第96話 聖騎士少女は遠慮がなかった
「あ、あ、あ……」
「あの悪魔を……瞬殺……」
「こ、これが……ノーライフキング……」
聖騎士たちがガクガクと震えている。
その怯え切った目からして、明らかにコミュニケーションを取れるような状態ではない。
「て、提案、だと……?」
そんな中にあって、教皇のおっさんだけは辛うじて会話が成立しそうだ。
声こそ震えてはいるが、巨大宗教組織のトップとしての矜持もあるのか、しっかり立ち上がって俺を見てくる。
……まぁ俺は俺で、偉い人と話すことに緊張しているのだが。
「ほ、放っておいたら復活しそうだし……で、できれば、またあの場所に、閉じ込めた方がいいと、思う……」
「だ、だが……再び出てくる可能性が……」
お互い声が上ずっているが、気にせず話を続ける。
「そ、その心配は、ない……(たぶん)。なぜなら、俺が白い空間に穴を開けて……それで、脱出できたからだ。……恐らく、こいつはそれを通って出てきたのだろう」
「なっ!? 次元聖獄に、穴を開けただと!?」
めちゃくちゃ驚いているが、結構すんなり脱出できたけどな。
だからもう俺に同じことをやろうとしても無駄だぞ?
怖かったからマジでやめてくれ……。
「だから、こいつだけなら、出られない……はず」
つまり今度こそ、永遠にあそこに閉じ込められることになるわけだ。
そう考えるとちょっと可哀想だが……どうせ悪魔だしな。
性格もヤバいし、人畜無害なアンデッドである俺とは違う。違うったら違う。
「……教皇であるこの私に、貴様の……アンデッドの言うことを、聞けと?」
なんかすごく警戒されてるけど、俺は人畜無害なんだって!
「例えば、だ。貴様によって聖獄の扉を破壊されるという可能性がないと、どうして信用することができる?」
いやそんなことしても俺に何のメリットもないだろ。
「猊下っ!」
と、そこへ割り込んできたのは聖騎士少女だった。
「か、彼にこちらを騙すような意図などありません。純粋にこの危険な悪魔をどう処理すべきか考え、意見を口にしているだけです」
「リミュル……お前はアンデッドの肩を持つというのか?」
「っ……た、確かに、彼がアンデッドであることは間違いありません。ですが、その精神はごく普通の人間です。彼をここまで連れてきた私には、そう断言することができます」
「……」
「かのロマーナの英雄王がもし今ここにいれば……同じ意見を口にされることでしょう」
「……」
英雄王の名が出て、教皇のおっさんの眉がぴくりと動いた気がした。
「……」
「……」
しばし沈黙の睨み合いが続き、やがて教皇のおっさんが重々しく口を開く。
「……いいだろう。どのみち我々には選択肢はない。貴様の考えに乗ろう」
選択肢ないんだったら最初からそうすればよくない……?
悪魔の巨体は地下空間へと運ばれていった。
念のため二つあった心臓も握り潰しておいたし、恐らく途中で復活したりはしないだろう。
俺はというと、聖騎士たちに監視されながら、神殿の庭に待機している。
「ほ、本当に大丈夫なんだろうな……?」
「もし暴れ出したら……」
「俺たち確実に死ぬだろうな……」
めちゃくちゃ怯えまくってはいるが、それでも職務を放棄して逃げたりしないところに、彼らの使命感の強さを伺える。
「心配は無用だ」
「り、リミュル隊長……」
「だいたいこの男は私が単身でここまで連れてきたんだ。ここで暴れ出すようなら、大人しくついてくるはずがないだろう」
「た、確かに……」
一緒に俺を監視している聖騎士少女の言葉で、少し安堵したようだった。
「何なら攻撃しても大丈夫だぞ」
「え、ちょっ……」
聖騎士少女がこちらに向かって歩いてきたかと思うと、いきなり槍の一撃を俺に見舞ってきた。
ぐさりと鋭利な先端が俺の首に突き刺さる。
「「「ひいいいいいいいいいっ!」」」
他の聖騎士たちが悲鳴を上げた。
「……いや、ほんとに攻撃してくるか、普通?」
「この方が彼らにも分かってもらえるだろう」
無論、痛みもなければ、こんなことで怒る俺ではない。
心配は要らないと、怯えている連中へ、俺はにっこりと微笑んでやった。
「「「ひいいいいいいいいいっ! めちゃくちゃ怒ってるうううううっ!?」」」
「あ」
「こら」
聖騎士少女に頭を叩かれた。
「馬鹿か、貴様は。貴様の笑顔は逆効果だと言っただろう」
「そういえば」
「まったく……脳味噌の方も腐っているのではないか」
酷い言い様だ。
「だ、大丈夫なのか……?」
「こ、怖かった……」
「ちょっとチビってしまったぜ……」
聖騎士少女の気兼ねのない言動に、どうやら彼らも俺が危険なアンデッドではないと分かってくれたらしい。
そんな感じでしばらく待ち続けていると、教皇のおっさんが戻ってきた。
どうやら無事に悪魔をあの白い空間へ戻すことができたらしい。
「全員この場から離れているんだ」
「え? し、しかし……危険では……」
「構わん。どのみちその気ならとっくに殺されている」
そして何を思ったか、教皇のおっさんは警備に付いていた聖騎士たちを遠ざけた。
「リミュル聖騎士は残っているといい」
「は、はい」
聖騎士少女だけがこの場に残され、三人だけになると、おっさんが何やら魔法を発動した。
「これは……」
「簡易の結界魔法だ。強度には乏しいが、外から内側の様子が分からなくなる」
どうやら三人だけで話したいことがあるらしかった。
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