第13話 Open feeling(解放)

僕と山田は大浴場の暖簾をくぐる。温泉宿の大浴場の景色が僕の前に広がった。籐のマット、荷物を入れるロッカー。もちろんバスタオルなどのアメニティは揃っている。これぞ温泉宿って感じだ。


僕は早速浴衣を脱ぐ。この解放感は何とも言えない。山田も僕の隣で浴衣を脱いでいる。二人そろって、裸になるのは初めてである。僕はなんだかドキドキした。山田はどう思っているのだろうか。僕と一緒のようにドキドキしているのだろうか。


山田「酒井さんと二人並んで裸になっていると、なんだかドキドキしちゃいますよ。俺、なんだかテレちゃいそうです。」


僕「二人ならんで裸になるって初めてだよね。」


そんな山田の顔をみていると、少しはにかんだ表情になっていた。この表情もなんだか僕の心を動かす。


大浴場への扉を開く。目の前には、解放感ある景色が広がる。大きな湯舟が2つある。一つは透明な色の温泉。もう一つは少し色づいた感じのお湯であった。ワイン風呂のようだった。野外には半露天風呂になったかなり大きな湯舟がある。その湯舟には、寝転がった入浴が楽しめるように枕木もついている個所が5か所あった。


僕「なんだか温泉を目にすると日本人のDNAがざわめくよね。」


山田「そうですよ。いろんなところへ行っているのに初めてですね。日本人のDNAに訴えかけてくるのは。」


僕と山田は大浴場へ一歩踏み込んだ。お互いシャワーをさっと浴び、いよいよ箱根の温泉に体を沈めていく。


僕「あぁ、気持ちいいですね。この温泉の感覚。最高だよね。」


山田「そうですよ。この温泉につかる感覚って最高っすよ。お湯につかるってなんだか心も体も解放されるって感じですよね。」


僕「日本人独特の文化ですよね。これぞ日本の醍醐味って感じですよね。」


山田「その通りですね。」


僕と山田は、早速、内風呂2つにそれぞれゆっくりと浸かった。僕は日本国内の旅行もいいものだなって感じていた。湯船で足を思いっきり延ばし背伸びをする。僕の隣で山田も同じように背伸びをしている。


山田「酒井さん。大きな風呂っていいですよね。解放されるって感じですよね。」


僕「そうだね。解放感が凄くあるからいいよね。山田君に聞いてみたかったんだけど、どうして今回僕を箱根に誘ったんですか。山田君の年齢だったら僕みたいなおじさんと一緒に温泉よりは、仲の良い友達と一緒に温泉に行ってたほうが楽しいんじゃかなって思っちゃってね。」


山田「俺、同級生とも普通に話もできるし、出かけることもあるんですが、俺にとっての酒井さんって特別な存在なんですよね。」


僕「特別?ですか?そう思ってくれるのはうれしいですけどね。こんなおじさんでもよければ、いつでも誘っていただければお供しますよ。」


山田「俺がいつも酒井さんにくっついているだけなんですよ。俺の意思でですけどね。」


僕「山田君と出会って以来、本当に弟のような存在ができたなって感じていますよ。」


山田「弟ですか?」


山田はなんだか寂しいような表情を浮かべているような感じを受けた。


僕「弟のように親近感があるってことですよ。山田君と初めてハノイ行きのフライトの中での出会いって、本当に僕の人生の中でも大切な出会いですよ。」


僕と山田はそんな会話をしながら、外の半露天風呂へと移った。


僕「そろそろ露天風呂へ行ってみませんか。」


山田「そうですね。折角なんですからね。半露天風呂で横になって空を見ながら、ゆっくりと温泉を堪能しましょう。」


僕と山田は少しだけ肌寒く感じながら、外風呂へ移動した。そういえば、僕は露天風呂に入るとなんだかわからないが風邪をひいちゃうってことを思い出した。


外気と温泉の湯気で何とも幻想的な景色を醸し出している。この何とも言えない光景も僕は好きだ。


僕と山田は、外風呂に5つある横になれる場所へ移った。二人とも枕木に頭を乗せ、箱根の夕間暮れの空を眺めていた。10分ぐらいの時間がったただろうか、不意に話しかけてきた。


山田「酒井さん、こうやって箱根の夕方の空を眺めながら湯船につかっていると、なんだか癒されますね。それと俺に勇気を与えてくれるような気がしてきました。」


僕「なんだか癒されるね。」


僕は山田の勇気を与えてくれるというフレーズが少々気になった。


僕「山田君、今回僕を箱根に誘ったのは、別に理由がるんじゃないのかなって思っちゃうんだよね。」


山田は僕の言葉に無言になった。それと同時に山田の決意というか何かを決心したというような雰囲気を感じ取った。僕のこんな時の感ってよく当たるんだよなって一人思っていた。山田の勇気を振り絞った言葉が山田の口を開かせた。


山田「酒井さん、今回酒井さんを箱根にお誘いしたのは、俺の秘密と俺の気持ちを伝えたいと思って誘ったんですよ。」


僕「山田君の気持ち?なんの気持ちですか。それと秘密って?」


山田は真剣な表情で僕のほうへ顔を向けた。



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