第7話 

「今日は家早く出ないんだな」

「はい、挨拶週間は先週で終わりだったので」


JL瀬川線の電車内にて、そんな会話を僕らはしていた。


あの居候が始まった日からはや一週間。今日は初めて折鶴との登校である。


先週までは彼女は生徒会の挨拶週間だったらしく一緒に登校はしていなかったのだが、今日は一緒の登校である。

別に一緒に行きたいわけではないのだが、起きる時間が一緒だったためあえなく同行することになってしまった。


明日からちょっと早起きしないとな…。


学校でも特に目立ったこともなく、思ったよりかは学校では平凡が続いていると思う。

無論、家は地獄だが。


まあ添い寝が一日だけで済んだのは幸運だった。あれから毎日添い寝のご招待は来ているが、全て蹴っ飛ばしているので就寝の自由も守られていた。


「時に優くん」

「……なんだよ」

「優くんは部活に入っていたりするのですか?」

「まあ一応文芸部にな」

「ああ、あのろくに部活していない文芸もどき部もどきですか」

「否定はしねーがひどい言いようだな、部活ももどきなのかよ」


まあ確かに規定人数も超えていないので部活もどきではあるが。


「あそこには確か編笠先輩がいらっしゃいましたよね」

「ああ、いるけど、知り合いか?」

「はい」


折鶴は一度微笑んだあと


「親戚なんですよ、月見ちゃんとは」

「月見ちゃんて呼んでんのな」

「ええ、いつも彼女には嫌がられますが……」

「ふーん」


世間も意外と狭いものである。

まあ考えてみればこの二人のウザさには似通うものがあるからな…。


「編笠先輩て昔どんなんだったんだ?」


僕の問いに対して折鶴は一度目を見開いた。しかしすぐに元の表情に戻り、少し考え事でもするような仕草をすると、途端にこちらに向き直り、ゲスっぽい笑顔を見せる。


「あれぇぇ、あれれぇ、優くんが他人に興味を持つなんて意外ですねぇぇ、気になってるんですか?それとも好きなんですか?」


「どちらを選んでも地獄しか見えないんだが……。別にそういうんじゃねーよ。いつからあんなにひねくれ始めたのかなーって思っただけだ」


僕がそう答えると折鶴は遊び尽くしたおもちゃを見るような目で見てきた。

え、僕おもちゃ?所詮玩具でしかないの?


「なーんだ、つまんないですねぇ……月見ちゃんとは親戚でもあまり関わりは無いんでよくはわからないです」

「ふーん」


そうなんだ……。てかつまんないって、僕をなんだと思っているんだろうか。やっぱり玩具なんだろうか。もうそうとしか思えなくなってきた。


『次はぁ、たちばな、橘』


渋い声が響き渡る。


この橘駅は、住宅地前にある駅なので、ここから一気に生徒の数が多くなる。

今までの駅は田舎駅なのでそれほど人は多くないが、この駅からは生徒だけでなくリーマンも大勢やってくる。


こんな目立つ生徒会長様と一緒にいるところを見られて、変な噂を嘯かれても面倒なので、生徒会長としっかりと距離を取る。


「…?」


何がしたいのかわからないみたいな顔をされたあと、しっかりと近づいてきた。


物わかりに悪いやっちゃなぁと思いながら次は向かいの席へ移動する。


予想はしてたがしっかり追いかけてきた。


「…………」


もう一度席を立って移動しようとすると手を掴まれた。


「どうしたんですか?忙しないですよ」

「人が来るからお前と離れてんの」

「え、なんでですか?」


ッタクやれやれだぜ、ほんと物わかりがわりーな。


「お前みたいなカリスマ生徒会長と僕みたいなぼっち非リアが一緒にいて変なこと嘯かれたら僕もお前も困るだろ」

「私は別にいいですよ」

「僕がやなの‼︎」


手を口ほどこうとするともっと強い力で掴んできた。


「やです!隣にいないとやです!


「なんでだよ!別にいいだろ!」


「私が痴漢とかされたらどう責任取るんですか!そうゆうことも考えてください!」


「座ってんだからんなこと関係ないだろ!」


「けど怖いです!お願いです一緒にいてください!」


「夜にトイレ行けないこどもみたいなこと言ってんじゃねーよ!高校生だろうが!」


「本当にお願いします!私は」


『ピンポンピンポーン』


効果音と共にドアが開く音はする。これは嫌な予感が…………。


『ガラガラガラガラ』

「あなたにそばにいて欲しいんです!」


くそなんてタイミングだ!

ドアが開いた瞬間に嫌がった……。


『…………おおおお』


観衆の感嘆が聞こえ、恐る恐る後ろを向く。


案の定瀬川高校の制服を着た生徒Aたちが二列で並んでいた。


唖然としているやつや、口をパクパクさせてるやつ、……お前折鶴のこと好きなんだろ。……あとそこのお前イヤホン外さなくていいから!


「……いいや、あの、これは勘違いで」「今の話!ちょっと詳しくっ‼︎」


僕が弁解しようとしたところを子に眼鏡っ娘が猪のようにやってきた。鼻息をフンフンしてるあたり闘牛の方が正しいかもしれない。


……あさっパナから面倒に巻き込まれそうだ……。


×××


「二人の関係はいつからですか?」

「いやだからそういう関係じゃ」「先週からです」

「おいー」

「トクダネっ‼︎」


僕らは絶賛インタビューされていた。


この眼鏡っ娘は皆木募みなぎきつもるというらしく案の定新聞部員だった。


電車内もなんか僕ら三人の席だけやけに空間があって、聞き耳を立てているようでもあった。

こういう時スマホいじってるやつって絶対なんかアップしてるよね。あー怖い怖い。


「一体どんな経緯で?」

「だからそういうんじゃ」「私の方から頼んだんです。最初は優くんも認めてくれなかったですが今は認めてくれました!」

「うん折鶴さんちょっと黙ろうかー。あと今も認めてないからー」

「トクダネっ‼︎」


そう言って皆木さんはペンを走らせた。

ねえそのノート破ってペンへし折ってもいいかな……?


「どこまで進展したのですか?」

「寝ました!」

「もうやめてくれ……」

「トクダネっ‼︎」


目の前で大事なものが壊れていく……。

あといちいち『トクダネっ‼︎』がうるさいんだが。


「最後に…………次の目標は?」

「毎日彼の朝ごはんを作りたいです!」

「ねえわざとだよねー絶対わざとだよねー」

『………………おおお』

「観衆も感嘆すんな‼︎」

「これはいいトクダネっ‼︎がかけそうです‼︎ありがとうございました‼︎」


『瀬川ぁ、瀬川ぁ』

『ピンポンピンポーン』

『ガラガラガラガラ』


まるで待ってたかのようにドアが開き、皆木が飛び出した。


「ねえわざとだよねえ、折鶴さん……」

「まあ面白そうだからいいじゃないですか」


全然よくねえよ……。

そう言って彼女は電車を降りていった。後に続いて僕も出る。


…………クソ勘違いしてんじゃねえよ…あと勘違いさせてんじゃねえよ…。


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