブいの聴いてんだね」

「今のEDMだかエレクトロダンスミュージックだかよりかはいいと思ってな。返せ」


すると蓮架は一瞬微笑んだあとに

「昔から変わんないよね、ゆうちゃんはさ」

と言ったあと

「EDMもエレクトロダンスミュージックも同じだし……」と呟いた。


へーそーなんだーしらなかつたー。てか昔から変わらない、って僕の好き嫌いなんてどうでもいいだろ。


「冷やかしにきたんなら戻れ」


端的にそれだけ言って、シッシと手を振る。


やはり耳が片方寂しいので蓮架からイヤホンを摘み取り、耳につけた。


しかしつけた瞬間に、また外され、今度は吐息を感じた。


「今日も一緒に帰ろうね、いつもの場所で待ってるから。あと生徒会長さんが呼んでるよ」


そう囁かれてからもう一回イヤホンがはめられた。


ちぇっ、どっちもめんどくせえな……。


×××


「結構塩対応なんですね、せっかく高ランクの方から声をかけてもらえたのに」

「高ランクだからだよ」


そんなこともわからないのか、お前。


「ふーん、、、まああなたの解釈でいいですが……」


よくわからないことを言って、折鶴は腕を組み壁にもたれかかる。


「なんかあったんですか?彼女と。なんだか彼女への塩対応と私への塩対応とは色々違う気がしますが」

「大丈夫だ、お前への方が冷たい」


と言ってグーサイン。


「なんか優くんはすきあらばつついてきますね…」お前に言われたくない。


「けどなんかあの方にはトゲがあるっていうか……やっぱりなんかあったとか」

「……別になんもねーよ、しつこいな」


本当に何もない。僕が理不尽なだけである。


「まあ、私がいるからには、しっかり復縁させてあげますよー」


そしてウィンク。はっきり言ってウザい。


「余計なことすんなよ……」

「そろそろ時間ですね……それじゃ」


僕の話を聞く気はないらしく軽く手を振ると折鶴は足早に駆け出していった。


これ以上僕の日常を壊して欲しくない。

それは事実だった。


けれど。僕は同時に折鶴に何かを期待していた。信じたくはないが、事実である。


その正体が何かもわからぬまま、ポケットに手をつっこんで教室に戻った。

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