第19話 Platonic(プラトニック)

僕は山田の体温を感じつつ、少しだけ山田に身を任せた。


僕「山田君、夕食の開始時間は、19時でよかったですよね。」


山田「そうです。19時で予約を入れていますから、ご安心ください。」


僕は部屋の壁かけ時計に目を向けた。18時40分と時間もいい感じになっていた。


僕「じゃ、そろそろ時間になりますね。どんな食事なのか楽しみです。今からレストランへ行きましょうか。どうします?」


山田「そろそろ出かけましょうか。夕食、俺も楽しみですよ。海の幸と山の幸の両方が楽しめるビュッフェスタイルですよ。デザートの充実も楽しみですよね。」


僕「僕にとって、食後のデザートって重要なポジションですよね。」


旅の醍醐味の一つには、その宿での食事がある。


僕はすごく楽しみであった。箱根という場所柄なので、沼津にも近く新鮮な海の幸、箱根の山でとれる山の幸のコラボレーションが楽しみであった。


僕はふと山田の横顔を見た。今まで僕自身が気が付いていなかった気持ちを再確認した。


その時感じたことは、やはり僕は山田のことが好きかもしれないという気持ちだった。


部屋の中で僕が食事に向かう準備をしていると、僕の背中ら山田がギュッとハグをしてきた。


僕の背中を通じて、その山田の身体から山田の心臓の音が伝わってくる気がした。僕は山田の手をそっと握っていた。なんだかプラトニックラブという感じになった。心と心がつながっている感じだ。


ここで男女だったら、そのまま次のステップへと続くのかもしれない。僕と山田は同性のため、そんな簡単には進んでいかないのだろう。僕はこのプラトニックな感じのままの状況が、僕と山田にとって居心地がいいだろうと思っていた。


山田「酒井さんのことが本当に好きです。本当にですからね。」


僕「山田君、ありがとう。僕も山田君のことが好きですよ。」


僕と山田はお互いの気持ちを再度確認した。


まだ大人になりきっていないあどけない雰囲気の残る山田はなんだか「ホッ」とした表情をしていた。


告白をして相手に受け入れられると、やはりうれしいものである。僕はいままで同性からなんどか告白をされたことはあった。実際のところ、その過去の告白を受け入れるという感情にはならなかった。それがなぜなのかわからない。


しかし、今回の山田の告白は、以前のものとは違い僕にとってすんなりと山田の感情を受け入れることができるものだった。


この感情は、やはり前回渡航したバリ島で二人の出会いの意味を知っていたからであろうか。それともその意味を知らなかったとしても、僕は山田の気持ちを受け入れたのだろうか。どちらなのか、今の僕にはわからなかった。三十数年間生きてきて、僕は初めての感情が僕自身の身体の中にあることを確認した。


山田「酒井さん、今、何を考えています?俺に告白されてどうしようかって思っていますか。困っていますか。」


僕「困るって、そんなことは全くないよ、逆に僕は山田君の気持ちを知ってうれしいよ。実は、僕は今までにも何人かの同性から告白を受けたんだよね。でも、すべて断った来たんだ。」


山田「じゃ、どうして俺の気持ちは受け入れられたんですか。」


僕「僕、自身も不思議なんだけどね。多分、出会った瞬間に決まっていたんだと思う。山田君を知れば知るほど惹かれていくんだよね。だからね。」


山田「俺も酒井さんのことを知れば知るほど、どんどんと惹かれていっちゃうんです。この気持ちはもう止まらないですよね。」


僕「お互い、相思相愛なのかもしれないね。」


山田「酒井さんにそう言っていただくと、俺、本当に幸せなんです。ありがとうございます。」


僕「いや、ぼくこそ山田君にお礼を言いたいですよ。どれだけの勇気がいったかとおもうとなんだか涙が出ちゃうよ。山田君の勇気に感動して。」


僕はそう山田に伝えた後、涙が僕の頬をつたっていくのが分かった。その表情を見ていた山田が僕の身体をギュッと抱きしめた。僕は、再度、山田の手の中で僕の身体を委ねた。


山田「今、俺、酒井さんの体温を体中で感じています。こんな日が来るとは思ってもいなかったです。超絶うれしいです。」


僕は山田の言葉を聞きながら、僕も山田の心臓の音を聞いていた。鼓動が伝わってくる。

山田の身体から伝わってくる心臓の音を体で感じていると、一生懸命生きているんだなって思うとまた涙が出てきた。


山田「酒井さん、どうされました。さきっから涙が出ていますよ。」


僕「山田君と一緒にいられる幸せを感じていたら、自然と涙が出てきちゃいました。」


山田「酒井さん、俺、酒井さんとずっと一緒にいたい。」


僕「僕もですよ。」


山田「酒井さん、そろそろ食事へ向かいましょうか?」


僕「OK」


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