北岸の漂流物

 北岸の灯台守は果てを知っている。海と陸を繋ぐ火を目指し来る者はもういない。それでも火を灯し続ける。灯台を守り続ける。

「海から来るのではないのだ」

 さざ波が立つ海は、どれほど晴れていようと、高くに登ろうと、向こう岸が見えなくなった。灯台が投げた光を海が拾って押し返す。雲の隙間からも光の梯子が降りて、やはり海に落ち、岸に寄せられる。陰を溶かして暗く沈む海は絨毯だ。絨毯を踏んで、光が音も無くやって来る。

 波が弾け魚の群れが散ってまた戻る。北の海は暗く、凍てつく水色に魚の鱗も染まって青い。魚は忙しく行進訓練中。隊列の向きが変わる瞬間チラチラと白い腹が光る。海のあちこちが光る。群れが遠ざかっていき、果てで溶けた。

 海の果ては光の溜りだ。水平線からやって来るものがいる。白い群れが海を埋める。海の奥に引かれた一本の線が次第に近付く。寄せては引いて。漂着物が先んじて岸に辿り着く。見慣れぬ機構を持つ道具が岩の浜に散らかる。きっと世界はもうすぐ終わる。終焉が大きな歩幅でやって来る。灯台守は終焉の姿が見えるのを待っている。矢をつがえるでもなく茶を淹れながら。街の人が差し入れを持って灯台守を訪ねるので、世間話をしながら待っている。

「灯台守、何を待っているんだい」

 北の浜には誰も来ないよ。海を見ながら人々は涼しい風に吹かれる。灯台守は海上に散らかる光を見ている。

「海から来るのではないのだ」

「あ、こら」

 漂着物を子供たちが珍しがって集める。北岸は立ち入りを禁じられているので、今のところ灯台守は、子供たちの守護者だ。浜に降りて、数日後の式典のために異物を回収して歩く。

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