第24話 追尾機能が付いてた

「嘘でしょ……? ボクのゴーレムハンドが……」

「馬鹿ナ……我ガ包帯、火耐性ナリ……」


 少年と包帯男が瞠目している。

 いや包帯男はどこに目があるのか分からないが……。


 ともかく、今度はこっちから攻撃しても構わないよな?


「ファイアボール×2」


 おおっ、できたぞ!


 高位の魔法使いがやる魔法の同時発動だ。

 何となく今の俺ならできるのではと思ってやってみたが、意外と簡単だったな。


 二つの炎塊がそれぞれ狙いの方向へと飛んでいく。


「あっ、アースウォール!」


 少年アンデッドは咄嗟に土魔法で壁を作った。

 炎塊がそれに直撃する。


「ひっ!? ぼ、ボクのアースウォールが、一瞬で溶かされたちゃったんだけどっ!?」


 土壁がドロドロに溶け、高温の蒸気を上げながら地面を流れていく。

 それでも土壁のお陰で炎塊を防ぎ切った少年は、顔を引き攣らせてへたり込んでいた。


「ッ……」


 一方、包帯男の方は俊敏な動きで俺のファイアボールを回避していた。

 こいつに攻撃を当てるのはなかなか大変そうだな。


「しかも今のまともに喰らったら、ディガみたいに霊体ごと消滅させられちゃうんだよねっ!? 怖すぎるよっ!」

「……天敵ナリ」

「本気で行くよっ、ミルラ! ボクまだ消滅なんてしたくないっ!」

「……同意ス」


 そう頷き合ってから、包帯男が真っ直ぐ俺の方に向かってきた。

 やはり速い。


 そして繰り出される徒手空拳での連続攻撃。

 拳や蹴りが一瞬の間に何発も俺の全身に叩き込まれた。


 しかし俺は相変わらずノーダメージだ。

 すると今度は再び包帯が飛んできた。


 直後、包帯男の速度がさらに上がった。

 どうやら包帯の伸縮性を利用することで、より加速力を得たらしい。


 先ほどよりも速くて強い打撃が次々と俺の身体を打った。


 だがそれでダメージを受けたのは包帯男の方だった。

 衝撃の反動に耐え切れなかったのか、肉がへしゃげたり、骨が折れたりしている。


 俺はと言うと、やはり無傷のままだ。


「……理解不能」


 攻撃に意味がないと悟ったのか、包帯男が動きを止める。

 そのとき少年アンデッドが叫んだ。


「準備完了っ! 魔力を全部使っちゃえっ! 硬土監獄アースプリズンっ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 俺の足元が激しく振動し始めた。

 かと思えば、周囲を取り囲むように巨大な壁が猛スピードでせり上がっていく。


 気づけば俺は土の壁に閉じ込められていた。

 恐る恐る触ってみたら、土というよりもはや金属の硬さだ。


「はぁはぁはぁ……こ、これなら簡単には出られないはずっ!」


 外からそんな声が微かに聞こえてきた。

 だが、


「……タラスクロードよりは柔らかいんじゃないか?」


 巨大亀によって体内に呑み込まれ、肉や甲羅を拳で抉りながら脱出したことを思い出して、俺は拳を壁に叩き込んでみた。


 ドガァァァンッ!


 予想通り壁はあっさりと粉砕した。

 よし、これならすぐに外に出られそうだ。


 さらに二、三回連続で殴りつけると、壁に穴が開いて向こう側が見えるようになった。

 最後は蹴りを喰らわせ、通り抜けられる大きさと広げる。


 外に出ると、少年がガクガクと身体を震わせていた。


「あ、あり得ない……そんな……ボクの全力が……こんなに簡単に……」

「ファイアボール」

「ひぃぃぃっ! い、嫌だっ……まだ消えたくないっ……ボクはもっとっ、大人が必死に命乞いしてくる顔を見た――ぎゃあああああああっ!?」


 もはや魔力が枯渇していたのか、先ほどのように炎塊を防ぐことができず、その直撃を受けて断末魔の叫びを轟かせた。


「次はこっちの包帯男だが……」


 やたらと素早いので、普通に放っても先ほどのように躱されるだけだろう。

 それなら――


 俺は地面を蹴り、包帯男との距離を一瞬で詰めた。


「ッ!?」


 まさか直接向かってくるとは思っていなかったのか、包帯男は動くことができない。

 そのまま俺は抱きついた。


 ……もちろん本当はこんなやり方は嫌だった。

 ただでさえ男になんか抱きつきたくないというのに、包帯ぐるぐる巻きのアンデッドとなればなおさらだ。


 しかもこいつちょっと臭いし……。


 だがこれなら逃げることは不可能なはず。

 相手も包帯で俺の動きを封じようとしてきていたが、それをそっくりそのままやり返した形である。


「ファイアボール」


 俺は自分に向かってファイアボールを放つ。

 当然、包帯男もそれに巻き込まれる格好となった。


「~~~~~~~~ッ!?」


 俺は何ともない炎だが、包帯男は身をよじらせながら苦しんでいる。

 やがて包帯諸共、灰となってしまった。



「素晴らしい! 素晴らしい力だよ! まさか、僕が誇る九死将を、こうも簡単に倒してしまうなんてね!」



 歓喜の声が響いた。

 視線を向けると、自分の配下を倒されたというのに、死霊術師のジャンが嬉しくて堪らないといった顔でこっちを見ていた。


「リノ! ミルラ! どうか安らかに眠ってくれたまえ! 君たちの献身的な働きのお陰で、僕は君たちなんかとは比べ物にならない、最高の眷属を得ることができるのだからね!」


 そして贈る言葉としてはなかなか酷いことを言いながら、ジャンは勝手な皮算用をしている。

 俺がいつお前の眷属になんかなると言ったんだ。


「ふふふっ、もう準備はできているよ」

「っ?」

「この世界最高の死霊術師、ジャン=ディアゴ様の手にかかれば、どんなアンデッドでも支配下に置くことができるのさぁっ!」


 次の瞬間、俺の足元に巨大な魔法陣が出現していた。


 ……げっ!

 さすがにこれはマズいよなっ?


 俺は咄嗟に魔法陣の外に逃げようとするが、しかし俺の動きに合わせて魔法陣の方も動いてくる。

 まさかの追尾機能付き!?


「あはははははっ! 逃げることはできないよ!」


 魔法陣が輝き、そしてどこからともなく現れた鎖のようなものが俺の全身に絡みついてくる。

 逃れようと身をよじらせるも、どうやら実体のない鎖らしく、ただすり抜けるだけだ。


「僕の死霊術は霊体そのものに作用するのさ! いかに強靭な肉体を持っていようと、防ぐことは不可能だっ!」


 勝ち誇ったように叫ぶジャン。

 そして先端が矢のように尖った鎖が、俺の肉体――いや、霊体へと突き刺さった。


「――契約完了。これで君は僕のものだっ! あははははっ! あははははははっ!」


 ジャンが宣言する。

 同時に魔法陣と鎖が消失していた。


「ふふふ、君は今日から僕の忠実な眷属だ……さあ、こっちにおいでよ」

「ファイアボール」

「……は?」

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