第21話 Once-in-a-lifetime chance(一期一会)

エレベーターでまずは1Fへと進む。1Fの玄関ホールでは、先ほどの足湯のカウンターがある。カウンターへ目をむけると、宿泊客がいなかった。


山田「酒井さん、足湯のカウンターへ行ってみませんか。」


僕「僕もちょうど足湯のカウンターで夜風に当たりたいなって思っていたところなんだよね。」


足湯カウンターの入口へと向かい、僕と山田は浴衣を少しだけめくり、足湯につかった。つま先から伝わってくる温泉の暖かさと少しだけ寒くなった夜風の体感が、心を癒してくれた。


僕「山田君、つま先から伝わってくる来る温泉の暖かさと、夜風の温度が何とも調和の取れてた感じですよね。」


山田「そうですね。足元からポカポカしてきますね。温泉の温度もいい感じですよ。」


僕「温泉の温度がちょうどいいよね。癒されるって感じですよね。」


カウンターから見れる箱根の夜空、輝く星が僕の目に焼き付いている。この瞬間はもう二度とこない。そう思うとなんだか山田とのこの時間が非常に尊く思った。同じ景色はもう二度とないと思うとなんだか切なくなる。僕と山田の二人は、これからも寄り添って生きていくのだろうが、この瞬間は今回限りである。


カウンターの置いた僕の手を山田の手が包んでくる。恥ずかしいのもあるが、うれしいという気持ちのほうが今の僕には勝っていた。


山田「俺、内心すごくドキドキしちゃっています。こんな気持ちは初めてなんですよ。一人の人をこんなにも大切に思うのって、この気持ちって恋ってことなんでしょうね。」


僕「山田君の気持ちは僕へ十分に伝わってきていますよ。安心してください。」


山田のホットした表情に僕はドキっとしてきた。カウンターの前には漆黒の夜の暗さが広がっている。都内ではこんなにも夜が暗いと感じたことはない。なんだか星もバリ島のように近くに感じた。自然の中にいると周りの景色が近く感じてしまうのだろうか。


僕と山田の距離は、今どれくらい離れているのだろうか。20センチぐらいだろうか。実際の距離はその20センチメートルかもしれないが、僕の気持ちでは、真横にある感じである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る